アカタテハの飼育記録:2022年#1
前回の記事:▶ クサコアカソの群落でアカタテハ終齢幼虫の巣を見つけた!
2022年8月下旬・夕方〜深夜・室温23〜24℃
農薬散布の影響が無さそうな自生地として、平地の用水路沿いにわんさか生えているクサコアカソの群落を選びました。
虫食い(食痕)の無い3株の茎を切って現場で水切りし、家に持ち帰りました。
早速、アカタテハ終齢幼虫を新鮮な食草クサコアカソに移してやりました。
アカタテハ幼虫の棘に触れても全然痛くないのですが、飼育中の幼虫には素手で触れず、柔らかな筆を使うようにしています。
幼虫は株の上部に移動してから、小さな若い葉を絹糸で綴って隠れ家を作り始めました。
巣作りの一部始終を微速度撮影してみました。
30倍速の早回し映像をご覧ください。
自分の周囲にある小葉や果穂に絹糸を何本も張り巡らせ、その張力で次第に巣材を引き寄せ、互いに綴り合わせます。
赤い葉柄が固くて巣材として加工しにくい場合には、茎の一部を大顎で齧って切れ込みを入れ、曲げやすくしています。
茎や葉柄を噛み切って完全に切り落とさないのがポイントで、薄く皮1枚残しておけばやがて茎の先端部は萎れて柔らかくなります。
これは食前のトレンチ行動も兼ねているのでしょう。
【参考文献】
『チョウの行動生態学 (環境Eco選書)』という専門書の第1章「幼虫の行動」に井出純哉「アカタテハの巣作り行動」と題した総説が収録されていて、とても勉強になりました。
原著論文はこちら。
Ide, Jun-Ya. "Leaf trenching by Indian red admiral caterpillars for feeding and shelter construction." Population Ecology 46.3 (2004): 275-280.作業の合間にお腹が空くと、アカタテハ幼虫は巣材をときどき齧っています。
巣内に下半身を隠しながら上半身を一杯に伸ばして、巣の近くにある葉をときどき食べています。
クサコアカソの葉縁からきれいに食べ進むのが目的ではなく、あくまでも巣作り工程のついでに巣材のあちこちをつまみ食いしているようです。
巣内で休憩(食休み? 大休止)することもあります。
出来上がった隠れ家(シェルター)は隙間だらけのゆるゆるで、天敵(捕食者および寄生者)に対する要塞というよりも、ただの目隠し(ブラインド)にしかなりません。
アカタテハ幼虫がオトシブミのように巣を隙間なくきっちり(堅牢に)作り込まないのは、手間がかかるのと、却って天敵に目立ってしまうからだと思います。
食草の群落でなるべく違和感がない巣を作る必要があります。
カラムシの群落でアカタテハ幼虫が巣を作ると、白色の葉裏が表側になり、逆に目立ってしまうことが知られています。
今回、巣を構成するクサコアカソの葉は必ずしも裏面を外側に向けてはいませんでした。
クサコアカソはカラムシほど裏表で葉の色が変わりませんから、隠れ家の存在はあまり目立ちません。
次回はカラムシを食草として与えて巣作りを改めて観察してみるつもりです。
(近所にカラムシの群落が無いので、調達が難しいのです。)
【参考サイト】
アカタテハの観察日記2@晶子のお庭は虫づくし
鱗翅目の幼虫で隠れ家(巣)を作るのは一部の種だけです。
繭を紡ぎ始める前から巣作り用の絹糸腺に栄養を投資する必要があるとすれば、巣を作らない他種の蝶や蛾の幼虫よりもアカタテハは成長が少し遅れると予想されます。
関連記事(2年前の撮影)▶ アカタテハの飼育記録:2020年
造巣開始 |
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