2015/01/14

涼しい夜も巣口で扇風行動するモンスズメバチ♀【暗視映像】



2014年9月中旬
▼前回の記事
モンスズメバチ♀の夜間飛行【暗視映像】

モンスズメバチの巣の定点観察12

モンスズメバチVespa crabro flavofasciata)の門衛はこの日の夜も巣口で扇風行動を続けていました。
赤外線の暗視ビデオカメラを手に持ち巣にそっと近づいて撮った時刻は18:22および18:42 pm。

巣口の左右で2匹の門衛が同時に扇風しています。
以前見かけた直列二連の扇風行動とは違い、今回は並列ですね。

少し時間をあけてから(20分後に)再び撮影しても、同時に2〜3匹の扇風役が巣口で踏ん張り懸命に羽ばたいていました。
寝苦しい熱帯夜ではなく、むしろ少し肌寒いぐらいでした。

外気温を測ると16℃。
同じ日の昼間に観察したときよりも涼しい夜の方が扇風役が多いのは不思議でなりません。
果たして本当に巣を冷やすための行動なのか、ますます疑念が強まりました。

蜂の観察をアシナガバチから始めた私の目にはとても奇異に映ります。
同じスズメバチ科でもアシナガバチ類の巣盤は外被がなく開放型なので、外気温が下がると扇風行動は不要になります。
やや肌寒いぐらいの気温16℃で扇風行動するなんて、アシナガバチではとても考えられません。
保温のために巣盤を外被で覆うスズメバチ属で同様の扇風行動を観察したのは、このモンスズメバチ以外では未だ一度しかありません。
昔にコガタスズメバチの巣で扇風行動を観察したときは、気温29℃の暑さでした。

したがって今回も普通に考えたら、樹洞内が夜でも30℃近くないといけません。(測ってみなければ分かりませんが、そんなことあり得ますかね?)
むしろ樹洞内が酸欠になりがち(二酸化炭素濃度が高い)なので換気が必要だ、という解釈の方が未だ自然な気がします。

赤外線投光機を近くから照射したせいでモンスズメバチが暑さを感じて扇風行動を始めたのでしょうか?
観察行為自体が対象生物の行動を変えてしまった可能性(観測問題)は否定できると思います。
その理由は、


  1. 赤外線を照射しても巣口にいる門衛のごく少数しか扇風していない。
  2. 少し時間をあけてから(20分後に)再び撮影しても変わらず扇風行動を続けていた。

樹洞内がそんなに暑いのか、温度や二酸化炭素濃度を測ってみたいのですけど、高価な防護服を持っていないのでさすがに危険なことはできません。(測定器も値が張りますし。) 
もしミニ扇風機を持参して樹洞に送風したら、加勢された扇風役の蜂はどんな反応をするでしょうね? 
ヘアドライヤーの熱風を送り込んだら? 
冷たいドライアイス(固体CO2)を樹洞に放り込んだら? 
防護服が無いと出来ることは限られてしまうのですが、実験のアイデアだけなら幾つも思いつきます。

【追記】
蜂の防護服は高価ですが、レンタルしてくれる会社を幾つかインターネット上で見つけました。¥9,800/日


扇風行動の羽音を声紋解析してみる 

扇風行動が始まるとブブブブ♪という重低音が長時間響くのですぐ分かります。 
樹洞内で反響しているのでしょう。 
本種はスズメバチ属では珍しい夜行性です。(正確には両行性) 
暗い森を飛んで帰巣する外役ワーカーに対して灯台のように巣の位置を知らせるために門衛が羽音を立てているのではないか?という大胆な仮説を思いつきました。 
コロニー毎に微妙に異なる周波数を発していたりして…。 
録音した扇風行動の羽音を別の木からスピーカーで流し(プレイバック実験)、外役ワーカーの帰巣能力を撹乱できるか調べたら面白そうです。
先走った法螺話はさておき、とりあえず扇風行動の羽音を声紋解析してみることにしました。
扇風行動と飛翔時の羽音とを区別しないといけません。
飛んで出入りする蜂が途絶えた映像後半部のオリジナルMTS動画ファイルから音声をWAVファイルにデコードしてからスペクトログラムを描いてみました。


20kHz以上の高音域に見られる断続的で思わせぶりな声紋は、背景で鳴いている直翅目(コオロギ?)の声かもしれません。
16kHz付近に持続する強い波形があり、その半分の8kHzでは逆にすっぽりと波形が抜けている現象が不思議ですね。 
これら低音域の波形が扇風行動によるものだと思うのですが、音響学の専門家に解説してもらいたいものです。 
樹洞に反響しているとか扇風役2匹の羽音が一部打ち消し合っているとか、複雑な現象なのでしょうか?
【追記】翌年、全く別の被写体を撮っても8, 16 kHzの持続する信号のパターンが再現されました。これはビデオカメラ特有のノイズかもしれません。

一方、巣に出入りする蜂が何度か飛び回る映像前半部の音声からも同様にスペクトログラムを描いてみましょう。 
二つのグラフを見比べると、飛翔時の羽ばたき成分がどれか分かってきました。(低音域の波形でムラのある部分)

扇風行動の羽音のような低音は、障害物を越えて遠くまで届くものの指向性が弱いという性質があります。
巣の位置や方角を正確に知らせたいのであれば、直翅類♂の鳴き声のように指向性の強い高音を使うべきなので、仮説としては弱いかもしれません。



つづく→シリーズ#13



【追記2】
スズメバチではありませんが、同じく真社会性昆虫であるマルハナバチに関する本を読んでいたら、似たような習性が書いてあって興味深く思いました。
『マルハナバチの謎〈上巻〉 (ハリフマンの昆虫ウオッチング・社会性昆虫記)』で第5章「マルハナバチにラッパ手がいるのか」(p121-135)まるまる割いてこの不思議な行動について論じています。
この問題は、300年以上前にオランダの学者ヨハン・ゲダルトが、にわかには信じ難い奇妙な観察記録を残したことから始まりました。
マルハナバチの巣で毎朝起床を知らせる「鼓手」のハチがいるというのです。
その後、何人もの昆虫学者が研究を進め、そのようなハチは「ラッパ手」と呼ばれるようになりました。
ラッパ手マルハナバチの仕事について三つの意見がでたことになります。第一は起床ラッパだという意見。ラッパの音自体には何の目的もなく、若いハチがはねをトレーニングしているためにおきる羽音なのだという第二の意見、そして、第三は、はねをふるわせて巣の中の換気をしているのだという意見です。(p127より引用)

  • ラッパ手が巣から出てくるのは夜中とか夜明けが多い。(p126)
  • ラッパ手は見張り番だったのです。(中略)ラッパ手は餌の採集には出ません。(p130)
  • 六月末から夏の終わりまで毎朝同じマルハナバチがラッパを吹きました。(p130)
  • ラッパ手を取り除くと、それに代わって必ず別のラッパ手がでてくる。(p135)

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