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トレイルカメラによる水場でのフクロウとノウサギのニアミス観察とその解釈
1. 観察の概要
2024年6月上旬、山形県の山林内湿地帯(水場)に設置したトレイルカメラで深夜の動物行動を記録。
水場にフクロウ(Strix uralensis)が静かに佇み、周囲を見回している様子が撮影された。
その直後、2羽のニホンノウサギ(Lepus brachyurus)が続けて水場を横切ったが、フクロウは凝視するだけで狩りのアクションを起こさなかった。
2. 行動の生態学的解釈
フクロウの行動
通常、待ち伏せ型の狩りを行う際は樹上など高所から獲物を狙うことが多く、地上で静止している場合は狩り以外の目的(警戒、観察、水分補給など)の可能性が高い9。
水場に長居していたが、オタマジャクシなど水生小動物を狩る様子は記録されず、興味本位で観察していたと考えられる。
ノウサギの行動
ノウサギは夜行性で、行動範囲は寝床から半径約400mとされる3。
繁殖期(2~7月)にはオス同士やオス・メス間で激しい追いかけっこが見られることがあるが、今回の映像では穏やかな動きであり、繁殖行動以外の単なる移動や採食、親子・同性個体の可能性も考えられる。
ノウサギはタペータムの発達した目を持ち、夜間でも周囲の動物を認識できるが、フクロウが静止していたため気づかなかった、もしくは警戒しつつも水場を利用した可能性がある139。
3. 幼鳥・成鳥の識別と繁殖期のタイミング
6月上旬はフクロウの育雛期~巣立ち直後の時期であり、観察された個体が幼鳥である可能性もある10。
幼鳥は巣立ち直後は綿羽が残るが、換羽の進行や暗視映像の解像度によっては判別が難しい。綿羽が見えなくても幼鳥の可能性は排除できない。
巣立ったばかりの幼鳥は通常樹上で親の給餌を待つが、行動範囲が広がる過程で水場に現れることもまれにある。
4. 狩りが起こらなかった理由の考察
フクロウが満腹だった、あるいは幼鳥で狩り経験が浅かった可能性。
ノウサギが成体であれば、フクロウにとってリスクや負担が大きく、狩りの対象に選ばなかった可能性。
水場での静止は狩りのための待ち伏せではなく、警戒・観察・水分補給など他の目的だった可能性が高い。
ノウサギもフクロウの存在に気づいていたかもしれないが、警戒しつつも水場を利用した、あるいはフクロウが静止していたため危険と認識しなかった可能性がある。
5. まとめ
トレイルカメラ映像から、夜間の水場でフクロウとノウサギがニアミスしても、必ずしも狩りが発生するとは限らない。
両種の行動には、繁殖期のタイミング・個体の年齢・行動目的・警戒心など様々な要素が複雑に絡んでいる。
今回の観察は、野生動物の多様な行動戦略と、単純な「捕食―被食関係」だけでは説明できない現場のリアルな生態を示している910。
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/12/1/12_1_1_11/_pdf
- https://note.com/p_c_m22/n/nbcca18728e01
- http://sancyokohama.sakura.ne.jp/houkoku/19/YNSchousahoukoku19_1.pdf
- https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/assessment/prestatement/yamanashi/_pdf/yamanashiy08-04-03.pdf
- https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001021259.pdf
- https://www.pref.nagano.lg.jp/kankyo/kurashi/kankyo/ekyohyoka/hyoka/tetsuzukichu/gomishori/documents/10doubutsu.pdf
- https://www.town.minakami.gunma.jp/minakamibr/nature/pdf/nature07.pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/12/1/12_1_1_11/_pdf/-char/ja
- interests.animal_behavior
- interests.bird_biology
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山中の湿地帯を深夜に横切るニホンイノシシ【トレイルカメラ:暗視映像】
2025/06/14
ニホンカモシカの溜め糞で糞虫が見つからず分解も遅いのはなぜか?【フィールドサイン】
ニホンカモシカの溜め糞場における糞虫不在現象に関する考察
1. 背景と発端
筆者が調査を行っている山形県の低山・里山域において、ニホンカモシカ(Capricornis crispus)の溜め糞場では、排泄された糞粒が長期間分解されずに残存している現象が確認された。この糞は形状が崩れることなく保持され、キノコ類等の菌類も発生しにくい。加えて、フン虫(糞虫)類の活動痕跡が見られず、掘り起こし・埋設・球状運搬などの典型的なフン虫行動が全く確認されていない。
この状況は「野生哺乳類の排泄物には必ずそれを分解利用するフン虫類が存在する」という従来の昆虫生態学的通説と矛盾する可能性がある。筆者はこの疑問を基点に、以下のような仮説と解釈を考察した。
2. 既知情報と比較
2-1. 家畜ヤギ・野生シカの糞とフン虫
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ヤギの団粒糞(ペレット型)は水分量が少なく、液状糞を好む大型コガネムシ(タマオシコガネ類やオオセンチコガネ)の誘引力が低いことが知られている。
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奈良公園のシカ糞ではセンチコガネ類が活動するが、同じペレット型でも密度・利用頻度の高さが寄与していると推定される。
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カモシカは糞場への再訪頻度・個体密度ともにシカより低く、誘引力・検出確率がさらに下がる可能性。
2-2. ノウサギの糞
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ノウサギ糞もペレット型で、乾燥後は容易に崩壊・土壌化するため、糞虫による積極的な利用は報告例が少ない。
2-3. 捕食性動物(テン、キツネ等)の糞
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肉食獣の糞は乾燥しやすく、植物食獣糞ほど糞虫の利用例は少ないが、特定の腐食性昆虫(ハエ類、シデムシ類)が利用する場合あり。
3. 仮説
仮説1:「カモシカ糞には防虫・抗菌成分が含まれる」
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カモシカの食餌植物由来の二次代謝物(苦味成分、精油成分など)が糞中に残り、フン虫を忌避させている可能性。
仮説2:「フン虫不在型糞リサイクル系の存在」
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山地林内ではフン虫ギルド自体が貧弱であり、主に微生物・土壌動物(ダニ、トビムシ等)や物理風化で分解が進む「フン虫不在型系」が成立している可能性。
仮説3:「ボトルネック効果によるスペシャリスト絶滅」
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過去の狩猟圧でカモシカ個体群が激減した際、カモシカの糞に依存していたスペシャリストのフン虫類が絶滅した可能性。
仮説4:「カモシカ糞の低い誘引力と周辺フン虫相の組成」
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林内フン虫の種数・密度自体が低いため、偶発的にカモシカ糞に到達する個体が稀である可能性。しかし、同所性のタヌキやアナグマの溜め糞、ニホンザルやツキノワグマなどの糞には糞虫が来ていることが説明できない。
4. 思考実験とその考察
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奈良公園のルリセンチコガネ(Geotrupes属)のようなペレット糞適応型フン虫を山形県の低山地に人為的に放虫した場合、カモシカ糞の分解促進が期待できるか?→理論的には可能だが、国内外来種問題や気候・繁殖条件の違いにより定着は難しいと考えられる。
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ノウサギ、カモシカ、ヤギなどペレット糞排泄動物の糞リサイクルは、フン虫が関与しない独自路線を取っている可能性。
5. 今後の調査方針
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カモシカ糞粒の化学成分分析(抗菌・防虫物質の検出)
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冬期雪解け後・春先の糞粒の分解状況調査
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林内フン虫相の再評価(マグソコガネ類等の存在確認)
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飼育下カモシカ糞への野外フン虫誘引実験(無菌下設置)
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他地域(中部、関西、九州)のカモシカ溜め糞場との比較調査
6. 結論
ニホンカモシカの溜め糞場におけるフン虫不在現象は、全国的・生態系的に普遍的な現象である可能性が高まった。ただし、化学的忌避・生息地的隔離・進化史的喪失など複数要因が複雑に絡む未解明分野であり、基礎生態学的価値は高い。
「日本山地林内におけるフン虫不在型糞リサイクル系の存在」という仮説は、今後の生態系モデルに新たな視座を提供する可能性がある。