2015/11/03

トリノフンダマシ♀(蜘蛛)の造網準備(枠糸張り?)【暗視映像】



2015年8月下旬

トリノフンダマシ♀の定点観察#2


農道と用水路に挟まれた茂みで見つけたトリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)は昼間、桑の灌木の葉裏に隠れています。
夜間行われる造網を観察したくて、準備万端でやって来ました。
19:40に観察開始。 (気温23.8℃、湿度59%)
トリノフンダマシ♀は2個の卵嚢をガードするように、近くの葉裏を隠れ家としています。

初めトリノフンダマシ♀は隠れ家のヤマグワの葉先にしがみついています。
頭を右に向いているので、糸を吹き流している行動ではありません。
左下に卵嚢がひとつ見えます。
夜空にパンして月を写しました(月齢12.5)。

次に気づくと、クモは糸にぶら下がっていました。
よく見ると、糸は隠れ家から斜め下に張られているようです。
糸疣を右に向けているので、糸を風に乗せて吹き流しているのかもしれません。
右に伸びた糸はどこに付着しているのか、暗闇では見えません。

ようやく、水平に張られた枠糸を右に渡り始めました。
クモの自重で糸が少し弛みます。
風で揺れる中、クモはなぜか綱渡りを中断して元の隠れ家に引き返しました。
枠糸を二重に張り直して補強したのかもしれませんが、よく分かりません。
風や周囲の明るさをチェックして、造網時刻には未だ早いと判断したのですかね?
桑の葉先から糸でぶら下がると、再び静止。

ぶら下がった糸の先でクモはくるくる回っています。(回転ではなく偏揺れ)
歩脚の動きが何やら糸を繰り出しているようにも見えます。
動きが止まりました。

右に伸びた枠を手繰り寄せています。
少し懸垂下降した位置で静止。
糸疣を広げているように見えるので、吹き流し中なのかも。

以上、19:40〜22:42に断続的に撮った赤外線の暗視映像をまとめました。
徹夜で観察してみて一番辛かったのは、本格的に造網を始めるまでのこの時間帯でした。
クモが何をしているのか、いまいち解釈不能です。
退屈で睡魔との戦いでした。
付近を夜蛾が飛び回っているというのに、クモは未だ造網を初めません。

ちなみに、この日の月の出時刻は16:14、月南中時は21:33、月の入りは1:50、月齢12.5でした。
満月に近いため、月明かりで地面に影がくっきりできるほどでした。
周囲は林に囲まれ町の明かりも見えないのに、一晩中、完全な真っ暗闇にはなりませんでした。
我ながらヒトの暗視順応に感心しました。
後半は雲が多くなり、月も星も見えなくなりました。
流れ星を目撃したので、何か良いことありそう…。

▼関連記事(4年前も造網を観察できず仕舞いでした。)オオトリノフンダマシ♀の造網準備(枠糸吹き流し?)

つづく→#3:深夜に水平円網を張るトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



【追記】
『クモの科学最前線』p53によると、
トリノフンダマシでは、糸の粘性が数時間で低下し、その後はまったく粘らなくなってしまう。(中略)ただ、トリノフンダマシの糸でも実験的に湿度を100%近くに保つと、粘性は数時間しても低下しない。言い換えると、トリノフンダマシの糸は、高湿度でしか機能しないのである。そのためか、トリノフンダマシの造網の時間帯は不規則で、湿度が95%以上にならないと造網しない。湿った日は日没直後に造網するが、夏の乾燥した日には朝露が下りる午前3時頃まで網を張らない。他の円網クモでは規則正しい時間に網を張るのとは好対照である。



電線に離着陸するムクドリの群れ【野鳥:ハイスピード動画】



2015年8月中旬

飛来したムクドリSturnus cineraceus)の群れが郊外の電線に鈴なりに集結しました。
群れで離着陸する飛翔シーンを240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
特に群れで電線に吸い込まれるように続々と着陸する様子は圧巻で、なぜか見とれてしまいます。
逆に飛び立ちは三々五々行います。
辺りに点在するパッチ状の林に向かったようです。
カメラの仕様でハイスピード撮影中はムクドリの賑やかな鳴き声が録音されていないのは残念。

▼関連記事
飛べ!ムクドリの群れ【野鳥:ハイスピード動画】



2015/11/02

キボシアシナガバチの巣に寄生したトビスジアツバ♂(蛾)



2015年8月下旬

キボシアシナガバチ巣の定点観察@柳#16


コロニーが早期解散した後のキボシアシナガバチPolistes nipponensis)の巣を採集して密閉容器に隔離しました。
室内に放置して10日後の早朝、今まで見たことのない地味な寄生蛾が羽化してきてビックリ仰天。
前翅長11.5mm。

※ 映像で照明なしの薄暗い前半部は動画編集時に自動色調補正を施してあります。



いつもお世話になっている蛾像掲示板に投稿して問い合わせてみると、おそらくトビスジアツバ♂(Herminia tarsicrinalis)だろうとhitoriさんから教えてもらいました。

まさかヤガ科のアツバ類がアシナガバチの巣に寄生していたとは、意外な新発見でした。
これまでの知見では、Herminia属の幼虫は枯葉を食すらしい。
ちなみにトビスジアツバに近縁な(同じHerminia属)クロスジアツバの幼虫が枯葉以外にオトシブミ(おそらく葉を巻いた揺籃を指すのでしょう)を食べることがあるというのは、とても興味深く思いました。

今回の件でひねくれた解釈をすれば、柳の枯葉を食べて育ったトビスジアツバの終齢幼虫が蜂の空き巣にたまたま潜り込んで蛹化したのかもしれません。
しかし状況証拠からアシナガバチの巣を食害したと考えるのが自然だと思います。
蜂の巣を採集した際は細い巣柄をカットして古巣だけを採取しました。
柳の枝葉は飼育容器に全く入れておらず、枯葉の混入もあり得ません。
同種の蛾がもう一頭羽化してくれば寄生説が有利になるはずですが、古巣の飼育を続けても柳の下に二匹目のドジョウは居ませんでした。

今季定点観察してきたこのコロニーはなぜか早く解散してしまいました。
古巣をよく見ると、一部の育房の内部は寄生蛾の幼虫が張り巡らしたような不規則網で汚れていました。
また、巣盤の側面に幾つか虫喰い穴が開いていました。
今回の蛾が羽化したことで蜂の巣に新しい穴は開いていないようです。
別の可能性としては、寄生蜂が羽化して食い破ったり、野鳥がつついたり、天敵ヒメスズメバチに襲撃されたりして出来た穴なのかもしれませんが、私には分かりません。

実は古巣を採取した夜に、明らかに蜂の子とは異なる謎のイモムシが中で蠢いている気がしました。
飼育中に蛾の幼虫が蜂の巣を食害するシーンを動画に撮っていれば決定的な証拠になるのですけど、忙しくて手が回らないうちに蛾の成虫が羽化してしまいました。
これまで私のフィールドで採集したキアシナガバチおよびコアシナガバチの古巣から、寄生蛾としてカザリバガ科マダラトガリホソガの一種Anatrachyntis sp.を得ています。
今回もどうせマダラトガリホソガが羽化してくるのだろうと予想していたのです。
キボシアシナガバチのコロニーが早期に解散したのは、蛾の幼虫が巣に寄生したせいで逃去した(営巣地を変更した)のだろうと想像しました。

フィールドで採集したトビスジアツバ♀から採卵し、アシナガバチの巣を与えてトビスジアツバ幼虫が成虫まで育つかどうか確認できれば完璧でしょう。

YAMKENさんの助言に従い、食害された巣材について考察してみます。
キボシアシナガバチが巣材を集めるシーンは未だ直接観察できていません。
一般論で言うと、アシナガバチ類は木の樹皮を齧り取って唾液分泌物と混ぜたパルプで紙製の巣を造ります。
Polistes属のアシナガバチは死んだ木の繊維を巣材とすることが多いようです。
木の杭(木柱)とかベニヤ板、材木の表面などをよく齧っています。
アシナガバチの巣がセルロースを含むという点は、トビスジアツバ幼虫が好む枯葉と共通していそうです。
ただし、元々が木質なのでリグニンを枯葉よりもかなり多く含んでいるはずです。
これを食べて分解するには専門の消化酵素(または腸内細菌)が必要になる気がします。
樹皮や材を好んで食べるのでなければ、本来枯葉好きとされる幼虫がアシナガバチの巣を食べるのは考えにくい、と反論されるかもしれません。


食性の問題が解決しても、トビスジアツバ幼虫の体表がアシナガバチに化学擬態しているのか?という問題もあります。
スズメバチ科の巣に寄生する蛾は数種類知られていますが、その幼虫で不思議なのは、巣を食い荒らしても蜂に排除されないことです。
もし寄主に発見されれば直ちに殺され肉団子にされてしまいそうです。
キボシアシナガバチ成虫が別の原因で逃去(コロニー解散)した後でトビスジアツバ♀が空き巣に産卵したのでしょうか?
定点観察をさぼって謎の空白期間ができてしまったことが悔やまれます。




ところで、腹面の顔の下に伸びた一対の太い物体が何なのか気になりました。
前脚ではないと思うのですが、口器(顎?)の一部ですかね?
この疑問に対してもhitoriさんより以下のご教示を頂きました。

太い物体は前脚の一部だと思います。
クルマアツバ亜科には♂の前脚が太くなるという特徴をもつ種が結構います。トビスジアツバもその一種です。
写真では前脚が別にあるように見えたのですが、こんな太い前脚が♂だけにある(性的二型)なんて面白いですね。
♀をめぐる争いで♂同士が腕相撲でもするのかと思ったら、その実態は毛束なのですね。
きっとヘアペンシルみたいに性フェロモンを出すのでしょう。
求愛交尾行動を観察してみたいものです。



シリーズ完。


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