2020/06/30

オナガガモ♀を囲い込む♂の求愛誇示:水はね鳴き、そり縮み(冬の野鳥)その1



2020年1月上旬

川面を遊泳する2羽のオナガガモ♀(Anas acuta)に♂の取り巻きがそれぞれついて回っています。(求愛の囲い込み)
2つの求愛群が入り混じったりすれ違ったり、ただ水面に浮かんで寝ている他のオナガガモ大群に一時的に紛れ込んだりして、とても分かりにくい状況です。
登場する個体数が多過ぎて目移りしてしまいます。
求愛する♀を途中で乗り換える移り気な(浮気症の)♂もいるのではないでしょうか。

囲い込みに参加する♂が次々に奇妙な行動を披露していることに気づきました。
求愛誇示のレパートリーの中の「水はね鳴き」および「そり縮み」だとようやく私にも見分けることができました。
1/5倍速のスローモーションでまずはご覧ください。
その直後に当倍速でリプレイ。

『動物たちの気になる行動〈2〉恋愛・コミュニケーション篇 』という本(ポピュラー・サイエンス・シリーズ)に収められた、福田道雄『人前で求愛ディスプレイをするオナガガモ』が挿絵付きでとても参考になりました。

 オナガガモの代表的なディスプレイには、つぎのものがあります。ただし多くの場合、一つのディスプレイは単独で行われることはなく、組み合わせられたり、一連の行動として行われます。
a あご上げ ― 攻撃と逃避の入り交じった気分を示すもので、♂・♀共に幼鳥時から行われる、生活するうえでの基本的なディスプレイです。
b げっぷ ― ♀にマウントしようとする意図が込められていて、♀の後方に近づいた♂がよく行います。嘴を引き、上げた頭を下げるときに「ピュー」という笛声を出します。
c 水はね鳴き ― 「げっぷ」のときよりも、♀から離れた位置で行われ、しかも、♀に対してどの方向からも行われます。前方に伸ばした嘴を引き寄せるときに嘴の先で水をはね上げ、頸(くび)が突き上げられたときに笛声を出します。
d そり縮み ― 「水はね鳴き」の後に続いて行われる、セットになったディスプレイです。オナガガモやコガモでは、引き上げられた尾の側面にある、下尾筒(かびとう)のクリーム色の羽部分が視覚的に強調されます。このディスプレイの後、目当ての♀のほうに嘴を向けます。 (p27〜29より引用)

水はね鳴きをする♂は、水面に少し浸した嘴を素早く横に振り、意中の♀の方向へ水をすくい上げています。
直後に♂は伸び上がり、尾羽を左右に激しく振ります。
このとき♂は特徴的な笛声を発するらしいのですが、川の流れる水音やオナガガモ大群の喧騒に掻き消されてしまい、私には聞き取れませんでした。

よく恋愛ドラマで若いカップルが海辺で相手に水をはね飛ばしてふざけ合うシーンがあります。
海水をかけ合って嬌声を上げています。
相手の気を引くためにヒトもオナガガモと似たような求愛ディスプレイをしていたのですね。

♂による「そり縮み」は、確かに「水はね鳴き」の直後に行われていました。
首と尾羽を同時に高く持ち上げ、水面で海老反り姿勢になっています。
ただし、水はね鳴きだけで終わる場合もあり、必ずしもそり縮みをするとは限らないようです。
そり縮みの直後に♂は確かに意中の♀の方へ嘴を向けていました。
この2つのディスプレイをよく見ていれば、♂がどの♀を狙っているのか傍目にもよく分かるようになります。

囲い込みが混み合ってくると、♂α(♀に最も近い個体)が進路を塞ぐライバル♂βを嘴でつついて追い払いました。
その隙に♀が方向転換すると、取り巻きの♂たちも慌てて追いかけます。
ドサクサに紛れて♀の近くに割り込もうとした♂γを許さずに、♂αが攻撃しました。

オナガガモの複雑な求愛行動を紐解いて少しずつ見えてくると、ますます観察が面白くなってきます。
本の解説を読んだり挿絵や写真を見るだけではどうしても素人には分かりにいです。
やはり動画の説得力は段違いで、スロー再生しながら解説を読み直すとようやく理解できました。

つづく→オナガガモ♀を囲い込む♂の求愛誇示:水はね鳴き、そり縮み(冬の野鳥)その2


【追記】
YouTubeの動画に英語の解説を付ける際に、それぞれの求愛誇示行動に対応する正しい用語を知る必要があります。(英訳の問題)
All about birdsのサイトなどを参考にしました。

Northern Pintails are generally social birds and rarely fight with other ducks. But when one male threatens another, they jab at their rival with their bill open and chase them with their head hanging low, just above the surface of the water. Males and females also lift their chins to greet each other and sometimes tip their chins when threatened. Pairs form on the wintering grounds, but males often mate with other females on the breeding grounds, and pairs only stay together for a single breeding season. Courting males stretch their necks up and tip their bills down while giving a whistle call. Males also preen behind their wing to expose the green speculum. Interested females follow males with head bobbing, preening, and clucking.

また、カモ類の求愛行動を解説した記事:How To Recognize Duck Courtship Displaysが挿絵もあって勉強になりました。

1968年と少し古いですが、「カモ類の求愛行動の進化」と題した比較行動学の論文がPDFで全文公開されていたので、オナガガモのところだけ拾い読みしてみました。
Johnsgard, Paul A. "The Evolution of Duck Courtship." Papers in Ornithology (1968): 31.
The pintail, however,lacks the down-up display, and in this species there is a significant, although delayed, linkage between the grunt-whistle and the head-up-tail-up, which usually occur about one second apart. The pintail also seemingly lacks a functional nod-swimming display, although it is present in an extremely rudimentary form.
確かに私も、オナガガモ♂がnod-swimming ディスプレイをするのは一度も見ていません。


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