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2016/01/10

群飛・集合するキアシブトコバチの謎



2015年9月下旬

山麓にある神社の境内を通りかかると、祠の軒下に小さな蜂が何匹も飛び回っていました。
祠の板壁を忙しなく登ったりしています。
キアシブトコバチBrachymeria lasus)でしょうか?
引きの絵にすると蚊柱ほどではありませんが何匹も集まっていることが分かると思います。
初めて見る現象で、一体何事だろうと非常に興味深く思いました。

秋に群飛する蜂として、アシナガバチ類の♂が交尾相手の新女王を待ち構える群飛を連想しました。

▼関連記事
フタモンアシナガバチ♂の群飛と誤認交尾【HD動画&ハイスピード動画】
フタモンアシナガバチ♂の群飛
今回は先を急ぐ用事があってじっくり腰を据えて観察できなかったのですが、この付近で交尾しているキアシブトコバチの♀♂ペアは見当たりませんでした。
残念ながら私はキアシブトコバチの性別も見分けられません。

群飛の理由として次に考えたのは、たまたま寄主がここに集団発生した結果、キアシブトコバチ♀が産卵のため殺到している、という可能性です。
キアシブトコバチ♀は鱗翅目の蛹に内部寄生します。

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キアシブトコバチの羽化

しかし祠をぐるっと一周調べても、蝶や蛾の蛹は見当たりませんでした。
そもそも本種は単寄生なのか多寄生なのか疑問に思いインターネット検索で調べてみました。
・Takatoshi UENOさんによる「水田の天敵昆虫と害虫」というブログの記事「九州の田んぼの益虫(天敵)」より

キアシブトコバチは単寄生(1つの寄主に1個体のみ育つ)であり、同属の寄生蜂でも種により寄生様式が異なるのである。
イネツトムシ(イチモンジセセリ)をはじめ、各種チョウ目害虫の蛹に内部寄生する。寄主蛹の中央部にまん丸い穴をあけて成虫が脱出してくる。
・jkioさんのブログ記事「キアシブトコバチ」より

寄生バチのなかまですが、寄主が一種類ではなくて、いろいろな虫(鱗翅目、膜翅目、双翅目)の蛹に寄生します。内部単寄生といって、一つの蛹の内部に一卵だけ産み付けます。キアシブトコバチは、寄生バエにまた寄生する多重寄生もやってのけます。

多寄生ならこの日一斉に羽化した可能性も考えられますが、単寄生なので却下。

最後に思いついたのは、集団越冬に備えて群飛しているのかもしれない、という可能性です。
調べてみると、キアシブトコバチは樹皮下などで成虫越冬するらしい。(『ハチハンドブック』p25より)


冬越しの準備にしては気が早い(時期尚早)ようにも思いますけど、例えばテントウムシが晩秋に大集合する様子は季節の風物詩です。

▼関連記事
飛べ!ナミテントウ【ハイスピード動画】
キアシブトコバチも集合フェロモンを発しているのだろうか?と想像しました。


イッカク通信」で樹皮の裏に集団越冬するキアシブトコバチの写真が掲載されていました。

これら数十匹のハチたちは一匹のチョウ幼虫からあらわれたものなのだろうか。そうであればそれらがまとまってやってきたことになる。別のチョウ幼虫からそれぞれ出てきたのであればそれが集まってきたことになる。
と鋭い疑問を投げかけておられます。
蜂類画像一覧でも興味深い報告を見つけました。

築6年のお宅の南面硝子と障子の間にこの時期だけ10匹づつくらい来ては硝子と障子にぶつかり音をたてるそうです。2005年11月 長野県

撮影後に同定のため有り合わせのビニール袋で採集を試みたのですけど、逃げられました。
私はこの体型の小蜂といえばキアシブトコバチしか知らなかったのですけど、日本未記録の近縁種(Brachymeria sp.)も居るそうです。
後日この神社を再訪した時にはもうキアシブトコバチ(の一種)の姿はなく、静まり返っていました。
ごく限られた期間に起こる出来事だったのかもしれません。

※ 薄暗い条件で撮った映像なので、動画編集時に自動色調補正を施しています。



【追記】
南部敏明『田んぼとハチ』によると、
(アシブトコバチ科の中で)もっともふつうに見られるのはキアシブトコバチで、ガの多くの種類に寄生する。ガの幼虫に産卵し、幼虫が蛹になってからその中から出て来る。秋の晴れた日に、日の当たった神社などで待っていると、この仲間が次々に飛んでくる。この発生源は付近の雑木林が主体となっていると思われるが、田んぼもその一端を担っているだろう。
(『田んぼの虫の言い分―トンボ・バッタ・ハチが見た田んぼ環境の変貌 (人間選書)』第3章p163より引用)
私が見た群飛とまさに同じで心強い記述ですが、残念ながらそれ以上の謎解きはされていません。



2015/12/27

ノダケの花蜜を吸うコガタスズメバチ♀とセスジハリバエ



2015年9月下旬

農業用水路沿いの草むらに咲いたノダケの群落でコガタスズメバチ♀(Vespa analis insularis)とセスジハリバエTachina nupta)が訪花していました。
テーブル状の同じ花序で歩き回りながら吸蜜しています。
目障りなハエをスズメバチが押し出したり払い除けたりする小競り合いも何度か見られましたが、敏捷で図太いハエはすぐに舞い戻ります。
最後に花から飛び立ったコガタスズメバチが黒いカメラに向かってホバリングしてきたので少し焦りました。
ハエのせいでコガタスズメバチは少し苛立っていたのかもしれません。
羽音がいかにも恐ろしげですけど、ゆっくり後退すれば刺されることはありません。(スズメバチを手で払い除ける動きはくれぐれも厳禁です)



2015/12/10

アカオニグモ♀(蜘蛛)の網から獲物を盗むコガタスズメバチ♀



2015年9月中旬


アカオニグモ♀の定点観察#1


農道と用水路の間に挟まれた草むらでアカオニグモ♀(Araneus pinguis)が垂直円網を張っていました。
腹部の色が黄色で赤くないので未だ亜成体と思われます。(外雌器の状態を見ていません。)
枠糸の左端を固定したタニウツギの葉裏が隠れ家となっています。
逆に枠糸の右側はヨモギの花穂の先端部に固定されていました。

円網にかかった獲物(食べ残し?)を盗みにコガタスズメバチVespa analis insularis)のワーカー♀が来ていました。
獲物の正体は、なんとなくシオヤアブかな?
こうした労働寄生(盗み寄生)は餌不足になりがちな秋のスズメバチによく見られる行動です。
コガタスズメバチ♀は獲物に噛み付き、その場で肉団子にしています。
しばらくすると、網の主であるアカオニグモ♀が引き糸を伝ってスルスルとこしきへ登り返しました。(@0:33)
アカオニグモ♀はおそらく網の中央で食事していたときにスズメバチが飛来した羽音に驚いて網から緊急落下し、避難していたのでしょう。
円網の糸を歩脚で引き締めて揺すり、状況を探りました。
コガタスズメバチは気にせずに肉団子作りを続けています。
招かざれざる客が危険な敵と察したのか、アカオニグモはスズメバチを追い払ったり獲物を奪い返そうと対決したりせずに、左上の隠れ家に慌てて退散。(@0:44)
一方、スズメバチの方はようやく獲物を網から引き剥がし、戦利品を咥えて巣へ飛び去りました。(@1:14)




『スパイダーウォーズ:クモのおもしろ生態学』p160-161によると、

ハチ、トンボ、ハチドリなど、クモの網から餌を奪う動物たちには共通の特長があります。それはヘリコプターのように飛びながら空中で停止する能力で、彼らはクモの網にくっつくようなへまをせずにその餌を奪うのです。


初めにコガタスズメバチが飛来してからアカオニグモが逃げ出すまでの顛末を見逃したのがつくづく残念です。

アカオニグモは天敵のクモバチ(キスジベッコウ、キスジクモバチ)が相手だと網に踏みとどまり積極的に反撃すると本で読んだのですが※、スズメバチが相手だとあっさり網から逃げ出すようです。
(※『月刊たくさんのふしぎ:まちぼうけの生態学:アカオニグモと草むらの虫たち』p31より。『クモのはなしII:糸と織りなす不思議な世界への旅』p162には「アカオニグモの防衛姿勢」と題した見事な生態写真が掲載されています。)


盗人スズメバチが去ってから、アカオニグモの円網と隠れ家を動画に記録しました。
円網のあちこちに穴が開いているものの、未だ全体の形状は保っています。
タニウツギ灌木の葉を軽く丸めて隠れ家にして、その奥にクモは避難していました。
隠れ家から伸びる糸を辿ってみると、水平の枠糸の他に、信号糸も甑に向かって伸びています。


スズメバチのおかげで見つけられたこのアカオニグモを定点観察することにしました。

つづく→#2:明け方に垂直円網を張るアカオニグモ♀(蜘蛛)【15倍速・暗視映像】


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2015/11/11

カマドウマ♀に寄生したハリガネムシの最期

2015年8月中旬

山間部の峠道でカマドウマの仲間(種名不詳)の死骸をヒメギスが食べていました。
いそいそと近づいたらヒメギスは逃げてしまいました。(撮り損ね)
車に轢かれたロードキルのようですが、死骸の横にハリガネムシが干からびて死んでいました。
本で読んだり噂ではかねがね聞いていましたが、憧れのハリガネムシを実際に見るのはこれが初めてでした。
これほど長いハリガネムシがカマドウマの体内に寄生していたとは驚きです。
寄主のカマドウマは産卵管がある♀でした。
カマドウマ死骸のほとんどは、ヒメギスなど屍肉掃除屋(scavenger)に食い荒らされていました。

※ 今日は珍しく動画ネタはお休みで、写真のみです。

【参考リンク】
カマドウマの心を操る寄生虫ハリガネムシの謎に迫る
森と川をつなぐ細い糸:寄生者による宿主操作が生態系間相互作用を駆動する



2015/11/02

キボシアシナガバチの巣に寄生したトビスジアツバ♂(蛾)



2015年8月下旬

キボシアシナガバチ巣の定点観察@柳#16


コロニーが早期解散した後のキボシアシナガバチPolistes nipponensis)の巣を採集して密閉容器に隔離しました。
室内に放置して10日後の早朝、今まで見たことのない地味な寄生蛾が羽化してきてビックリ仰天。
前翅長11.5mm。

※ 映像で照明なしの薄暗い前半部は動画編集時に自動色調補正を施してあります。



いつもお世話になっている蛾像掲示板に投稿して問い合わせてみると、おそらくトビスジアツバ♂(Herminia tarsicrinalis)だろうとhitoriさんから教えてもらいました。

まさかヤガ科のアツバ類がアシナガバチの巣に寄生していたとは、意外な新発見でした。
これまでの知見では、Herminia属の幼虫は枯葉を食すらしい。
ちなみにトビスジアツバに近縁な(同じHerminia属)クロスジアツバの幼虫が枯葉以外にオトシブミ(おそらく葉を巻いた揺籃を指すのでしょう)を食べることがあるというのは、とても興味深く思いました。

今回の件でひねくれた解釈をすれば、柳の枯葉を食べて育ったトビスジアツバの終齢幼虫が蜂の空き巣にたまたま潜り込んで蛹化したのかもしれません。
しかし状況証拠からアシナガバチの巣を食害したと考えるのが自然だと思います。
蜂の巣を採集した際は細い巣柄をカットして古巣だけを採取しました。
柳の枝葉は飼育容器に全く入れておらず、枯葉の混入もあり得ません。
同種の蛾がもう一頭羽化してくれば寄生説が有利になるはずですが、古巣の飼育を続けても柳の下に二匹目のドジョウは居ませんでした。

今季定点観察してきたこのコロニーはなぜか早く解散してしまいました。
古巣をよく見ると、一部の育房の内部は寄生蛾の幼虫が張り巡らしたような不規則網で汚れていました。
また、巣盤の側面に幾つか虫喰い穴が開いていました。
今回の蛾が羽化したことで蜂の巣に新しい穴は開いていないようです。
別の可能性としては、寄生蜂が羽化して食い破ったり、野鳥がつついたり、天敵ヒメスズメバチに襲撃されたりして出来た穴なのかもしれませんが、私には分かりません。

実は古巣を採取した夜に、明らかに蜂の子とは異なる謎のイモムシが中で蠢いている気がしました。
飼育中に蛾の幼虫が蜂の巣を食害するシーンを動画に撮っていれば決定的な証拠になるのですけど、忙しくて手が回らないうちに蛾の成虫が羽化してしまいました。
これまで私のフィールドで採集したキアシナガバチおよびコアシナガバチの古巣から、寄生蛾としてカザリバガ科マダラトガリホソガの一種Anatrachyntis sp.を得ています。
今回もどうせマダラトガリホソガが羽化してくるのだろうと予想していたのです。
キボシアシナガバチのコロニーが早期に解散したのは、蛾の幼虫が巣に寄生したせいで逃去した(営巣地を変更した)のだろうと想像しました。

フィールドで採集したトビスジアツバ♀から採卵し、アシナガバチの巣を与えてトビスジアツバ幼虫が成虫まで育つかどうか確認できれば完璧でしょう。

YAMKENさんの助言に従い、食害された巣材について考察してみます。
キボシアシナガバチが巣材を集めるシーンは未だ直接観察できていません。
一般論で言うと、アシナガバチ類は木の樹皮を齧り取って唾液分泌物と混ぜたパルプで紙製の巣を造ります。
Polistes属のアシナガバチは死んだ木の繊維を巣材とすることが多いようです。
木の杭(木柱)とかベニヤ板、材木の表面などをよく齧っています。
アシナガバチの巣がセルロースを含むという点は、トビスジアツバ幼虫が好む枯葉と共通していそうです。
ただし、元々が木質なのでリグニンを枯葉よりもかなり多く含んでいるはずです。
これを食べて分解するには専門の消化酵素(または腸内細菌)が必要になる気がします。
樹皮や材を好んで食べるのでなければ、本来枯葉好きとされる幼虫がアシナガバチの巣を食べるのは考えにくい、と反論されるかもしれません。


食性の問題が解決しても、トビスジアツバ幼虫の体表がアシナガバチに化学擬態しているのか?という問題もあります。
スズメバチ科の巣に寄生する蛾は数種類知られていますが、その幼虫で不思議なのは、巣を食い荒らしても蜂に排除されないことです。
もし寄主に発見されれば直ちに殺され肉団子にされてしまいそうです。
キボシアシナガバチ成虫が別の原因で逃去(コロニー解散)した後でトビスジアツバ♀が空き巣に産卵したのでしょうか?
定点観察をさぼって謎の空白期間ができてしまったことが悔やまれます。




ところで、腹面の顔の下に伸びた一対の太い物体が何なのか気になりました。
前脚ではないと思うのですが、口器(顎?)の一部ですかね?
この疑問に対してもhitoriさんより以下のご教示を頂きました。

太い物体は前脚の一部だと思います。
クルマアツバ亜科には♂の前脚が太くなるという特徴をもつ種が結構います。トビスジアツバもその一種です。
写真では前脚が別にあるように見えたのですが、こんな太い前脚が♂だけにある(性的二型)なんて面白いですね。
♀をめぐる争いで♂同士が腕相撲でもするのかと思ったら、その実態は毛束なのですね。
きっとヘアペンシルみたいに性フェロモンを出すのでしょう。
求愛交尾行動を観察してみたいものです。



シリーズ完。


2015/07/18

ラップを噛み破ろうとする寄生蜂(寄主マイマイガ幼虫から新たに出現)



2015年6月中旬


▼前回の記事
マイマイガ(蛾)幼虫の二次寄生蜂(Acrolyta sp.)
忙しくて飼育容器を放置していたら、寄主マイマイガLymantria dispar japonica)幼虫の死骸や葉っぱから少し白カビが生えてしまいました。
前回の観察から11日も経って中身を捨てようとしたら、別種の黒い微小な蜂が新たに出現していることに気づきました。
繭塊けんかいからの羽化を観察した二次寄生蜂(Acrolyta sp.)は腹部に赤い部分があったのですが、今回の蜂は真っ黒です。
触角の形状も全く異なり、明らかに別種です。
複眼は濃い褐色(焦げ茶色)で、翅は透明です。
これがマイマイガ幼虫を寄主とする一次寄生蜂(コマユバチ科?)だとしたら、二次寄生蜂よりも羽化が遅いのは奇妙です。
母蜂が寄主に産卵した時期が遅かったのでしょうか?
採集して以来ずっと密閉容器に隔離しているので、外からの新たな混入はあり得ません。
羽化してくるところを見てないのですが、実は三次寄生蜂だったりして?
事態はますます混沌としてきました。


これほど種々の寄生蜂が盛んに活動していれば、去年ほど酷いマイマイガの大発生は起こらないのではないかという気がしてきました。
寄主マイマイガの大発生から一年遅れて天敵(寄生蜂)の個体数が増えた結果、二年連続の大発生が抑えられている、と勝手にイメージしています。

黒い寄生蜂は容器に張ったサランラップの裏面に止まり、大顎でラップを必死に食い破ろうとしています。

繭から脱出するときも同様に大顎で噛み破るのでしょう。
腹端に産卵管が見えないので♂なのかな?
しかしラップを毒針で刺そうとしているように一瞬見えました。(@0:29)
非力な微小蜂ではサランラップに穿孔できず(歯が立たず)、脱出できませんでした。
疲れた寄生蜂は容器壁面に止まって身繕いを始めました。

※ サランラップの蓋越しに撮った不鮮明な映像および写真に対して自動色調補正を施しています。



以下は標本写真(後で貼ります)。

シリーズ完。


2015/07/11

マイマイガ(蛾)幼虫の二次寄生蜂(Acrolyta sp.)



2015年6月上旬・室温23℃


▼前回の記事
マイマイガ幼虫を寄主とする寄生蜂の羽化【微速度撮影】

羽化が一段落してから飼育容器全体を撮ると、繭塊から羽化した寄生蜂は計11匹でした。
容器内を徘徊したり、飛び回ったり、化粧したりしています。
寄主マイマイガLymantria dispar japonica)幼虫は息絶えてしまったのか、もう動きません。
寄生蜂の羽化率や性別、割合(性比)などを細かく調べていませんが、腹端に産卵管がある個体が♀でしょう。
羽化直後に交尾している♀♂ペアや、寄主へ産卵している♀などは見られませんでした。
触角を掃除したり後脚を擦り合わせたりして身繕いしています。

※ サランラップの蓋越しにマクロレンズで蜂を接写した部分の映像は、動画編集時に自動色調補正を施してあります。

以下は寄生蜂の標本写真。
2009年に同様の飼育で得られたのと同じく二次寄生蜂のヒメバチ科トガリヒメバチ亜科、Acrolyta属の一種ではないかと思います。
マイマイガ幼虫の一次寄生蜂(多寄生のコマユバチ科)を未だ見たことがないので、ちょっと残念でした。
マイマイガ幼虫が死ぬまでボディガードのように繭塊を守っているように見えても、二次寄生蜂♀によるアタックを全く防御できていないことが今回も分かりました。

▼つづく

ラップを噛み破ろうとする寄生蜂(寄主マイマイガ幼虫から新たに出現)

2015/07/08

マイマイガ幼虫を寄主とする寄生蜂の羽化【微速度撮影】



2015年6月上旬・室温23→22℃
▼前回の記事
マイマイガ幼虫(蛾)に寄生したサムライコマユバチの繭塊

雑木林の下草(クヌギの幹に伸びた蔓性植物)にマイマイガLymantria dispar japonica)幼虫と寄生蜂の繭塊を見つけました。
羽化してくる寄生蜂を調べるために、採集して飼育することにしました。
同じ葉の表面と裏面に2組の寄主と繭塊が付いていたので、葉を切り離して別々に隔離しました。
以下の記録では、葉表に居た寄主と繭塊に注目します。



3日後の朝、微小の蜂が羽化していました。
6年前に飼育したときに得られた寄生蜂と似ているかもしれません。(二次寄生蜂かも?)

▼関連記事
マイマイガと二次寄生蜂

寄生蜂が繭から羽化する瞬間を動画に記録するのが一つ目の目標です。
羽化の前兆が不明なので、取り敢えず10秒間隔のインターバル撮影で監視してみることにしました。
すると1匹の寄生蜂が羽化しました。
夜22:02、白い繭の端が開き始めました。
22:03には蜂の黒い頭部が見え始め、次のコマ(10秒後)では既に羽化脱出した寄生蜂が繭から離れた位置に写っていました。
やはり羽化は一瞬なので、インターバル撮影ではなく動画で記録すべきだと分かりました。

引き続き、繭塊を10倍速の動画で夜通し監視・録画しました。
続々と寄生蜂が羽化してきました。
毛虫の下に隠れている繭からも羽化しました。

羽化の予兆は外から見て全く分かりません。

寄主(マイマイガ幼虫)は下半身で繭塊に覆い被さるような姿勢のまま静止しています。
その胸部第2〜3節辺りだけ妙な(不自然な)蠕動が認められました。
まさにその体節の背面および側面に付着している白い米粒のような物はヤドリバエの卵なのかな?
寄主の体内で寄生蜂とはまた異なる寄生者が跳梁跋扈しているようです。
予想通り、後にこの寄主からヤドリバエ終齢幼虫が1匹脱出してきました。(映像なし)
栄養不足だったようで、とても小さな蛆虫でした。(容器内で小さな囲蛹になったものの、成虫は羽化せず。)

▼つづく
マイマイガ(蛾)幼虫の二次寄生蜂(Acrolyta sp.)


2015/07/07

マイマイガ幼虫(蛾)に寄生したサムライコマユバチの繭塊



2015年6月上旬

平地の雑木林でクヌギの幹にマイマイガLymantria dispar japonica)の幼虫が大量に止まっていました。
今年もやはり大発生したようです。
昼間はこのように樹皮に隠れて休み、夜になったら枝に移動して葉を食害するのかもしれません。(実際に夜に観察しに行ったら分かるはずです。)
それとも樹皮に静止している幼虫は、脱皮や営繭する前の眠のステージなのでしょうか?



▼関連記事(前年に同じ場所で撮影)
クヌギの木に群がるマイマイガ(蛾)老熟幼虫

害虫扱いされているマイマイガの強力な天敵として期待されるのが寄生蜂です。
クヌギ樹皮の裂け目の奥に潜む一頭のマイマイガ幼虫の体内からサムライコマユバチの一種(例えばブランコサムライコマユバチ[Protapanteles liparidis])と思われる寄生蜂の幼虫が一斉に脱出して近くに繭塊を紡いだようです。
小さな白い繭が10個集まっていました。
寄主の毛虫は体内を食い荒らされても未だ生きていて、虫の息ながら自発的に少し動きました。
頭部を繭塊に向けていて静止しています。
自由に徘徊したり摂食したりする運動能力は奪われているようです(単に弱っているだけ?)。
捕食寄生されたマイマイガ幼虫がこのまま死ぬまで寄生蜂の繭塊を守るように行動操作されているかどうか、昔から非常に興味があります。
寄生蜂の繭に更に寄生する二次寄生蜂がいるので、もし無防備な繭を守るボディガードとして寄主(マイマイガ幼虫)をマインドコントロールで雇うことができれば有利になります。

▼関連記事(6年前に調べた映像)
マイマイガ幼虫から脱出した寄生蜂の繭
6年ぶりにチャンスが巡ってきたので、調べてみることにしました。
草の茎の先で毛虫をつついてみました。
体に触れると威嚇する(嫌がる)ぐらいの元気は残っていました。
元気な個体なら触られると這って逃げ出すはずですが、そのような運動能力はないようです。
(おそらく体内の筋肉や運動神経が食い荒らされているのでしょう。)
幹を上下するアリが毛虫や繭塊を攻撃してくれないかと期待したのですけど、横を素通りするだけでした。
アリは力関係でマイマイガ幼虫よりも弱く、近寄りたがらないことを示す映像が後日撮れました。(映像はこちら
寄生蜂による行動操作の可能性については、残念ながら今回もはっきりした結論は得られませんでした。

実験のアイデアとして、確かめるべきことは明快です。
  • マイマイガ幼虫を寄生蜂の繭塊から少し離した時に自力で繭塊の傍に戻ってくるかどうか?
  • 寄生蜂の幼虫が脱出した後の寄主を解剖して筋肉や内臓器官の状態を調べる。
  • 寄生蜂の繭塊から寄主のマイマイガ幼虫を除去した場合と残した場合とで、二次寄生を受ける割合がどう変化するか?(素人が想像するに、二次寄生蜂の分布が一様とは限らないので、フィールドではかなり多数のデータを取って統計処理しないといけない気がします。)
  • それならむしろ飼育下で直接的に実験した方が楽かもしれません。(二次寄生蜂♀をどうやって手に入れるか?)



実はこのクヌギの木の下草で、同じく寄生蜂の繭塊に随伴するマイマイガ幼虫を3頭見つけました。
羽化してくる寄生蜂を調べるために、採集して飼育することにしました。
クヌギの樹皮からは採集しにくかったので、映像の個体は見送りました。

つづく→寄生蜂の羽化(微速度撮影)


【追記】
動物行動の映像データベースに「サムライコマユバチに操作されボディーガードとして振る舞うマイマイガ幼虫」と題した動画が公開されています。その説明文を読んでもタイトルのように寄主操作を言い切ってしまって良いのか、個人的には疑問です。私と似たような簡単な実験をしてるのですが、繭塊に覆い被さっている毛虫に直接触れたら嫌がるのは当然です。近くにある寄生蜂の繭塊だけに触れた時にも毛虫が威嚇・防御するかが問題です。

2015/05/24

寄生蜂の空繭【名前を教えて】

2015年5月下旬



屋内の開かずの扉の枠に小さな繭の塊を見つけました。(床からの高さは198cm)
オオヒメグモかイエユウレイグモが確かこの辺りで不規則網を張っていた記憶がうっすらとあるので、それに寄生した蜂の幼虫が寄主を食い殺した後に繭を紡いだのでしょうか?
繭を接写してみると、ほとんどが羽化済みのようで片端に蜂が脱出した後の穴が開いています。
DNA鑑定をしない限り、無数にいる寄生蜂の種類を空繭だけから同定するのは無理でしょう。
扉枠の左側に一つだけぶら下がっていた白い繭は、オオヒメグモに寄生するマダラコブクモヒメバチの空繭ではないかと疑っています。(『繭ハンドブック』p94によると、マダラコブクモヒメバチの繭の色や大きさは様々らしい)

▼関連記事
マダラコブクモヒメバチ♀?の身繕い

クモ生理生態事典 2011』サイトを参照すると、
マダラコブクモヒメバチ Zatypota albicoxaの生活史,クモの腹部にとりついての幼虫越冬で,4月に発育を再開,5月初旬蛹化,5月中旬には成虫が出現,5月下旬には産卵

しかしクモヒメバチは単寄生のはずです。(1匹の寄主に1個しか産卵しない)
扉枠の右側で複数の黄色い繭が塊を作っているのが謎です。
こちらはマダラコブクモヒメバチの繭ではなさそうです。
もしかすると、コマユバチ科など多寄生の寄生蜂に体内寄生された鱗翅目幼虫が室内に迷い込んで息絶えたのでしょうか?
それにしては寄主(芋虫、毛虫)の死骸が見つからないのも不思議です。
繭塊をピンセットでペリペリと剥がして採集しました。



もう一つの可能性として、クモの卵嚢に寄生する蜂はどうでしょう?(勉強不足)

イエユウレイグモは♀が卵嚢を幼体の孵化までガードしますから除外して、オオヒメグモの卵嚢に多寄生する蜂がいるのでしょうか?
あるいはマダラコブクモヒメバチが更に多寄生を受けたのかな?(とても多数を養えない気がします)

採集した繭塊を念の為に密閉容器に保管しておきます。

つづく?
(出遅れた寄生蜂が繭から羽化したら報告します)


2015/05/23

ウシヅノキマダラハナバチ♀の寄主探索飛行



2015年5月中旬

里山(雑木林)の山道で小さくてカラフルな蜂が地面スレスレに飛び回っています。
ときどき停空飛翔(ホバリング)しました。
他のヒメハナバチの巣に労働寄生するキマダラハナバチ属の一種です。
寄主の巣を探しているのでしょうか?
落葉や落枝の下に潜り込んで何やら調べています。
こんな所にホストの巣があるのかな?




実はビロードツリアブBombylius major)もすぐ近くでホバリングしたり一緒に飛び回り、「撮影の邪魔だな〜」と内心思ってました。
後で考えると、ビロウドツリアブ♀も地中に営巣するヒメハナバチの仲間の巣の近くで産卵しその幼虫や蛹に寄生するらしいので、寄主探索で競合していたのかもしれません。

撮影直後に蜂を緊急確保しました。
素早く飛ぶこの仲間を撮れたのは初めてなので、撮影はそこそこで切り上げて、何はともあれとにかく採集を優先しました。

帰ってから『日本産ハナバチ図鑑』で調べてみると、どうやらウシヅノキマダラハナバチ♀(Nomada comparata)のようです。
寄生種なので、♀も花粉籠やスコパをもちません。
寄主はクロツヤヒメハナナバチおよびミカドヒメハナバチらしい。

ところで昔から気になっている素朴な疑問ですけど、労働寄生する蜂はどうして派手な体色を身に纏うのでしょうか?
動物学や昆虫学で「なんとかの法則」と呼ばれていても良さそうなのに、聞いたことがありません。
無ければ勝手に「しぐまの法則」と名付けちゃうぞ!

以下は標本写真。



2015/01/29

野菊の花を舐めるセスジハリバエ



2014年10月上旬

山間部の道端に咲いた野菊(種名不詳)の群落でセスジハリバエTachina nupta)が訪花していました。
口吻を伸ばして花蜜や花粉を舐めています。
花から飛び立つと入れ替わりにオオハナアブが飛来しました。



2015/01/20

ミゾソバと野菊の花蜜を吸うセスジハリバエ



2014年9月下旬

里山の草地でセスジハリバエTachina nupta)が花蜜(と花粉)を舐めていました。
初めはミゾソバの群落で訪花していましたが、隣に咲いた野菊(種名不詳)の群落にも飛んで行き、吸蜜しています。



複数個体を撮影した後、1匹だけ採集できました。
以下は標本写真。




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