2018/05/24

定位飛行と日光浴を繰り返すヒメスズメバチ♀の謎



柳の根際に営巣したヒメスズメバチの記録#2


前回の記事#1
2017年9月中旬

12日ぶりに現場を訪れると、柳の根際の巣口が崩壊して大きな穴がぽっかり開いていました。
前回は茂みに隠れて見えなかったのですが、柳の根際は路肩になっていて、穴の奥には暗渠の入り口(排水口)がありました。



てっきりヒメスズメバチVespa ducalis)の巣を誰かに駆除されたのかと思い、落胆しました。

しかし、必ずしもヒトの仕業とは限らないかも?と思い直しました。
営巣地周辺に生息するアナグマやハクビシンなど野生動物がヒメスズメバチの巣を掘って蜂の子を捕食したのかもしれません。

オオスズメバチに襲撃された可能性は?
あるいは秋の長雨で根際の土砂が自然に流出・崩落した可能性も考えられます。

ヒメスズメバチが自力で土木工事した可能性はどうでしょうか?
例えば、ヒメスズメバチと同じく地中に営巣するオオスズメバチは

巣穴を拡張するため、巣の入口付近に中から運び出した土の固まりが放射状に散乱していることがよくある。 (山内博美『都市のスズメバチ』p41より引用)
(ただし、ヒメスズメバチは地中以外でも営巣することがあります)
私も実際に一度だけオオスズメバチ♀がせっせと巣外に土を捨てる行動を観察したことがあります。

撮影中にヘマをしたせいでオオスズメバチに刺されてしまい、酷い目に遭ったのも今となっては良い思い出です。

▼関連記事
オオスズメバチの巣に御用心(刺傷例)

しかし今回のケースでは、巣の前庭は土で汚れておらず、きれいな状態でした。
私の被害妄想かもしれませんが、やはり駆除説を疑ってしまいます。(何者かが巣を駆除した後にきれいに掃除した?)

定点観察の間隔が開いてしまったことが悔やまれます。

てっきり空き巣だと思った私が未練がましく巣穴を覗き込んでいると、中からヒメスズメバチ♀が出て来て、辺りを飛び回り始めました。
採寸できなかったため、ワーカーなのか新女王なのか私には見分けられません。


飛び立っても巣の位置を記憶するための定位飛行を低空で繰り返していました。
巣穴の方に顔を向けてホバリングしながら扇の弧を描くように飛び、周囲の状況を覚えながら少しずつ弧の半径を大きくするという特徴的な飛び方です。
羽化したばかりのワーカーが初めて外役に出るところなのかな?
巣を守る防衛行動のつもりにしては、私に対する威嚇として大顎をカチカチ♪鳴らす音は聞こえませんでした。



しばらく飛び回ると、ようやく巣の前の地面(前庭と呼ぶことにします)に着陸しました。(@1:35)
日当たりの良い前庭で翅を休めている間も、触角だけは油断なく動かしています。
腹部を激しく伸縮させているのは、激しい飛翔運動の後で腹式呼吸をしているのでしょう。



再び飛び立ち、定位飛行を再開。
低空での羽ばたきに煽られて、地面の土や落ち葉が舞い上がります。
蜂が羽ばたく影の動きもフォトジェニックです。
定位飛行するということは、外出しても必ずまた戻ってくるはずです。
しかし私の予想は外れ、外役に出かけずまたもや前庭に降り立ってしまいました。

休憩の際は必ず巣口とは反対の外を向いています。
太陽に正対して日光浴をしているようです。
この♀個体の行動は、巣穴の手前で油断なく辺りを見張ってコロニーを守る門番(門衛)を務めているようにも見えます。
しかし、そんな行動は今までヒメスズメバチで見たことがありません。

そこへ別個体のワーカー♀が飛来(帰巣)しました。(@4:14)
それに反応した門衛?は定位飛行を再開したものの、すぐに着陸してしまい、迎撃行動は見られませんでした。
今度は太陽に対して横を向いて静止しました。

12日前の観察に比べてコロニーの個体数は激減したものの、全滅は免れたようで一安心。
♀の出巣および帰巣も動画で撮影することができました。
一度壊された巣を再建したのかもしれませんが、穴の奥にある巣の様子を直接見るまでは分かりません。

しばらくすると、別個体βが巣穴から歩いて前庭に出て来ました。(@5:37)
それと同時に、前庭で日光浴していた門衛αが定位飛行を再開。
βは定位飛行せずにそのまま外役へと飛び去りました。
先程からいつまでも定位飛行を繰り返す個体の特異性(異常性?)が際立ちます。

後半はカメラを三脚に固定して、巣穴へ出入りする蜂を狙うことにします。(@6:06〜)
相変わらず謎の定位飛行と帰巣を繰り返している個体がいます。
よほど箱入り娘だったのでしょうか。
こんなに長時間やらないと巣の位置を記憶できないということは、よほど物覚えの悪い(馬鹿な)異常個体個体なのでしょうか?


「外役に出て留守にしている間に巣が壊されたせいで営巣地周辺の景色が激変し、帰巣時に迷子になっている」というシナリオが一番しっくり来るのですが、私の想像でしかありません。

巣がいつ壊されたのか分からないからです。
他の個体が正常に帰巣できているのに、一匹だけいつまでも迷子になっている理由も分かりません。

スズメバチ成虫の栄養源は巣内で幼虫から口移しでもらう栄養交換液と野外で摂取する花蜜や樹液などです。
巣が壊されているとしたら幼虫と栄養交換できなくなり、羽化してもひどく飢えてしまうでしょう。
飛んで外役に出かける元気すらないのかもしれません。

4年前に山中でヒメスズメバチの巣を観察した時の記録を振り返ってみると、定位飛行はあっさりした(簡略化した)ものでした。

▼関連記事(4年前の撮影)
ヒメスズメバチ♀の定位飛行【ハイスピード動画】


カメラを上にパンして柳の灌木を映します。(@7:45)
秋晴れの青空がきれいです。


つづく→#3:出巣をためらうヒメスズメバチ♀の謎


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