2021年8月下旬・午前8:45頃・晴れ
山道を麓から登り始めたばかりの地点で、キイロスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)のワーカー♀が何か白い幼虫を抱えて地面を引きずって歩いていました。
蜂は獲物の胸部を咥えたまま砂利道を前に歩いて運んでいます。
獲物が重過ぎるようで、激しく羽ばたいても蜂は飛び立てません。
このままでは樹上の巣に獲物を搬入できないでしょう。
単独性の狩蜂がこのように獲物を運ぶ姿はよく見かけます。
しかし、社会性のスズメバチ類♀は獲物を狩るとその場で解体し、肉団子に加工してから巣に持ち帰るはずです。
こんな丸ごとの幼虫をわざわざ運んでいるのは変です。
重労働で疲れたキイロスズメバチ♀は砂利道で立ち止まって一休み。
やがて獲物をその場に残したまま突然(自発的に)飛び去りました。
私は蜂を驚かすようなことは何もしていません。
飛び立つ瞬間を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。
捨てられた幼虫は全く動きません。
胸部側面に蜂の歯型が残っていました。
素人目には生死が不明ですし、そもそも何の幼虫なのか見分けられません。
おそらく近くの樹上にキイロスズメバチの巣があったのでしょう。
(探しても見つかりませんでした。)
巣内で不要となった幼虫をワーカー♀が育房から引き抜いて捨てに来たのだと思います。
体内寄生された幼虫や病気に罹患した幼虫を見抜いて捨てるのではないか?と個人的には考えています。
遺棄した幼虫を実際に解剖して、体内寄生の有無を確認すべきでしたね。
餌が少なくなる晩秋になると、口減らしのために多くの幼虫を(健康であっても)巣から捨てる必要に迫られるのだそうです。
しかし今回撮影したのは8月下旬(未だ晩夏)なので、餌不足による口減らしとは考えにくいでしょう。
蜂の子は栄養満点なのに、スズメバチが不要になった幼虫を食べずに捨てるのは不思議です。
昆虫にヒトの倫理観は通用しませんから、肉団子に加工して他の幼虫に給餌する方が合理的なはずです。
スズメバチの成虫は解剖学的に固形物を飲み込めませんから、単純な共食いは不可能です。(※註記参照)
せっかく幼虫に投資したタンパク質を無駄に捨てるのは勿体無いです。
どうしてこんな(一見すると)無駄な行動が進化してきたのかと考えると、やはり体内寄生された幼虫個体または感染症に罹った幼虫個体を選んで捨てているのではないか?と私は個人的に疑っています。
それなら営巣木の真下に幼虫を落として捨てるだけでなく、少しでも離れたところに運んでから遺棄する理由も納得できます。
ちなみにスズメバチに体内寄生する天敵としては、ハリガネムシやスズメバチネジレバネ、カギバラバチなどが知られています。
関連記事(5、6年前の撮影)▶
・宿主キイロスズメバチ♂から脱出したハリガネムシ
・ネジレバネに寄生されたキイロスズメバチ♂は飛べなくなる?
・ネジレバネに寄生されたオオスズメバチ♀がコナラの樹液を吸汁
※【註】
ヒメスズメバチ♀は、同じスズメバチ科であるアシナガバチの巣を襲う専門家です。
アシナガバチの幼虫や蛹を巣の育房から引き抜くとその場で噛み砕いて体液を吸い、皮などの固形物は捨ててしまいます。
関連記事(12年前の撮影)▶ ヒメスズメバチ vs キアシナガバチ
巣内の幼虫を捨てる必要に迫られた時、ヒメスズメバチなら躊躇せずに食べたり他の幼虫に給餌したりするのではないか?という気もします。
蜂が飛び去った直後の幼虫の胸部側面には歯型が残っていた。 |
1円玉の直径は20ミリ |
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