2015/11/04

深夜に水平円網を張るトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



2015年8月下旬

トリノフンダマシ♀の定点観察#3


午後22:56に気づいたら、隠れ家(ヤマグワ灌木の葉先)にクモの姿が無くなっていました。
遂にトリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)が水平円網を張り始めたのです。
赤外線の暗視カメラで造網過程を記録しました。

理想を言えば、三脚を立てて固定カメラで微速度撮影したいところです。
ところが、手持ちの機材ではどうしてもそのようなアングルを確保できない場所でした。
画面の奥をコンクリート三面張りの細い農業用水路(幅130cm)が左から右へ流れています。

両岸から雑草や灌木が繁茂して水面をほぼ覆い隠しています。
撮影地点から画面奥の用水路に向かって短い急斜面になって下っているため、土手の草むらに下手に踏み込めないのです。
水平円網の枠糸をクモがどこに固定しているか見えないので、私が下手に動いたり三脚を立てたりするとクモの糸を切って台無しにしてしまいそうです。

超巨大な(背の高い)三脚を立ててカメラを吊り下げれば良いかもしれません。
しかし、上から見下ろすと網やクモにピントを合わせるのが非常に困難です。(AF頼みの私のカメラでは無理!)
土手の草むらに予め黒布を敷いておけば、上から撮っても水平円網にピントを合わせやすくなるかもしれません。
あるいは逆に、水平円網の下に潜り込んで見上げるアングルも考えました。
それには地上すれすれにカメラを固定する背の低いコンパクトな三脚を急斜面に設置する必要があります。
また、暗視カメラの赤外線が届く範囲は限られています。
現場で試行錯誤した結果、水平円網に対して横から手持ちカメラで撮影しました。(深夜22:57〜23:43)
用水路脇の地表に置いた温度計で測った気温は23:07には18.2℃で、23:31には16.3℃まで下がりました。

トリノフンダマシの水平円網は非常に風変わりな作りになっているそうです。

  • 放射糸をかけると、足場糸を張らずに直接、粘着性のある横糸を張り始める。
  • 横糸は螺旋状の一筆書きで張るのではなく、同心円状に張る。
参考サイト(名著『クモの巣と網の不思議』の抜粋):トリノフンダマシの同心円状の円網


要点を予習していったものの、現場で初めて実際に観察すると、横からのアングルでは奥行きが分かり難く、今どの作業工程なのか把握できませんでした。

(どこからどこまでが放射糸を張っている工程なのか、いつから横糸を張り始めたのか、もし見分けられていたら長編動画を分割したいところです。)
動画撮影に拘らず、ライトで照らしながら観察に専念すれば造網過程を理解できたかもしれませんが、両立できないので難しいところです。
造網中も辺りを夜蛾が盛んに飛び回っています。
クモがスルスルと綱渡りする意外な速さに驚きました。



午後23:31、ようやくクモが水平円網の中心(こしき)にぶら下がり動かなくなりました。
遂に網が完成したようです。
所要時間は約34分間。
トリノフンダマシが腹面を上に向け円網の甑に占座している姿は昼間は絶対に見られないので、とても新鮮な光景でした。(私は初めて見ました!)
バッテリーが弱った赤外線投光機を交換したら急に明るくなり、弛んだ横糸(粘着糸)も見えるようになりました。
使用する糸の本数をかなり節約した円網ですが、鱗粉の多い蛾を捕らえるため粘着糸にかなり投資しているらしい。
写真で数えると、放射糸(縦糸)は7本?でした。
トリノフンダマシ類が網を張る一部始終を観察するという長年の目標が叶って感無量です。

比較のために、次は通常の水平円網を張る種類のクモの造網も観察してみたいものです。


【参考】
岩波新書『クモの不思議』p105-106によると、トリノフンダマシの造網は

まず土台糸を引いてから枠をつくり、その中心から周りへ、放射糸を7〜15本かけていく。それが終わると、足場糸をかけないで、いきなり周りから粘着糸をかけていく。まず一本の放射糸に粘着糸をつけると、その糸を引きながら網の中心までいき、隣の放射糸へ移る。それから中心を離れて周りの方へ、適当な所まで行って、そこに引いてきた糸をつける。こうして両放射糸間に粘着糸がかけられるわけだが、それはかなりたるんでいる。
 このような動作を繰り返しながら、次々と粘着糸を放射糸にかけていく。一番外側の粘着糸をかけ終わったとき、その着点を見ると、それは最初に出発したときの起点に一致している。つまり円になっているのである。次にそこから網の中心寄りに少し位置をずらして、前と反対の方向に、つまり前が右回りであったなら、今度は左回りに、前と同様な方法で粘着糸をかけていく。粘着糸をかけていくときの回り方は、その後も左右交互になる。それはジョロウグモが網をはるとき、振子のように体を右に左に移して、次々と粘着糸をかけていく―あの動作によく似ていて興味深い。
 粘着糸をかけるときには、一々網の中心まで行くのでたいへん時間がかかる。4〜6回まわりが多く、糸は外側に粗く、中心に近づくにつれ密になる。粘着糸はとてもよく粘る。虫がかかって粘着糸の一端が切れても、虫はそれから逃げられない。



つづく→#4:網にかかった蛾を梱包し隠れ家に運ぶトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



完成した水平円網を下から見上げる
上から見下ろすと網の下の草むらにピントが合ってしまう
【追記】
『クモを利用する策士、クモヒメバチ: 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い 』p201を読んでいたら、飼育下でクモの網を動画撮影する貴重なノウハウが書かれていました。
今後の参考になりそうなので、個人的な覚書としてポイントを抜粋しておきます。
色のない網は背景とのコントラストが大事で、背景を飛ばすために黒のカラーボードを網の後ろに置き、赤色LEDを網に照射して暗闇に網が浮き上がるようにする(節足動物は長波長の赤色光を認識することができず、クモやハチの概日周期に影響を与えないとされている)。その上で、カメラの露光を最大にし、赤色を拾わないように白黒モードで撮影すれば、クモの造網行動を含めかなりきれいに動画を撮れるようになっていた。



深夜のシロヒトリ(蛾)を捕獲



2015年8月下旬・深夜4:06

山麓のキャンプ場でログハウスの灯火下を白い蛾が飛び回っていました。
手掴みで一時捕獲してみると、シロヒトリChionarctia nivea)でした。
純白の翅に対して腹部と脚の赤い紋様が映えて綺麗ですね。

wikipediaの情報によると「(シロヒトリ)成虫は、敵が近付くと翅を上げ、威嚇する」らしいのですが、それらしい行動は見られませんでした。


2015/11/03

トリノフンダマシ♀(蜘蛛)の造網準備(枠糸張り?)【暗視映像】



2015年8月下旬

トリノフンダマシ♀の定点観察#2


農道と用水路に挟まれた茂みで見つけたトリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)は昼間、桑の灌木の葉裏に隠れています。
夜間行われる造網を観察したくて、準備万端でやって来ました。
19:40に観察開始。 (気温23.8℃、湿度59%)
トリノフンダマシ♀は2個の卵嚢をガードするように、近くの葉裏を隠れ家としています。

初めトリノフンダマシ♀は隠れ家のヤマグワの葉先にしがみついています。
頭を右に向いているので、糸を吹き流している行動ではありません。
左下に卵嚢がひとつ見えます。
夜空にパンして月を写しました(月齢12.5)。

次に気づくと、クモは糸にぶら下がっていました。
よく見ると、糸は隠れ家から斜め下に張られているようです。
糸疣を右に向けているので、糸を風に乗せて吹き流しているのかもしれません。
右に伸びた糸はどこに付着しているのか、暗闇では見えません。

ようやく、水平に張られた枠糸を右に渡り始めました。
クモの自重で糸が少し弛みます。
風で揺れる中、クモはなぜか綱渡りを中断して元の隠れ家に引き返しました。
枠糸を二重に張り直して補強したのかもしれませんが、よく分かりません。
風や周囲の明るさをチェックして、造網時刻には未だ早いと判断したのですかね?
桑の葉先から糸でぶら下がると、再び静止。

ぶら下がった糸の先でクモはくるくる回っています。(回転ではなく偏揺れ)
歩脚の動きが何やら糸を繰り出しているようにも見えます。
動きが止まりました。

右に伸びた枠を手繰り寄せています。
少し懸垂下降した位置で静止。
糸疣を広げているように見えるので、吹き流し中なのかも。

以上、19:40〜22:42に断続的に撮った赤外線の暗視映像をまとめました。
徹夜で観察してみて一番辛かったのは、本格的に造網を始めるまでのこの時間帯でした。
クモが何をしているのか、いまいち解釈不能です。
退屈で睡魔との戦いでした。
付近を夜蛾が飛び回っているというのに、クモは未だ造網を初めません。

ちなみに、この日の月の出時刻は16:14、月南中時は21:33、月の入りは1:50、月齢12.5でした。
満月に近いため、月明かりで地面に影がくっきりできるほどでした。
周囲は林に囲まれ町の明かりも見えないのに、一晩中、完全な真っ暗闇にはなりませんでした。
我ながらヒトの暗視順応に感心しました。
後半は雲が多くなり、月も星も見えなくなりました。
流れ星を目撃したので、何か良いことありそう…。

▼関連記事(4年前も造網を観察できず仕舞いでした。)オオトリノフンダマシ♀の造網準備(枠糸吹き流し?)

つづく→#3:深夜に水平円網を張るトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



【追記】
『クモの科学最前線』p53によると、
トリノフンダマシでは、糸の粘性が数時間で低下し、その後はまったく粘らなくなってしまう。(中略)ただ、トリノフンダマシの糸でも実験的に湿度を100%近くに保つと、粘性は数時間しても低下しない。言い換えると、トリノフンダマシの糸は、高湿度でしか機能しないのである。そのためか、トリノフンダマシの造網の時間帯は不規則で、湿度が95%以上にならないと造網しない。湿った日は日没直後に造網するが、夏の乾燥した日には朝露が下りる午前3時頃まで網を張らない。他の円網クモでは規則正しい時間に網を張るのとは好対照である。



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