2016/01/10

群飛・集合するキアシブトコバチの謎



2015年9月下旬

山麓にある神社の境内を通りかかると、祠の軒下に小さな蜂が何匹も飛び回っていました。
祠の板壁を忙しなく登ったりしています。
キアシブトコバチBrachymeria lasus)でしょうか?
引きの絵にすると蚊柱ほどではありませんが何匹も集まっていることが分かると思います。
初めて見る現象で、一体何事だろうと非常に興味深く思いました。

秋に群飛する蜂として、アシナガバチ類の♂が交尾相手の新女王を待ち構える群飛を連想しました。

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フタモンアシナガバチ♂の群飛
今回は先を急ぐ用事があってじっくり腰を据えて観察できなかったのですが、この付近で交尾しているキアシブトコバチの♀♂ペアは見当たりませんでした。
残念ながら私はキアシブトコバチの性別も見分けられません。

群飛の理由として次に考えたのは、たまたま寄主がここに集団発生した結果、キアシブトコバチ♀が産卵のため殺到している、という可能性です。
キアシブトコバチ♀は鱗翅目の蛹に内部寄生します。

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しかし祠をぐるっと一周調べても、蝶や蛾の蛹は見当たりませんでした。
そもそも本種は単寄生なのか多寄生なのか疑問に思いインターネット検索で調べてみました。
・Takatoshi UENOさんによる「水田の天敵昆虫と害虫」というブログの記事「九州の田んぼの益虫(天敵)」より

キアシブトコバチは単寄生(1つの寄主に1個体のみ育つ)であり、同属の寄生蜂でも種により寄生様式が異なるのである。
イネツトムシ(イチモンジセセリ)をはじめ、各種チョウ目害虫の蛹に内部寄生する。寄主蛹の中央部にまん丸い穴をあけて成虫が脱出してくる。
・jkioさんのブログ記事「キアシブトコバチ」より

寄生バチのなかまですが、寄主が一種類ではなくて、いろいろな虫(鱗翅目、膜翅目、双翅目)の蛹に寄生します。内部単寄生といって、一つの蛹の内部に一卵だけ産み付けます。キアシブトコバチは、寄生バエにまた寄生する多重寄生もやってのけます。

多寄生ならこの日一斉に羽化した可能性も考えられますが、単寄生なので却下。

最後に思いついたのは、集団越冬に備えて群飛しているのかもしれない、という可能性です。
調べてみると、キアシブトコバチは樹皮下などで成虫越冬するらしい。(『ハチハンドブック』p25より)


冬越しの準備にしては気が早い(時期尚早)ようにも思いますけど、例えばテントウムシが晩秋に大集合する様子は季節の風物詩です。

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キアシブトコバチも集合フェロモンを発しているのだろうか?と想像しました。


イッカク通信」で樹皮の裏に集団越冬するキアシブトコバチの写真が掲載されていました。

これら数十匹のハチたちは一匹のチョウ幼虫からあらわれたものなのだろうか。そうであればそれらがまとまってやってきたことになる。別のチョウ幼虫からそれぞれ出てきたのであればそれが集まってきたことになる。
と鋭い疑問を投げかけておられます。
蜂類画像一覧でも興味深い報告を見つけました。

築6年のお宅の南面硝子と障子の間にこの時期だけ10匹づつくらい来ては硝子と障子にぶつかり音をたてるそうです。2005年11月 長野県

撮影後に同定のため有り合わせのビニール袋で採集を試みたのですけど、逃げられました。
私はこの体型の小蜂といえばキアシブトコバチしか知らなかったのですけど、日本未記録の近縁種(Brachymeria sp.)も居るそうです。
後日この神社を再訪した時にはもうキアシブトコバチ(の一種)の姿はなく、静まり返っていました。
ごく限られた期間に起こる出来事だったのかもしれません。

※ 薄暗い条件で撮った映像なので、動画編集時に自動色調補正を施しています。



【追記】
南部敏明『田んぼとハチ』によると、
(アシブトコバチ科の中で)もっともふつうに見られるのはキアシブトコバチで、ガの多くの種類に寄生する。ガの幼虫に産卵し、幼虫が蛹になってからその中から出て来る。秋の晴れた日に、日の当たった神社などで待っていると、この仲間が次々に飛んでくる。この発生源は付近の雑木林が主体となっていると思われるが、田んぼもその一端を担っているだろう。
(『田んぼの虫の言い分―トンボ・バッタ・ハチが見た田んぼ環境の変貌 (人間選書)』第3章p163より引用)
私が見た群飛とまさに同じで心強い記述ですが、残念ながらそれ以上の謎解きはされていません。



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