2009年6月中旬
キアシナガバチ(Polistes rothneyi)初期巣の定点観察。
育房数は二日前と変わらず35室。
幼虫の発達段階に応じて各育房の深さが異なります。
中央の育房内の幼虫が一匹、白い繭を張っていました。
繭の上部へ更に伸ばした育房の壁に女王が卵を産み付けていました。
このような二段利用はセグロアシナガバチやキアシナガバチで知られています。
(参考:『日本の昆虫3:フタモンアシナガバチ』 文一総合出版 p62)
妹が育房を塞ぐぐらい育つ前に姉が奥から羽化脱出するのだろう。
育房を効率的に使い、巣材の節約になります。
一つの巣にワーカーの卵、幼虫、蛹と全ステージが見られました。
背中に個体標識された女王は滅多に巣を離れず警戒を怠りません。
≪追記≫
『日本の真社会性ハチ:全種・全亜種生態図鑑』信濃毎日新聞社 p52 より
育房の重複利用は日本ではオオアシナガバチ亜属(Gyrostoma)に含まれる種(セグロアシナガバチおよびキアシナガバチ)でこのような育児方法が見られる。
『狩蜂生態図鑑』p91によると、アシナガバチ類の房室の再利用は二型に分けられる。
L型は羽化後の再利用で、H型は羽化前からの再利用。
この分類に従えば、キアシナガバチの巣は、下向きの巣盤で巣柄から同心円状に発達し、房室はH型(羽化前から)の再利用。
小林朋道『先生、大型野獣がキャンパスに侵入しました!: 鳥取環境大学の森の人間動物行動学』によると、
(セグロアシナガバチの:しぐま註)育室の蓋の上に卵が産みつけられている。はたして、この卵はどうなるのだろうか?ひょっとすると、蓋の上の卵は、蓋の下で幼虫から成虫への遂げているハチの餌として、そこに産みつけられていたのかもしれない。 (p69より引用)
後に否定されるのですけど、このユニークな栄養卵仮説を思いつかなかったことを私は少し悔しく思いました。
当時の私はすぐに本やインターネットで調べてしまい、自分で謎解きする楽しみを味わえませんでした。一方、著者の小林先生は観察を続けて真相に辿り着いています。
育室の蓋(セグロアシナガバチの繭:しぐま註)に穴が開きはじめた。(中略)私の予想に反して、蓋には大きな穴が開いており、卵は蓋の縁にちゃんと残っていた。 (p72より引用)
かぎりある時間のなかで、効率よく、多くの幼虫を育てようとすると、確かに、蓋の下の幼虫が成虫になって出ていってしまうまで待つよりも、蓋をした時点で、その蓋を底に使って卵を産み付けたほうがよいだろう。それに、一度幼虫が育った、蓋より下の育室は、幼虫の糞などで汚れ、病原菌などが繁殖している可能性も高い。新しい幼虫には、新しい育室を増築したほうがよいのかもしれない。 (p87より引用)
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