2021/05/13

雪山に残されたニホンイノシシのフィールドサイン(その1)寝床?、牙研ぎ跡、糞

 

2021年1月中旬・午前11:30頃・晴れ
前回の記事:▶ 雪山をラッセルして逃げるニホンイノシシ2頭@山形県
ニホンイノシシSus scrofa leucomystax)2頭が直前まで隠れていた場所をじっくり調べてみましょう。 
この日の雪質はフカフカの新雪ではなく表面が固く凍っていました。(クラスト状態) 
スノーシュー(西洋かんじき)を履いた私がザクザク、ガリガリと騒々しい足音を立てながら登って来たのに、至近距離までイノシシに近づけたということは、きっとぐっすり寝ていたのでしょう。 
山麓の果樹園(標高295m地点)で前日(または夜)に落果を採食した後で雪深い山林に戻り、ここ(標高335m地点)をねぐらとして寝ていたようです。 

踏み固められた寝床の周囲の雪面には黄土色の新鮮な糞が大量に残されていました。 
複数回に分けて排便したようなので、ここに長時間留まっていたか、定期的に何度もここのトイレに戻って来た(溜め糞?)ということを物語っています。 

スギ(杉)の木の根元の雪が深く掘り返され、土が露出するほどの穴が開いていました。 
穴の底には雪解け水がわずかに溜まっていたのですけど、泥浴びをするための「ヌタ場」を自分で作ろうとしていたのでしょうか? 
ヌタ場にしては狭すぎる気がします。 
穴の底に小さな水たまり

寝床の横に立つスギの幹には、イノシシが牙を研いだような新鮮な傷跡が残っていました。 
縄張り宣言のマーキングをした「サインポスト」なのでしょうか? 
剥がされたスギの樹皮や落ち葉が寝床の雪面に散乱していたので、イノシシは寝心地を良くするためのクッション(断熱材の敷きわら・寝わら)を意図的に集めて敷き詰めたのかもしれません。 
雪深い里山でも寝床を作る習性がイノシシには残っているようです。
子育て・出産をするために作る「巣」と「寝床」は違いますが、作り方は共通したところがあるらしいです。 

スギ幹に牙研ぎ跡


川道武男、川道美枝子『けものウォッチング』という本を読むと、兵庫県六甲山系の禁猟区でニホンイノシシを追跡調査した話が書いてありました。
イノシシは昼行性である。(中略)日が沈み始めると、それまで土を掘っていそがしく餌を探していたイノシシが、きまって寝床に移動を始める。イノシシの寝床は地面を鼻で掘った楕円形の窪地で、ふつうその上に落葉などが敷かれている。寝床は使われるたびに整地し直され、また落葉がかき入れられるが、暗くなる頃には寝床の準備も終わる。 
 イノシシはいったん寝床にゴロンとなると翌朝まで起きない。そのうえ朝寝坊である。場合によっては、明るくなってから2時間、3時間もしないと起きない。そのため、睡眠時間は12時間を越えることが多い。寝ているときは静かであるが、よく寝返りを打っている。(p46より引用)
イノシシは蹄をもつけもの(有蹄類)の中で例外的に巣を作る。(同書p47より)

今泉忠明『アニマルトラック&バードトラックハンドブック』によると、
 イノシシは湿地で転げ回り、全身を泥まみれにする習性がある。これを“ヌタを打つ”といい、それをする場所が“ヌタ場”である。泥浴びした後イノシシは近くのマツの木の根元に行って、幹を牙で削り(牙かけ)、体をこすって松やにをつけ、体毛を磨く。(p13より引用)

ポケット版『学研の図鑑9:フィールド動物観察:足あと、食べあと、ふん』によれば、
イノシシのふんは、イノシシが土をほりかえした場所の近くや、ぬた場の近くなどでよく見つかります。(p82より引用) 
・ニホンイノシシが地面をほりかえしたあと:きばと鼻の先を使ってほりおこしますが、まるでトラクターでほりおこしたようになります。 
・ニホンイノシシがほりかえしたあな:はば1m以上になるようなあなもあります。(p48より)


つづく→逃げたイノシシの追跡を再開



【追記】
高橋春成『泳ぐイノシシの時代 (びわ湖の森の生き物)』によれば、
 かつて私(筆者:しぐま註)は、滋賀県の雪深い伊吹山地を猟場とする狩猟者から、イノシシがマツやスギの大木の下に雪を取り除いた浅い凹地を作って雪をしのいでいるといった話を聞いたことがあり、実際にそのような現場を目撃した。 (p111より引用)
今回私が見つけた現場をまさに説明するような記述でした。


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