2015/01/23

破壊された巣とチャイロスズメバチ♀残党



2014年9月下旬
▼前回の記事
チャイロスズメバチの巣を安全に撮影するには?

斜面に営巣したチャイロスズメバチの定点観察#4

一脚ビデオカメラを用いた偵察を繰り返しても撮影アングルの調節が難しく、もどかしいばかりです。
意を決して斜面を回り込んでチャイロスズメバチVespa dybowskii)の巣に下から近づいてみることにしました。
一週間前は藪に阻まれている間にすぐ気づかれてしまい、何匹もの蜂が私の体にまとわりつくように飛び回り、撮影どころではなく撤退しました。
ところが今回はなぜか蜂の警戒レベルが低く、黒いカメラを持参しても攻撃されずストロボを焚いても大丈夫でした。

残念ながら巣の外被は大きく壊されており、原形を留めていません。
そもそも地中に営巣するはずですが、外被や巣盤が露出しているのは不思議です。
崖を登って近づく途中で巣盤の破片が3つ転がっていました。
拾い集めてまずこれを写真で記録しました。
育房は全て空でした。
卵や蜂の子(幼虫、蛹)は入っておらず、成虫が羽化した後のようです。

拾い集めた巣盤の欠片と15cm定規
巣盤の裏面(天井)には白かび

落胆をぐっとこらえて、巣を壊した容疑者を推理してみます。

  1. 台風や大雨の増水で崖崩れが起きた?
  2. 蜂の子が目当てのツキノワグマに壊された?
  3. オオスズメバチに襲撃された?
  4. ハチクマに捕食された?
  5. 林業従事者や登山客に見つかり駆除された?(スズメバチにとって最大の天敵はヒトです。)
先ずは天災である可能性(1)を考えてみます。
巣の真上を通る林道の路肩が崩れていないのは不自然な気がします。

(4)幻の猛禽類ハチクマはスズメバチの巣を襲って壊し、蜂の子が詰まった巣盤を自分の巣に持ち帰って雛鳥に給餌します。
巣盤に蜂の子が入っていなかったので、外被を壊しただけで帰ったのでしょうか?
しかし山形県でハチクマは絶滅危惧種Ⅱ類(VU)に登録されており、県内の棲息分布は「少ない、または局地的」とされています。
当然私もフィールドで見たことはありません。

(2)ツキノワグマ以外にも外来種アライグマがスズメバチの巣を掘り返して捕食することを教えてもらいました。(参考
果たして多雪地帯にもアライグマが進出しているのか、少なくとも私は未だ一度も見たことがありません。

巣が壊された時期もよく分かりません。

社会寄生性であるチャイロスズメバチの巣を山で見つけるチャンスは滅多に無いのに、定点観察の間隔が1週間も開いてしまったことが悔やまれます。
しかし7日前に撮った映像を見直すと、既に巣の外被が斜面に散乱しているようにも見えます。(茂みのせいで巣にピントが合っていない)

タイムマシンで過去に戻れたらなー。

本種は巣を守る際の攻撃性が強いことで知られているのに、斜面の下から巣に近づいても残党の♀はあまり攻撃してこないのが不思議でなりませんでした。

緊張していたのに拍子抜けしました。
前回のように私の服にまとわりつくように飛び回ることはありませんでした。
巣が健在ならもっと激しく防衛するはずです。
もはや無気力というか諦め気味なのでしょうか?
クマなど大型獣に巣を壊された記憶が残っているのであれば、私を激しく襲ってきそうな気がします。
残党♀はワーカーではなく、実は穏健な新女王なのだろうか?(私には見分けが付きません)

壊された巣に居残っている健気なチャイロスズメバチは5〜6匹ですが、壊滅状態の巣を修復する個体は1匹も見られませんでした。
巣材を搬入するワーカーも見かけません。
世話をする幼虫も居ないので、巣に残っても呆然とウロウロしたり身繕いしたりするばかりです。
在巣の2匹が出会い頭に口付けして栄養交換のような挨拶をすることがありました。
新女王であれば働かないのも納得です。

これから巣が修復される望みは薄い気がしますが、念のため更に経過観察してみます。
もしかすると、壊滅状態の巣を修復するのは無理と諦め、コロニーの主力部隊はどこか安全な場所に引っ越して新たに巣を再建している可能性もありますね。

つづく→シリーズ#5:チャイロスズメバチ@杉


営巣地の全景(崖を見上げる)
営巣地の全景(崖を見上げる)

蛾の幼虫を捕食するクチブトカメムシ



2014年9月下旬

つづら折りの山道の下草(木苺の一種)に乗った茶色のカメムシが蛾の幼虫を捕食しています。
側角が鋭く、クチブトカメムシPicromerus lewisi)だと思うのですが、どうでしょう?※
口吻を突き刺して吸汁している獲物は毛虫ではなく芋虫タイプでした。
日差しが強く、どうしても白飛び気味になってしまいます。

※ Web東奥のあおもり昆虫記サイトによると、

似た種にオオクチブトカメムシがあるが(中略)クチブトカメムシはオオクチブトと違って、森林地帯で見られる。クチブトカメムシは肉食・捕食性で、ハムシなどの幼虫や小さな昆虫を捕らえて食べる。



撮影後に採集しました。
飼育して狩りの瞬間を動画に撮りたかったのですが、忙しくて手が回らず(生き餌を調達できず)、結局逃してやりました。
以下は標本(生体)写真。


2015/01/22

チャイロスズメバチの巣を安全に撮影するには?



2014年9月下旬

斜面に営巣したチャイロスズメバチの定点観察#3

▼前回の記事
斜面の巣に出入りするチャイロスズメバチ♀の羽ばたき【ハイスピード動画】

山中で見つけたチャイロスズメバチVespa dybowskii)営巣地の環境は、急な南西斜面のスギ植林地です。
スギは未だ若く、植林後の手入れがされていないためミズナラやコナラなどの灌木が密生して藪になっています。
林道から2〜3m下の崖の途中に穴を掘って営巣しているようです。
斜面の上から見下ろしても全く巣は見えません。
前回は斜面の横から近づこうとするも、警戒した蜂にまとわりつかれ危なくて撮影どころではありませんでした。

高価な防護服を買わなくても安全に巣を撮影する方法は無いものか、一週間かけて作戦をあれこれ考えました。
なるべく手持ちの機材を組み合わせて工夫します。

  1. ビデオカメラに一脚を取り付けて林道から巣口に差し出せば映像が撮れるか?
  2. 釣り竿でカメラを吊り下げれば映像が撮れるか?(操作が難しそう)
  3. カメラ搭載のラジコンヘリ(ドローン)を巣まで飛ばす?(茂みが邪魔で上手く飛ばせないかも)
  4. 蜂が飛ばない夜なら安全に近づけるか?(赤外線の暗視カメラで撮影)

とりあえず作戦其壱を決行してみます。
日本のスズメバチ類は巣の近くで動く黒い物体に対して攻撃性を示すので、刺激しないようにまず黒い一脚に白いビニール袋を巻いて覆いました。
次にビデオカメラの黒い部分(液晶画面裏側とハンドグリップ)や一脚のクイックシューにも白いビニールテープを貼ってマスキングしました。
これはかなり奏功しました。
どうせならカメラ全体を白いビニール袋で包み、レンズ部分だけ丸い窓を開ければ準備が簡単だったかもしれません。
(私の場合はあくまでも撮影が目的なのですが、巣の様子を「見る」だけなら一脚に鏡を取り付けても良かったかもしれません。)

蜂が素早く一脚を伝って来て手を刺される危険性が怖いので、手袋は白いゴム手袋と軍手を二重に装着しました。
手首の隙間から肌が露出しないように注意します。(ビニールテープを手首に巻いて密着すべき)
安全第一で、いざとなれば咄嗟に機材を投げ捨てる覚悟を決めました。
他の服装についてもスズメバチの本を参考に対策しました。
フルフェイスのヘルメットは大袈裟かもしれませんが、必ず頭髪を覆い隠さないといけません。
暑くても我慢、我慢。



一脚を目一杯伸ばし、林道からビデオカメラを巣まで慎重に下ろして巣のありそうな辺りの崖を山勘で撮ってみます。
カメラをゆっくり引き上げ、撮れた映像を直後に確認。
撮影アングルは試行錯誤するしかありません。
映像の天地が逆転しているので難しいです…。
GoProに代表される今時のアクションカメラがあれば、携帯電話と連動したライブプレビュー機能も搭載されているみたいなので、撮影中の画角を確認するのも容易でしょう。
無い物ねだりしても仕方がないので、手持ちの機材で頑張ります。

かなり緊張したものの、案ずるより産むが易しでなんとか無事に上手く行きました。
やはり撮影を繰り返すとワーカー♀が益々攻撃的になりました。
引き上げるビデオカメラにしがみつく個体もいました。
機材に噛み付くほどではないものの、油断できません。
蜂を手荒に振り落としたりせずに、巣から離れ偵察機材を放っておけば蜂は自然に離れてくれます。

さて苦心して偵察した結果、意外に小さな巣と判明。
崖の木の根の下に営巣しているようです。
地中ではなく外被が剥き出しになっているのが不思議でした。
残念ながら巣はかなり壊されているようで、巣盤も剥き出しになっています。

この撮影法ではもどかしいので意を決して巣に近づき、直接撮影してみることにしました。

つづく→シリーズ#4:破壊された巣に残るチャイロスズメバチ♀



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