2015/05/21

セアカヒメオトシブミの揺籃作り【後編】



2015年5月中旬

中編からのつづき

セアカヒメオトシブミApoderus geminus)♀が柳(樹種不明)の葉を巻き上げて揺籃を作る作業を続けています。
揺籃の向こう側に行って押さえ込んだり、こちら側に戻って来たりしています。

一番初めに挟裁した葉の基部まで巻き上げが近づいて来ると、揺籃がほどけないよう右の側面に蓋を作り始めました。
主脈で半分に折った葉の半分を揺籃に巻き込まずに外側に残しながら折り返しています。
本種セアカヒメオトシブミが作る円筒形の揺籃は葉の裏面が外側になっていますが、蓋の一部分だけ葉の表面が外側に来るように折り返しています。



この複雑な本能行動(プログラム)がどのように進化したのか、すごい興味があります。
揺籃の作り方が突然変異と自然淘汰で少しずつ洗練されて上手になるように漸進進化した、なんてちょっと信じ難いです。
最後の留め方が中途半端だとせっかく作った揺籃がほどけてしまい、適応度は著しく下がるでしょう。(卵はほとんど生き残らないのでは?)
もしかするとオトシブミの祖先種は接着剤や糸を使って強引かつ乱雑に葉を巻いていたのが、次第に折り方を工夫して接着剤を節約する方向へ進化したのでしょうか?
琥珀の中に閉じ込められた揺籃の化石が奇跡的に見つかった例は無いのでしょうか。

カブトムシぐらいの巨大な古代オトシブミがホオノキぐらいの巨大な葉を豪快に巻いて巨大な揺籃を作っていたら、と想像すると興奮しますね。
私はどちらかと言えば、生物の形態の進化よりも行動の進化に興味があるのです。

『オトシブミ・ハンドブック』p38によると、本種の揺籃作りは「裁断、巻上げとも作業が雑」と評されています。
セアカヒメオトシブミは進化的(分類学的)にやや原始的なグループに属するのでしょうか?

遂に完成した揺籃を♀が点検して回り(@10:20)、初めに挟裁した葉の基部に登りました。
揺籃を切り落とすために、挟裁部の主脈を齧り始めました。
なんとか揺籃を採集して帰りたいのですが、揺籃が下に落ちてしまうと湿地帯で見失いそうです。
三脚が無いので撮影しながらどうやって受け止めようかと焦りました。

結局は単純に左の掌を揺籃の下に差し出しました。
最後の映像だけ手ブレが激しいのは、片手でカメラを持って接写したからです。
切断の瞬間をなんとか無事に記録することができました。(@12:30)
♀が揺籃もろとも落下することはなく、これで子供(卵)とは今生の別れになります。



受け止めた揺籃を採集容器に移している間に、ひと仕事を終えたセアカヒメオトシブミ♀は隣の葉裏に移動していました。
ここで丁度カメラのバッテーリーも使い切ってしまい、ぎりぎり間に合いました。
ついでに♀も採集しました。
揺籃を作った柳の葉の地上からの高さは約180cmでした。

果たして明るいうちに揺籃が完成するか心配だったのですが、間に合って良かったです。
夜間撮影の準備は万端ではなかったのです。
ちなみに、日の入り時刻は18:38頃でした。
もしかして、オトシブミは暗い夜間も揺籃を作るのでしょうか?(飼育下で調べる?)

余談ですが、隣接する湿地帯で頻りに鳴いていたオオヨシキリが18:05を過ぎると急に鳴き止んだのが興味深く思いました。

極度の集中を要する接写を(ときどき休みながら)67分間も続けて疲労困憊しました。
交尾中の♀が動き始めてからは56分間で揺籃が完成しました。



近くで柳の灌木を見て歩くと、枝先に同形の揺籃が幾つか切り落とされず葉に残されていました。
セアカヒメオトシブミ♀は揺籃を最後に切り落としたり残したりと、気紛れなのでしょうか?
最後の主脈を切断する作業中に♀が逃げ出さないといけない緊急事態が何かあったのですかね?
作りかけ?の揺籃も採集・飼育すべきでしたが、疲労困憊のためそこまで頭が回りませんでした。

さて、採集した揺籃をどうしましょう?
分解して卵の位置を確認するか、そのまま飼育して羽化までの日数を調べるべきか?
迷った末に後者を選びました。




以下は採集した♀の標本写真



「オトシブミ・チョッキリの世界」サイトの解説によると

(セアカヒメオトシブミの)後頭部の形状がオスとメスとではわずかに違いメスのほうがより丸みが強い
とのこと。(標本で要確認)

つづく→揺籃の飼育編


ムクドリの歩行【野鳥:ハイスピード動画】



2013年6月中旬

川沿いの道を歩くムクドリSturnus cineraceus)を240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
スローモーションにすると、まるで恐竜みたいですね。(見たことないけど)

実は飛び立つ瞬間を狙っていたのですが、歩き回るだけで飛んでくれませんでした。

いつものような無音ではきっと退屈に思われますから、無駄にドラマチックなBGMを付けてみました。
ありふれた野鳥の退屈な映像も、有名な曲をBGMに付けるだけであら不思議、最後まで見てられるようになります。
音楽の力って凄いですね。
某映画音楽(名曲!)の威力が炸裂していて逆に映像が負けてます…。



2015/05/20

セアカヒメオトシブミの揺籃作り【中編】



2015年5月中旬

前編からのつづき。

セアカヒメオトシブミApoderus geminus)♀が柳(樹種不明)の葉を巻き上げる作業がだいぶ進行してきました。
映像冒頭は作りかけの揺籃を徘徊(パトロール)中の♂に注目。
やがて♂は柳の葉の基部で静止しました。
侵入者が徘徊性なら葉柄から来るはずなので、ここで守るのは理に適っています。(飛んでくる天敵やライバル♂に対しては?)

パトロール中の♂は遂に隣の葉表に進出しました。(@2:25)
今にも飛び立ちそうな雰囲気を醸し出しており、採集しようか迷います。
しかし下手に捕獲を試みると隣接する揺籃に振動を与えてしまい、♀も逃げてしまいそうです。

揺籃を作っている♀を接写していると、上から♂が降りて来ました。(@3:50)
♀に触れただけでマウントせず、♂は引き返しました。
しばらくすると再び♂が降りて来ました。(@5:04)
軽くマウントしかけるものの、やはり引き返します。
このように♂は♀から離れしばらく辺りをパトロールしてから戻る、を何度も繰り返しています。

葉縁にある食痕(虫喰い穴)は元からあり、♀が自分で食べた(味見した)のではないと思います。
食痕の周りで巻き上げに邪魔になりそうな部分を齧って整えているだけだと思います。
これから巻く部分の葉裏中央(支脈の両脇数カ所)に細かな噛み傷が見えます。
葉を巻き上げ易くするためにセアカヒメオトシブミ♀が予め噛み傷を葉のあちこちに付けていたのでしょう。

♂は交尾後ガードもしなくなり、隣の葉表から遂に翅を広げて飛び立ちました!(@6:15)
飛行距離は短く、すぐ隣の柳の群落に止まってくれたので、そっと採集することが出来ました。
この時点で♀が産卵を済ませていることは確実です。

独り残された♀は黙々と巻き上げ作業を続けています。
揺籃の向こう側を押さえ込みに行ったり、揺籃のこちら側に戻って来てこれから巻く葉裏に噛み傷を付けたりしています。


それにしても、小さな小さなセアカヒメオトシブミ♀が着々と揺籃を巻いていく様子は無駄がなく、感動します。
自律型マイクロマシンやロボットを作ってオトシブミの行動を再現することは可能でしょうか?
どんなセンサーを組み込み、どんなプログラムで動かせば良いのでしょう?
人間界のサッカーW杯で優勝する二足歩行ロボットを開発するよりもチャレンジングなテーマではないでしょうか。

ガードする♂が不在になったせいか、お邪魔虫の働き蟻が度々訪れるようになりました。
葉の上から褐色のアリ(種名不詳:名前を教えて下さい)が降りて来てセアカヒメオトシブミ♀とニアミスしても(@9:32)、互いに没交渉でした。
アリは触角でオトシブミに触れるとすぐに離れました。
オトシブミ♀は手が離せないので無抵抗です。
もし♂が交尾後ガードしているときにアリが来たら、♂は追い払ったでしょうか?

つづく→後編(完結編)

以下は採集した♂の標本写真。



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