2015/05/20

セアカヒメオトシブミの揺籃作り【中編】



2015年5月中旬

前編からのつづき。

セアカヒメオトシブミApoderus geminus)♀が柳(樹種不明)の葉を巻き上げる作業がだいぶ進行してきました。
映像冒頭は作りかけの揺籃を徘徊(パトロール)中の♂に注目。
やがて♂は柳の葉の基部で静止しました。
侵入者が徘徊性なら葉柄から来るはずなので、ここで守るのは理に適っています。(飛んでくる天敵やライバル♂に対しては?)

パトロール中の♂は遂に隣の葉表に進出しました。(@2:25)
今にも飛び立ちそうな雰囲気を醸し出しており、採集しようか迷います。
しかし下手に捕獲を試みると隣接する揺籃に振動を与えてしまい、♀も逃げてしまいそうです。

揺籃を作っている♀を接写していると、上から♂が降りて来ました。(@3:50)
♀に触れただけでマウントせず、♂は引き返しました。
しばらくすると再び♂が降りて来ました。(@5:04)
軽くマウントしかけるものの、やはり引き返します。
このように♂は♀から離れしばらく辺りをパトロールしてから戻る、を何度も繰り返しています。

葉縁にある食痕(虫喰い穴)は元からあり、♀が自分で食べた(味見した)のではないと思います。
食痕の周りで巻き上げに邪魔になりそうな部分を齧って整えているだけだと思います。
これから巻く部分の葉裏中央(支脈の両脇数カ所)に細かな噛み傷が見えます。
葉を巻き上げ易くするためにセアカヒメオトシブミ♀が予め噛み傷を葉のあちこちに付けていたのでしょう。

♂は交尾後ガードもしなくなり、隣の葉表から遂に翅を広げて飛び立ちました!(@6:15)
飛行距離は短く、すぐ隣の柳の群落に止まってくれたので、そっと採集することが出来ました。
この時点で♀が産卵を済ませていることは確実です。

独り残された♀は黙々と巻き上げ作業を続けています。
揺籃の向こう側を押さえ込みに行ったり、揺籃のこちら側に戻って来てこれから巻く葉裏に噛み傷を付けたりしています。


それにしても、小さな小さなセアカヒメオトシブミ♀が着々と揺籃を巻いていく様子は無駄がなく、感動します。
自律型マイクロマシンやロボットを作ってオトシブミの行動を再現することは可能でしょうか?
どんなセンサーを組み込み、どんなプログラムで動かせば良いのでしょう?
人間界のサッカーW杯で優勝する二足歩行ロボットを開発するよりもチャレンジングなテーマではないでしょうか。

ガードする♂が不在になったせいか、お邪魔虫の働き蟻が度々訪れるようになりました。
葉の上から褐色のアリ(種名不詳:名前を教えて下さい)が降りて来てセアカヒメオトシブミ♀とニアミスしても(@9:32)、互いに没交渉でした。
アリは触角でオトシブミに触れるとすぐに離れました。
オトシブミ♀は手が離せないので無抵抗です。
もし♂が交尾後ガードしているときにアリが来たら、♂は追い払ったでしょうか?

つづく→後編(完結編)

以下は採集した♂の標本写真。



2015/05/19

セアカヒメオトシブミの揺籃作り【前編】



2015年5月中旬

平地の水辺に生い茂った(樹種不詳※)の灌木群落で夕方、葉に止まって交尾中のセアカヒメオトシブミApoderus geminus)♀♂ペアを発見。
♀は揺籃(落し文)を作り始めたばかりのようです。

ヒメクロオトシブミ背赤型と外見で区別するのは困難らしいのですが、揺籃の材料となるホスト植物にヤナギ類を含むのはセアカヒメオトシブミの方でした。




一枚の若葉を選んだ♀は基部を両側から主脈だけを残して既に切っており(挟裁きょうさい型の揺籃)、葉が適度に萎れるのを待っているようです。
映像冒頭では葉裏に止まった♀が主脈の折り目で葉を折り曲げようとしています。
♀にマウントした♂がときどき暴れて♀の背中を足で激しく擦っています。(@0:24)
振り落とされないよう必死にしがみついているだけなのか、それとも♀に何かの合図を出しているのでしょうか?



隣の葉表に別個体(性別不明)が止まっていて(@0:40)、しばらくすると向きを変えてから飛び立ちました(@1:10)。
あぶれ♂なら交尾干渉するはずなので、♀なのかな?
それとも既に喧嘩で負けた♂βなのでしょうか?

後述するように本種は形態的な性差に乏しい(性的二形に分化していない)ので、♂同士の闘争は激しくないことが予想されます。
実際のところはどうなんでしょうね?
実は初めに見つけた時は3匹がもっと近くにいて何かしていたのですが、私がマクロレンズを用意している間に別れてしまいました。
『オトシブミ ハンドブック』p38によると、本種は

日当たりの良い環境で高密度で生息している場合が多い。複数の♀が同じ葉を利用して作業している場合さえある
とのこと。

交尾中のペアは挟裁した葉の裏面(白っぽい)下側におとなしく静止し、葉先が萎れて垂れ下がるように自らが重しとなっています。
マガネアサヒハエトリ♂がすぐ近くを徘徊しても、互いに無関心でした。(映像省略)

ようやく♀が揺籃作りを再開しました。(@2:07)
♂を背負ったまま♀が方向転換すると、主脈に沿って葉先へ歩き始めました。
葉縁のあちこちに食痕があるものの、♀は気にせずこの葉を揺籃の材料に選びました。
♂は交尾器を結合したままです。
ようやく全身像を拝むことができました。
セアカヒメオトシブミの形態的な性差はほとんど無い(『オトシブミ・ハンドブック』p38)ものの、「オトシブミ・チョッキリの世界」サイトの解説によると

後頭部の形状がオスとメスとではわずかに違いメスのほうがより丸みが強い
とのこと。(標本で要確認)

この♀の左鞘翅中央に白い微小な汚れ(ゴミ)が付いていて、個体識別できる目印になりそうです。

♀は葉裏を下りながら両足を使い、葉を主脈で半分に折り畳むように、折り癖を付けています。
葉先に辿り着くと♀は方向転換し、いよいよ葉先から上に巻き始めました。
巻きながら葉に噛み傷を付けているかもしれませんが、よく見えません。(@2:50)
その間、マウントした♂は前脚の先を擦り合わせ、のんびり身繕いしています。

交尾を終えた♂が遂に♀から離れ、巻いている葉を徘徊開始。(@5:29)
♀は葉先で黙々と作業しています。
すぐに飛び去るかと思いきや、意外にも♂は再び♀のもとに戻りマウントし直しました。
これ以降はおそらく交尾器を結合しておらず、交尾後ガード(♀が産卵するまでライバル♂から守る)のようです。


本種の揺籃作りを観察したのはこれが初めてのため、映像を見直しても♀がいつ産卵したのか私には分かりませんでした。
(♀がお尻を向こう側に向けているときに産卵?)
完成した揺籃を分解して調べれば、卵の位置が分かるはずです。

カールした葉先の近くの葉裏に見える黄色っぽい粒が、もしや卵なのかと疑いました。
再び♂がマウント解除し、徘徊を始めました。(@9:45)
揺籃に巻き込まれそうになっていた謎の粒を♂が右中脚の跗節で蹴飛ばし除去しました。(@9:50)
これが♂の意図的な行動なのか不明です。
托卵(労働寄生)するオトシブミ♀や寄生虫の卵が揺籃に混入しないよう、警戒しているのでしょうか?
もしそうなら、手が離せない♀を助ける共同作業と言えるでしょう。
あるいは、♂が歩き回る時にゴミ粒を偶然に右中脚の跗節で蹴飛ばしただけかもしれません。

実験でこの行動を再現できるでしょうか?
つまり、卵を模した異物を製作中の揺籃に付けたら交尾後ガード中の♂は甲斐甲斐しく除去するでしょうか?
♂はすぐにまた戻ると交尾後ガードのため♀にマウントしました。(@10:15)





♀は巻いた葉先の主脈を噛んで傷を付けているように見えます。
揺籃作りが進むにつれて、♂はあまり♀にマウントしなくなりました。
それでも♀から離れた♂はすぐ上の葉裏に静止し、交尾後ガードを続けています。
♀が巻き上げている葉を♂はときどき点検して回ります。
葉の基部で静止し、辺りを見回したり♀を見下ろしたりしています。
♂が再び♀のもとに戻りマウント…するかと思いきや、♀の背中を通り過ぎました。(@12:57)
葉を一回りしてから♂がまた♀のもとに戻り、体に触れるもマウントせず離れました。(@13:35)

ところで、♂は交尾後ガードを解除するタイミングをどのように知るのか、とても不思議です。
♂も揺籃作りの手順を知っていて、産卵の有無を見れば分かるのでしょうか?
産卵後は♀の体臭(性フェロモン?)が変わるのかな?
葉巻の進捗状況を挟裁部からの歩数で計測しているのかもしれません。


『オトシブミハンドブック』に掲載された「オトシブミ揺籃検索表」によれば、セアカヒメオトシブミが作る揺籃の特徴は

  • 揺籃は葉の一部分で作られる。
  • 揺籃は円柱形。
  • 葉の基部以外の大半が巻かれる。
  • 揺籃は切り落とされる。
  • 揺籃の主脈には噛み傷があり、多角形。
  • 揺籃の外側の大部分は葉の裏面。

※ どなたか柳の詳しい樹種を見分けられる方は教えて下さい。
柳の花も少し咲いていました。




生憎この日は三脚を忘れたので、微速度撮影が出来ませんでした。
マクロレンズを付けた手持ちカメラで接写すると無理な体勢ですぐに疲れてしまい、集中力が続きません。
ときどき休みながら頑張って動画に記録しました。
下手に近づくと足元の枝に触れて揺らしてしまうため、撮影アングルを思うように変えられませんでした。
接写の大敵である風があまり吹いていなかったのは助かりました。


長撮りした素材をつなげただけの長編映像なので、お急ぎの方はYouTubeプレイヤー再生速度の設定を変えて早回しでご覧下さい。
FLASHではなくHTML5プレイヤーを推奨します。(ブラウザに依存?)

つづく→中編


ホバリングからの狩りを繰り返すチョウゲンボウ(野鳥)



2015年5月中旬

田園地帯※の上空でチョウゲンボウFalco tinnunculus)と思われる小型の猛禽類が旋回飛翔とホバリング(停空飛翔)を交互に繰り返していました。
ホバリングから急降下しても着陸せず飛び去りました(狩り失敗)。
羽ばたいて高度を上げると旋回し、再びホバリングから農地に急降下して今度は着陸しました。
しかしまたもや狩りに失敗したようで、飛び立っても足の鉤爪に何も獲物を捕まえていません。
それとも、その場ですぐ食べきれるぐらい小さな獲物(カエルなど)だったのでしょうか?
チョウゲンボウは羽ばたいて高度を上げると旋回し、違う場所でホバリングしました。

地上の獲物を目掛けてアタックする前に何段階かに分けてホバリングの高度を下げていくようです。

狩りに疲れたのか、電線に止まって羽根を休めました。
しかし手前の電柱が邪魔です。
撮りながら一歩横に移動してからデジタルズームを最大に効かせ、確かにチョウゲンボウであることを確認しました。
すぐに電線から飛び去ってしまい、長撮り終了。

※ この辺りは休耕地も多く、水田は田起こしが始まったばかりの段階です。


▼関連記事(同じ地域で2年前に撮影した狩りの成功例)
ホバリングから獲物を狩るチョウゲンボウ(野鳥)

つづく


【追記】
平凡社『日本動物大百科3鳥類I』でチョウゲンボウを参照すると

尾羽に黒い横縞があるのが♀、♂は尾羽が青灰色。ひらひら飛んだり、滑翔や停空飛翔をくりかえして獲物をねらう。(p173より引用)





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