前回の記事:▶ セイタカアワダチソウの花で採餌するオオマルハナバチ♀
2023年11月上旬・午後15:00頃・くもり
訪花吸蜜していたオオマルハナバチ♀(Bombus hypocrita)がセイタカアワダチソウの花穂からなかなか飛び立たないので、衰弱して飛べないのかな?と心配になりました。
寿命が近いワーカー♀なのかな?
体に寄生ダニなどは付着していませんでした。
私が動画を撮りながら右手で捕まえようと蜂に軽く触れたら、その度に中脚および後脚を高々と持ち上げました。
威嚇姿勢のようですが、毒針を伸ばして誇示することありませんでした。
蜂がしがみついていた花穂の先をちぎり取り、なんとか蜂を手乗りさせることができました。
この個体はとにかく動きが緩慢で、元気がありません。
口元を見ても、私の皮膚から汗を舐めているようには見えませんでした。
私が指先でオオマルハナバチ♀の体にそっと触れる度に、脚を1〜2本持ち上げます。
体を傾けて、刺激された同側の脚をいつも上げるのが興味深いです。
正面から触角に触れると、左右の中脚を同時に持ち上げて万歳の体勢になりました。
「それ以上近づくなよ」という警告・威嚇の意思表示なのでしょう。
脚に鋭い棘や爪、キック力がある訳でもないのに、敵に対してどれだけ威嚇・牽制の効果があるのか疑問です。
(私にはハッタリで虚勢を張っているようにしか見えません。)
私が面白がってしつこく反応を調べても、繰り返し刺激への馴化(慣れ)はなさそうです。
苛立ったオオマルハナバチ♀が毒針で私の手を刺してくることはありませんでした。
ちなみに、ハチとは進化的に離れた系統のコガネムシ類でも似たような脚上げ威嚇姿勢が見られます。
この個体は翅や体毛が全く擦り切れておらず、大型なので、ワーカー♀ではなく新女王なのかもしれません。
一般的に、女王蜂の攻撃性が低いのは当然です。
真社会性ハチの女王は次世代に子孫を残す使命がありますから、毒針を使って敵と戦うのではなく、極力逃げることを選択します。(逃げるが勝ち、三十六計逃げるに如かず)
下手に敵と戦うと反撃を食らって死傷する可能性があるからです。
もしも元気なワーカー♀を相手に同じ実験をしたら、怒った蜂に毒針で手を刺されていたかな?
実験に満足した私は、蜂をセイタカアワダチソウの花穂に戻してやろうとしたのですが、なかなか上手く行きません。
もたついている間に、オオマルハナバチ♀はブーン♪と羽音を立てて飛び去ってしまいました。
私の体温で充分に温められたのか、飛び立つ前に胸部の飛翔筋を震わせる準備運動をしませんでした。
しかし飛ぶ力は弱く、羽ばたきながら私の手から落ちてなんとかセイタカアワダチソウの茎に引っかかりました。
再び自発的に飛んだものの、あまり遠くまで飛べませんでした。
気温を測り忘れましたが、私の体感では寒さを全く感じませんでした。
『マルハナバチの経済学』という専門書のp264に「マルハナバチの巣内での諸行動」と題したイラストが掲載されています。
その中に、「中後脚をあげるマルハナバチ独特の警戒姿勢」が示されていました。
私の知る限り、この行動について書かれた本はこれだけです。
同じイラストによると、マルハナバチの攻撃姿勢は更に独特で、なんと仰向けにひっくり返るのだそうです。
(おそらく、このとき毒針を見せつけるのでしょう。)
私は未だ実際に見たことはないのですけど、マルハナバチの巣を手荒く暴いたときぐらいにしか攻撃姿勢は見られないのかもしれません。
この行動を指す正式用語をどうしても知りたくて、Google Scholarで検索してみると、最近の研究論文を見つけました。
全文が無料で公開されています。
マルハナバチの脚上げ反応(万歳姿勢、ハイタッチ)が注目されるようになったのは、ごく最近のことなのだそうです。
disturbance leg-lift response (略してDLR)と名づけていますが、 disturbanceが日本語に訳しにくいです(撹乱?)。
「蜂にちょっかいかけると脚を高く上げる」というニュアンスです。
素人が勝手に「脚上げ威嚇反応」と名づけてみました。
専門家による用語の正式な和訳を見つけたら、訂正します。
【参考文献】
Varnon, Christopher A., et al. "The disturbance leg-lift response (DLR): an undescribed behavior in bumble bees." PeerJ 9 (2021): e10997.
Figure 1. The disturbance leg-lift response (DLR) of the bumble bee. Artwork by Jennifer Salazar. Original reference photographs by Ivan Mikhaylov. |
この論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開されているので、ありがたく原図1を借用させてもらいます。
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