2016/02/02

条網を綱渡りする夜のオナガグモ【蜘蛛:暗視映像】



2015年10月上旬・深夜3:08〜3:46・気温11.8℃

イシサワオニグモ♀の垂直円網を一晩中見張っていると、深夜未明に意外なクモが登場しました。
緑色の細長いオナガグモが空中を綱渡りして移動しています。
初めは居候クモの仲間かと思いきや、オナガグモAriamnes cylindrogaster)でした。
赤外線の暗視ビデオカメラで撮ると、AF頼みではピント合わせに難儀しました。
(冒頭で撮影アングルが定まらないのは奥ピンになりがちなAFでなんとか合焦しようと背景が抜けたアングルを探しているためです。)


オナガグモは「クモを食べるクモ」として知られているので、まさかイシサワオニグモ♀を積極的に捕食しに来たのかと思い、緊張で一気に眠気が吹き飛びました。
しかし様子を見ていると、隠れ家に潜んでいるイシサワオニグモを誘き寄せたり狩ろうとしてるのではなさそうで、ただの「通りすがり」のようでした。

草木も眠る丑三つ時に細長い異形のクモが宙に浮かんでいる様子はちょっと幻想的です。
上の木の枝から糸を引いて懸垂下降して来たのかもしれません。

イシサワオニグモの円網の手前に居ました。
オナガグモは横に張られた糸を伝って左上に移動します。
自ら吹き流しをして張った糸なのかな?
もしかすると条網を張る造網行動なのかもしれません。
しかし図鑑や「クモ生理生態事典 2016」を参照してもオナガグモの造網時刻について記述はありませんでした。
土手に生えたキイチゴ?の葉先に条網の端は固定されているようです。
最後の映像では歩脚の先を舐めて身繕いしていました。

クモ生理生態事典 2016」でオナガグモの移動法に関して次のような記述がありました。

糸上を前進する時には第1・2脚で糸をたぐり,第3脚で糸を丸める.この時,右1脚で確保された糸は左2脚へ送られ左3脚で丸められる. 方向転換の時は前方と後方の糸を糸いぼの箇所でつなぎ,転換して,前部で糸を切断してから,新しい糸を糸いぼから出しながら前進する. 上方へ進む時には糸いぼから前へ糸がつながっている点が水平の糸上を進む時と異なる点である〔新海明AT49/50〕.
しかし、今回の映像ではその奇妙な移動法を確認できませんでした。(明るい昼間にしっかり接写すべき)

ちなみに、午前3:20に測定した気温は11.8℃、湿度100%。

つづく


写真で性別を見分けられるか?
葉に包まれた白い構造物はクモの卵嚢か蛾の繭か?

宿主キイロスズメバチ♂から脱出したハリガネムシ



2015年10月中旬

キイロスズメバチ巣の定点観察#7


巣の下で弱々しく徘徊していたキイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)♂を生け捕りにして持ち帰りました。

▼前回の記事 
体内寄生されて弱ったキイロスズメバチ♂
毒瓶は使用していませんが、翌日には採集容器内で息絶えていました。
死骸の傍らでハリガネムシの一種が蠢いていて仰天しました!
生きているハリガネムシを見るのはこれが初めてです。
宿主から脱出したハリガネムシ(おそらく成虫)の色は乳白色で、表面は艶があります。
ちなみに円形プラスチック容器の直径は3cm。
ハリガネムシは宿主の体長の何倍あるでしょうか。
やがてハリガネムシはとぐろを巻きました。
活発に動いている方が頭部なのでしょうか。
頭部に目はあるのかな?と思い、マクロレンズで強拡大しても眼点などは見つかりませんでした。
できれば宿主の腹端から脱出する様子を見たかったですね。

キイロスズメバチの営巣地の横には渓流が流れていました。
ハリガネムシの生活史から、次のようなストーリーが考えられます。
ハリガネムシに寄生された中間宿主の水生昆虫や直翅類(コオロギやカマドウマなど)をキイロスズメバチのワーカー♀が狩って、その肉団子を給餌された蜂の子が体内寄生されたまま成虫♂まで育ったと思われます。
スズメバチの成虫の主食は巣内の幼虫から貰う栄養交換液であって、固形の獲物を自らは食べられません。
また、雄蜂は狩りを行いません。
したがって、ハリガネムシに寄生されたのは成虫の時期ではなく、その前からに違いありません。
もし中間宿主内のハリガネムシが成虫だったら肉団子にする際に噛み殺されてしまったはずです。
ハリガネムシの小さな幼虫が運良くキイロスズメバチ♂幼虫に飲み込まれたのでしょう。

キイロスズメバチが蛹になっても変態が完了するまでハリガネムシは身を潜めていて、成虫になってから一気に成長したと思われます。
巣の外に捨てていた多数のキイロスズメバチ幼虫も同じくハリガネムシに体内寄生されていたのかもしれない、と想像しました。
(もちろん、キイロスズメバチ幼虫の大量遺棄事件とハリガネムシの寄生は無関係である可能性もあります。)

もし私が採集しなければ、ハリガネムシに寄生されたキイロスズメバチ♂はヨロヨロと渓流に向かい、入水自殺したでしょうか?
川沿いで待ち構えていれば、そのような宿主操作による異常行動が観察できるのかな?

成虫になったハリガネムシは宿主の脳にある種のタンパク質を注入し、宿主を操作して水に飛び込ませ、宿主の尻から出る。(wikipediaより)

ハリガネムシに寄生された昆虫は生殖能力を失うらしい。
死んだキイロスズメバチ♂を解剖して精巣の状態を調べるべきでしたね。(乾燥標本にしてしまったので無理かも…?)
今回は動揺してしまったので(正直言って確かにグロい!)、次回の宿題です。

ハリガネムシを記念にエタノール液浸標本として保存してみることにしました。
するとハリガネムシはコイル状に丸まりコンパクトになりました。
死んで乾燥すれば針金のようにカチカチに硬くなるらしい。

▼関連記事 
カマドウマ♀に寄生したハリガネムシの最期

エタノール漬けにした後で思ったのですが、脱出したハリガネムシを水槽で飼うことは可能ですかね?
1匹だけでは交尾・産卵行動を見るのは無理ですけど、水中で泳ぐシーンだけでも動画に撮れば良かったですね。(ハリガネムシは皮膚呼吸なのかな?)

『スズメバチの科学』を紐解いてみると、スズメバチの天敵のひとつとしてセンチュウが紹介されていました。
しかし、p65に掲載された写真「キイロスズメバチの体内から現れたセンチュウ」はハリガネムシの間違いではないでしょうか?



陰山大輔『消えるオス:昆虫の性をあやつる微生物の戦略 (DOJIN選書)』p43によると、
ハリガネムシ(線虫とは分類学的には少し異なる類線形動物門に属する寄生虫)も宿主の行動を操作して水辺に向かうことが知られており…(後略)。




つづく→#8:キイロスズメバチ♀による外被の増築と巣口の拡張【6倍速映像】





2016/02/01

アメリカセンダングサの花を食べなくなったイシサワオニグモ♀(蜘蛛)



2015年10月上旬・午前5:44〜5:52

花を食べる造網性クモの謎#7:再現実験2


網の張り替えを期待して徹夜で監視していたら、夜が白々と明けてきました。
赤外線の暗視カメラを使わなくても普通のカメラでなんとかギリギリ映るぐらいの明るさになりました。
※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。

映像冒頭でまず信号糸を説明します。
キイチゴ?葉裏の隠れ家に居るイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)は、歩脚の先で信号糸に触れています。
その信号糸を下に辿ると、垂直円網の甑につながっています。
円網を横から撮ると、縦糸とは別に信号糸が甑から直接隠れ家まで伸びていることが分かります。※
網の右下はだいぶ破損が激しいですね。
もし信号糸をこっそり切ると、クモは網に獲物がかかっても気づかなくなるのでしょうか?
異変に気づいて信号糸をすぐに張り直すでしょうか?(いつかやってみたい実験です)


※【追記】
『田んぼの生きものたち:クモ』p28によると、オニグモの仲間が張るのは「呼糸こし円網」と呼ぶらしい。
網の中心部から一本の糸(受信糸)を円網の外に引いて、葉の中などに住居をつくる。




眠気覚ましに懸案の花給餌実験をしつこく繰り返してみました。
近くに生えたアメリカセンダングサの頭花を摘んできてイシサワオニグモ♀の垂直円網に向かって投げつけると、画角から外れ網の下部に付いてしまいました。
隠れ家(キイチゴ?葉裏)に潜んでいたクモがすかさず信号糸を伝って甑まで急行します。
歩脚の先で恐る恐る花に触れると、周囲の糸を噛み切り始めました。
捕帯による梱包ラッピングを行わず、異物を網から捨てました。

その場で網を引き締めて揺らし、他の異物の有無を確かめています。
甑に戻ってからも同様の確認作業を繰り返します。
下向きに占座すると、歩脚の先を舐めて身繕い。
網の引き締めを繰り返すのは、網を張り替えるべきかどうか全体の破損状況を評価しているのでしょうか?
最後は信号糸を伝い隠れ家に戻りました。
上から伸びた信号糸を甑で切って手繰り寄せながら登ると同時に、新たに信号糸を張り直しているようにも見えます。

途中でピンぼけになり、良く分かりませんでした(薄暗い条件ではカメラのAFが効きにくいのです)。
ちなみにこの日の日の出時刻は公式発表で5:42。

アメリカセンダングサの花を繰り返し給餌しても二度と食べてくれず、私は落胆しました。
なぜだ…?
逆に5日前にはどうして食べてくれたのか、不思議になります。
花の種類を変えてみるのはどうでしょう?

つづく→#8:イシサワオニグモ♀(蜘蛛)の網にノコンギクの花を給餌すると…?


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