2025/01/25

アナグマの溜め糞に集まり求愛と交尾拒否を繰り広げるベッコウバエ♀♂

 

2023年10月下旬・午後13:45頃・くもり 

平地のスギ防風林に残されたニホンアナグマMeles anakuma)の溜め糞場stmpを定点観察しています。 
秋になると、ベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)が下痢便(軟便)状の糞塊に群がるようになりました。 
ベッコウバエの求愛・交尾拒否については、タヌキの溜め糞場でこれまで何度も(毎年のように)観察していますが、アナグマの溜め糞では初見です。 

ベッコウバエの性別を見分けるのは簡単で、配偶行動を観察するのに適しています。 
体長は♀<♂で、♀の腹部は黒いのに対して、♂の腹部は黄金色の剛毛で覆われています。 

泥状の糞塊の中を夥しい数のウジ虫が徘徊していました。 
ベッコウバエの幼虫も含まれているはずですが、キンバエやニクバエなど他種の幼虫も混じっているはずです。 
(私には幼虫の種類を見分けられません。)

溜め糞に居座る大型のベッコウバエ♂に注目して、その行動を動画撮影してみました。 
まるで「お山の大将」ですけど、実際には交尾できていない「あぶれ♂」です。 
交尾相手の♀を虎視眈々と待ち伏せしているのです。 
あぶれ♂は探雌求愛行動に忙しくて、獣糞を吸汁する暇がありません。 
溜め糞上でせかせかと歩き回り、ときどき立ち止まって身繕いします。 

ひっきりなしに翅を素早く開閉して斑点の斑紋を見せつけているのは、♀を誘引・誘惑するための求愛ディスプレイ(誇示行動)ではないかと思います。 
♂の翅を除去したり翅の斑紋(水玉模様)を改変したら、交尾の成功率が落ちるかどうか、実験したら面白そうです。

あぶれ♂は、近くに来る同種の個体に次々と飛びかかるものの、振られてばかりです。 
飛びつく相手の性別は問わず、とにかく誰にでも挑みかかります。 
ベッコウバエ♀♂の交尾は、早い者勝ち(スピード勝負)なのでしょう。 

♀の多くは既に交尾済みらしく、♂に求愛されても交尾を拒否し、振られた♂はあっさり諦めて離れます。 
一旦離れてから同一個体♀にすぐ再アタックすることもあり、また玉砕しました。 
近くで動くベッコウバエを見つけたら、♂はとにかく反射的に飛びついてしまうようです。 

ベッコウバエ♀による交尾拒否の意思表示が具体的に何なのか、私の知る限りでは解明されていません。 
おそらく胸部の飛翔筋を振動させるのではないかと、勝手に想像しています。 

ベッコウバエの♀は色気よりも食い気で、溜め糞上で吸汁や産卵に専念しています。 
ただし、ベッコウバエ♀の産卵行動を私はまだ実際に観察できていません。 
今回は時期が遅いのか、特徴的な形(扁平)をしたベッコウバエの卵は、アナグマの溜め糞上に見当たりませんでした。 
15日前に同所で定点観察した際には、ベッコウバエ♀が産み付けた大量の卵がニホンアナグマの糞の表面にまぶされてしました。(映像公開予定)

独身♂が他のあぶれ♂にも飛びついているのは、同性愛的な誤認求愛のように見えて、実はライバル♂を一番良い餌場から追い払っているのかもしれません。(闘争による占有行動) 

首尾よく交尾に成功した♂は、交尾後も♀にマウントしたまま配偶者ガードを続けて、ライバルのあぶれ♂から♀を奪われないように守っています。 
交尾中(あるいは交尾後ガード中)の♀♂ペアに対しても、あぶれ♂は構わず飛びかかります。 
しかし横恋慕しても♀の強奪に成功して交尾に至った例を私は見たことがありません。 

体格の小さなベッコウバエ♂は、♀を巡る♂同士の争いで不利なはずですから、サテライト戦略やスニーカー戦略を発達させても不思議ではありません。 
次回は小柄なベッコウバエ♂に注目して、その繁殖戦略をじっくり観察するのも面白そうです。


余談ですが、今回の記事を書くために調べ物をしているときに、ベッコウバエの学名がNeuroctena formosaではなく正しくはDryomyza formosaだとPerplexity AIから教えてもらい、訂正しました。
Neuroctenaという属名自体が後発異名で無効らしい。

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