トレイルカメラによるクロツグミ観察と行動解釈のまとめ
1. 観察状況の概要
場所・時期:山形県の山林内水場(湿地帯)、5月下旬、日没直前の薄暗い時間帯
観察内容:トレイルカメラにクロツグミ2羽が記録される
1羽(♀または若鳥)が水場で採餌中、急に振り返り「キーキー」と鳴く
直後に別個体(♂)が飛来し、2羽で対峙・飛び上がりながら回る行動
その後「チュチュン、チュンチュン」と鳴き方が変化し、♂が飛び去る
初めの個体もその場を離れ、周囲は静かになった
2. 行動の解釈
■ 鳴き声の意味
「キーキー」や「チュチュン、チュンチュン」といった鳴き声は、クロツグミが警戒・威嚇・緊張時に発する典型的な声
幼鳥の餌乞い鳴き(「ピィーピィー」など甘えた声)や、翼を震わせる行動は観察されず
■ 縄張り争いの可能性
2羽が対峙し、飛び上がりながら回る行動は縄張り争いや資源防衛の一環と考えられる
特に水場や湿地はミミズやオタマジャクシなど餌資源が豊富なため、親鳥♂が強く防衛する傾向がある
先住者効果(先にいた個体が有利)はあるが、後から来た個体(特に縄張り主や強い♂)が優勢になる場合も多い
■ 親子関係の可能性
巣立ち直後の若鳥♂であれば、依存期には親鳥♂が給餌・保護するが、自立期に入ると縄張りから追い払う行動に切り替える
今回は給餌行動や餌乞い鳴きが見られず、親子給餌の場面とは考えにくい
■ つがい外の♀への対応
クロツグミ♂は通常、つがい外の♀には攻撃的になりにくいが、資源防衛や繁殖段階によっては排除することもある
3. トレイルカメラ観察の意義
薄暗い時間帯や人の目が届かない場所でも、自然な行動を記録できる
鳥の行動や鳴き声の違いから、縄張り争い・資源防衛・親子関係など複数の可能性を検証できる
鳴き声や行動パターンを総合的に判断することで、現場の生態的な状況をより深く理解できる
4. まとめ
今回の観察は、クロツグミの繁殖期における縄張り争い・資源防衛行動の一例である可能性が高い
鳴き声や行動の詳細な記録が、個体間関係や生態行動の解釈に非常に役立つ
トレイルカメラは、貴重なフィールドデータ収集手段として今後も有効
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つがいで縄張りを持ち、♂は木の梢で大きな声でさえずる。主に地上をはね歩きながら採餌する。数歩はねて立ちどまり、ゴミムシなどの昆虫やミミズを捕える。(p445より引用)確かにクロツグミの♀♂つがいが見事に縄張りを防衛しているようで、昼間この水場には他種の鳥がやって来ません。
クロツグミとヒキガエル幼生に関する観察記録と考察レポート
1. 観察の概要
2024年5月下旬〜6月上旬、山形県の里山における水場に設置したトレイルカメラにより、クロツグミ(Turdus cardis)の成鳥が水溜まりで採餌している様子が複数回記録された。観察映像から、以下の行動が確認された:
クロツグミの雌雄ペアが黒色のオタマジャクシを捕獲し、巣に持ち帰る様子
ミミズなど他の餌も同時に採餌し、巣に持ち帰っている
特に注目すべきは、捕獲されたオタマジャクシがヒキガエル(Bufo japonicus, アズマヒキガエル)と推定される種であったことである。
2. ヒキガエル幼生の毒性と鳥類による捕食
ヒキガエル類は成体だけでなく、幼生(オタマジャクシ)の段階から心臓毒であるブフォトキシン(bufotoxin)を含むことで知られている。一般にこの毒素は魚類や一部の昆虫捕食者に対する忌避効果を持つとされるが、鳥類による捕食例も報告されている。
ヒキガエルの幼生は黒一色で地味な体色をしており、警告色(アポセマティズム)を持たないため、視覚的に毒を予測しにくい可能性がある。これは、捕食者に対する隠蔽戦略を主とする進化的適応と解釈できる。
3. クロツグミの給餌行動と雛への影響
今回の記録では、親鳥が複数のオタマジャクシを捕食・運搬しており、巣にいる雛に給餌したと考えられる。毒性のあるオタマジャクシを雛が摂取した場合、以下のような影響が懸念される:
ブフォトキシンは神経・心臓に作用する強い毒性を持ち、哺乳類や鳥類にも有害
雛は成鳥に比べて体重が軽く、1匹でも中毒死するリスクがある
ただし、実際の給餌では、親鳥が複数の雛に分散して餌を与えることが多く、個体ごとの摂取量は限られる可能性がある
トレイルカメラの映像からは巣内の雛の生存状況や健康状態は不明
4. 因果関係の認知と学習可能性
親鳥が自らオタマジャクシを食べて中毒を経験すれば、忌避学習が成立する可能性は高い。しかし、給餌対象が雛であり、かつ雛が体調を崩したとしても、その原因を特定の餌と因果づけて推論することは難しい。これは多くの鳥類において制限されている認知能力の範囲と一致する。
とはいえ、種全体としては、毒を持つオタマジャクシの忌避行動が自然選択的に強化される可能性はある。すなわち、雛に毒を与えてしまう親鳥の子孫は減り、毒餌を避ける親の行動が有利に働く。
5. 警告色を持たない毒幼生の戦略的意味
アカハライモリのように腹部の赤色を見せる"unken reflex"を持つ両生類とは対照的に、ヒキガエル幼生は視覚的警告を欠く。これは、警告色の進化には色素細胞の前適応や環境要因が必要であること、また水中での視覚信号の有効性が限定的であることが理由と考えられる。
6. 結論と今後の展望
今回の事例は、毒性のあるヒキガエル幼生がクロツグミに捕食され、給餌対象として利用されるという興味深い生態的相互作用を示している。親鳥および雛への毒の影響は、摂取量や個体差によって異なると考えられるが、今後さらなる観察や給餌後の巣の状況(生存率など)を追跡することで、鳥類と毒動物の相互作用についてより深い理解が得られるだろう。
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♂は「からら…ころろ…」とうがいのような小さな声で♀に求愛を始める。この声は求愛給餌に関連していて、どうやら「はい、あーんして」という意味のようだ。これを聞いた♀は反射的に体を伏せ、翼を半開きにして震わせながら「アワワワ」と鳴き、餌乞い姿勢をとる。恐らくハシブトガラスが抱卵中の♀の中に餌を渡す時の音声も同じものだ。単純に餌の受け渡しに留まらず、2羽で寄り添っている時にも「からら…」と鳴くことがあるので、つがい間の関係性を維持する意味があるのだろう。(『カラスの教科書』p76-77より引用)
求愛給餌 コートシップ・フィーディングともいう。求愛行動のひとつで、♂が♀にえさを与えること。このとき♀は、ヒナと同じようにつばさを小刻みにふるわせる。(『マルチメディア鳥類図鑑』より引用)
求愛給餌(きゅうあいきゅうじ、英:courtship feeding) 繁殖相手としたい異性に自らの獲物を差し出そうとすることで成立する、一種の求愛行動。一般に、雄が雌に対して行うもので、雌はこれを受け取るか拒むかで求愛の受け入れの是非を体現する。(wikipediaより引用)私が過去に観察した求愛給餌の事例を復習してみましょう。
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