2015/02/26

トノサマガエルの喧嘩【HD動画&ハイスピード動画】



2014年8月中旬・気温26℃

▼前回の記事 
跳べ!トノサマガエル【HD動画&ハイスピード動画】

雨の日にミズナラの樹液に群がる昆虫を目当てに近くの池から大小様々のトノサマガエルPelophylax nigromaculatus)が集まり、幹に跳びついていました。
ミズナラのすぐ横にある切り株が絶好の捕食ポイント(餌場、狩場)らしく、2匹以上のトノサマガエルが登ってくると喧嘩になります。
闘争シーンを240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
互いにぶつかるように跳びついたり、相手の上からのしかかったり(マウント)と、ライバルを切株から追い出そうという縄張り意識や攻撃の意図を感じさせます。

武器となる角や牙などが発達している訳ではないので、争い事も平和に見えます。
まるで「お山の大将」を決める遊びのようです。
ときどきクックッ♪と静かに鳴いています。
土俵際の相手の顔を噛み付きながら押し出すこともありました。(@3:09)

3匹(体格はa≒b>c)が連続で背後からマウントした結果、「親亀の上に子亀、子亀の上に孫亀」の状態になることもありました。

『山渓ハンディ図鑑9:日本のカエル』p90によると、トノサマガエルの性別判定は


♂は、山吹色から緑色の背中に1本の黄色や緑色の縦筋模様が入る。
平凡社『日本動物大百科5:両生類・爬虫類・軟骨魚類』p36によると、
(トノサマガエルの)♂は背面が黄金色あるいは緑色で、背中の中央に緑色もしくは黄色のラインがある。♀は背中の中央に太くて白っぽいラインが目立ち、その両側に不規則に融合しあった黒い斑紋が散らばっている。このように、♂と♀とで色彩や模様がまったく異なっている。

あまり自信がないのですけど、3匹とも♂のようです。
一般にトノサマガエルの体長は♀>♂らしいので、単純な誤認抱接ではなさそうです。

ヒキガエルのカエル合戦を彷彿とさせますが、トノサマガエルの繁殖期はとっくに過ぎているはずです。
背後からマウントされた小型の個体がグルルル、グルルル♪と鳴いたのはヒキガエルの誤認抱接で見られるように「離せ!俺は♂だぞ!」というリリースコールなのでしょうか。

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アズマヒキガエルの抱接と蛙合戦@沼
きちんと個体識別してから勝敗を長時間記録してみれば何か面白いことが分かったかもしれません。


【追記】
平凡社『日本動物大百科5:両生類・爬虫類・軟骨魚類』p36に、トノサマガエル♂の集団ディスプレイについて解説してありました。
それぞれの♂が直径1.5~2mほどの範囲をなわばりとしてかまえ、鳴き声によって自分のなわばりの存在を宣言している。(中略) 
攻撃のパターンは(1)激しく鳴きながら、ゆっくり相手に接近する、(2)ジャンプして相手に跳びかかる、(3)相手と激しい取っ組みあいをする、という3つの段階から成っている。(中略) 
 コーラスが行われる場所や個々の♂のなわばりの場所は固定しておらず、毎晩変わる。また、なわばりはかならずしも産卵場所として使われるわけではない。したがって、トノサマガエルのなわばりは、♂たちのディスプレイの場であり、コーラスは集団ディスプレイであると見ることができる。
下線を引いた攻撃パターンが今回の動画で見られます。



キアシナガバチ♂を手掴みで捕獲しても刺されない



2014年11月中旬

山村の路肩をキアシナガバチ♂(Polistes rothneyi)が徘徊していました。
日光浴しながら歩き回り、前脚で長い触角を拭って化粧しています。

飛び立つ前にネットで捕獲しました。
頭楯が白っぽく触角がカールしていることから雄蜂で間違いありません。

産卵管が変化したものである毒針を雄蜂はもたないので、ヒトを刺すことは決してありません。
指で翅を摘んで実演すると、腹部を曲げて私の指を刺すような素振りを見せます。
これはブラフですから、♀に行動擬態していると表現できるかもしれません。(刺針反射?)
冷静に性別を見分けられれば、無闇に恐れることはありません。

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フタモンアシナガバチ♂を手掴みで捕獲

このとき腹端に伸ばした一対の棘のような突起は交尾に使う器官なのですかね?
この解剖学的な正式名称をご存知の方は教えて下さい。

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オオフタオビドロバチ♂尾端に生えた謎の刺状突起

以下は標本写真。
腹端に2本の伸縮性のトゲが埋もれていました。


2015/02/25

カーブミラーに激突したヤマドリ♂(野鳥)の断末魔



2014年10月上旬

バードストライク直後の野生ヤマドリが絶命するまでの断末魔」という、なかなかの衝撃映像が撮れました。
動画だけを見るとまるで私が猟銃で撃ち落としたかのように疑われるかもしれませんが、事実は小説より奇なり。
山間部の車道を徒歩で(足音を忍ばせて)下山していると、前方道端の茂みに潜んでいた一羽のヤマドリ♂(Syrmaticus soemmerringii)がバサバサッ♪と急に飛び立ちました。
私の頭上を一直線に飛び越したヤマドリを目で追いつつ振り向くと、曲がり角に設置されたカーブミラーにヤマドリが頭から激突してグヮーン♪と銅鑼を鳴らしたような衝突音が響き渡りました。
フィールドで起こるこうした突発的な事件や決定的瞬間を確実に記録するには、GoProのようなアクションカメラを頭などに装着して愚直に目線の(一人称)映像を常時録画するしかありませんね…。


(映像はここから。)
動画を撮りながら慌てて駆け寄ると、ヤマドリ♂は路上で仰向けにひっくり返っていました。
尾羽が長いので♂ですね。
顔を見ると白目をむいていました。(瞬膜ではなく、閉じた瞼が白い?)
やがて脚が空を切り、翼も弱々しく動かしました。
嘴もパクパクと開閉しています。
脚を体に引きつけ、激しく羽ばたいたのを最期に動かなくなりました。
「断末魔の叫び」のような鳴き声は一切発しませんでした。
外傷や出血が見られなかったので脳震盪で気絶しただけかと思い見守っていました。

ところが、ショックから回復せずにそのまま息絶えました。
首の骨が折れていたのかもしれません。(※追記4参照)
不可抗力ですが、元はと言えば私がヤマドリを驚かせてしまったことが原因です。
銃を使わずして野鳥を間接的に殺めてしまったことになり、寝覚めが悪い事件でした。

どうもキジ科の鳥は飛び方がひどく下手糞(不器用)な気がします。

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キジ♂の飛び立ち【ハイスピード動画】
体重が重いせいか、飛び立っても急上昇しませんでした。
飛びながら器用に曲がって障害物を回避することが出来ないのか(※追記参照)、猪突猛進のようにカーブミラーに正面衝突しました。(バードストライク)
必死で逃げる飛行中に鏡に写った自身の像をライバル♂と誤認して咄嗟に闘争しようとした結果、激突したのでしょうか?(鏡像反応)
しかしカーブミラー本来の機能や設置角度を考えると、ぶつかる寸前まで自画像はよく見えない気がします。
鳥の目には鏡に空が写っているだけで安全に見えたのかもしれません。


15cm定規を死骸に並べて採寸

山鳥♂のサイズを記録するために15cm定規を並べ、死骸の回りを一周しました。
靴の先で軽く小突いても、もはや反応はありません。
出血は見られず、抜け落ちた羽毛が路上にほんの少量だけ散らばっています。
骨董屋などで結構よく見かける
ヤマドリの剥製は、どうしても色褪せています。
死後間もない実物は羽毛の模様がひときわ美しいですね。

カーブミラーの表面には、激突跡の汚れがうっすらと残されていました。(魚拓ならぬ鳥拓?)



落鳥した新鮮な死骸をどうしたものかと悩んだ末に、天からの恵みとしてビニール袋に包んで持ち帰ることにしました。
死骸に触れても体温を感じませんでした。
死亡推定時刻ではなく正確な死亡時刻と死因が分かっている稀有なケースです。
(撮影時刻は午後14:14〜14:20。)
排泄口から脱糞していました。
よくよく考え直すと、鳥の糞と言えば尿酸混じりで白っぽいのが普通です。
今回の黄土色のペーストは、いわゆる鳥の糞とは似ていません。
腸に残った未消化物が激突死の衝撃で排泄孔から外に出てしまったのでしょう。




新鮮な死骸が突然天から降ってきた時にそれを材料に何を調べるか、ナチュラリストとしての総合的な実力が試されますね。

この個体は飛び立つ直前までヌスビトハギの実を採食していたことが後の解剖で判明します。


つづく

※【追記】
2014年11月中旬

ひと月後に激突事故現場の山道を今度は逆方向に歩いて通りかかると、同様の光景が繰り返されました。
まるで「株を守りて兎を待つ」という諺のように、私も二匹目のドジョウならぬ二羽目の山鳥を期待してしまいました。
目の前の道端の茂みからヤマドリ3羽の群れが驚いて飛び立ちました。(映像なし)
群れでこの辺りを縄張りあるいはねぐらとしているのかもしれません。
前回と同じ飛行軌道で一直線に飛び去ったので、曲がり角でまたもやカーブミラーに激突するのではないかと案じました。
しかし今度は飛びながら道なりに左折し、無事でした。
一瞬の印象では尾羽根が長かったので、またもや♂かもしれません。



【追記2】
『マン・ウォッチングする都会の鳥たち』の「ガラスに激突する鳥」と題した章(p233)によると、
若鳥であるがゆえに、ガラスに写った街中の景色と実際の景色との区別がつかなかったのであろう。野鳥が車のバックミラーに写った自分自身の姿に対して威嚇することはよく知られている。(中略)野鳥では鏡の中の虚像と実際の世界との区別は難しいのではあるまいか。

【追記3】
日本野鳥の会『セキレイのなかまたち(みる野鳥記)』p26~27によると、

山の中にとめた車のサイドミラーにキセキレイがやってきて、何回も体当たりをしているのを見たことがあります。
道路のカーブミラーに、からだをぶつけているキセキレイを見た人もいます。
鏡に写った自分のすがたを、テリトリーに侵入してきたほかのキセキレイと思って攻撃しているのです。
鏡に写った自分のすがたですから、攻撃されても逃げるわけはなく、つかれるか、だれかが来てじゃまされないかぎり続けます。
キセキレイは、テリトリーを守る気持ちが強いので、♂も♀も侵入者を攻撃します。
でも、ルールがあるのか、おたがいが傷つくまでたたかわないですむようになっています。
しかし、鏡に写った自分のすがたが相手ではそういったルールがなく、攻撃をやめることができません。

【追記4】
松原始『カラスの教科書』p293によると、
窓ガラスに鳥がぶつかって死ぬことがしばしばあるが、そういう鳥は顎骨が折れていたり、脊椎骨が砕けていたりする。鳥の飛行速度で頭から突っ込むのは、それくらい危険だ。

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