2023年4月下旬
新旧2台のトレイルカメラを設置して2つのアングルから同時にニホンアナグマ♀(Meles anakuma)の営巣地(セット)を監視しています。
二次林の林床に巣穴はRとLの2つ並んでいるのですが、周囲に藪のように生えた多数の灌木に遮られて巣穴Lがよく見えないのが悩みです。
(巣穴Lの監視が不十分で、見落としがあるかもしれません。)
アナグマの穴掘り行動を初めて観察できて感動しました。
シーン1:4/23・午前4:35・(@0:00〜)
日の出時刻は午前4:51。
日の出前にアナグマが巣穴Rに頭を突っ込んでいました。
てっきり、夜這いに来た♂が巣口Rに侵入しようとしているのかと思いきや、巣穴Rから掘った土砂を前脚で外に掻き出していました。
そのまま巣穴Rの奥へ入りました。
この個体の性別を見分ける手がかりが得られませんでした。
シーン2:4/23・午後19:57・気温7℃・(@0:38〜)
日の入り時刻は午後18:25。
約15時間20分後の晩は雨が降っていました。
セットの奥から登場した♂が右の林縁から回り込んで手前の巣穴Rへ来ました。
入巣Rするかと思いきや、巣穴Rに頭を突っ込むと、中から土を掻き出し始めました。
この個体の体型は♂っぽいのですが、求愛の鳴き声を発していませんし、巣穴の主♀が怒って追い払う様子もありません。
撮影当時の私はてっきり、♂が夜這いに来て、♀が籠城する巣穴へ強引に押し入ろうとしているのかと思いました。
後にアナグマ関連の本を読むと、巣穴の土木工事は全てヘルパー♂(実家暮らしの若い息子♂)の仕事なのだそうです。
独立しないで親の子育てを手伝うヘルパーと言えば鳥類でよく知られています。
子育ての練習として♀がヘルパーになるものとばかり思い込んでいた私は、アナグマのヘルパーが♂と知って驚きました。
穴掘りは重労働ですから、上半身の筋肉が隆々と発達したヘルパー♂に任せるように進化したのでしょう。
ということは、どうやらこの個体はヘルパー♂のようです。
狭い入口を拡張すると、ようやく入巣R。
シーン3:4/24・午前0:51・気温4℃・(@1:21〜)
日付が変わった深夜、雨は上がりました。
♂がセットの奥をうろついています。
奥の巣穴Lの横を回り込んでから手前の巣穴Rへ近づいてきました。
入巣Rせずに、巣口Rで少し穴掘りをしました。
巣穴Rの外に出ると、身震いして体の土を落とします。
そのままセットを離れ、右の二次林へ立ち去りました。
シーン4:4/24・午前5:00・(@2:12〜)
日の出時刻は午前4:50。
アナグマの巣穴を隠すように生えた細い落葉灌木に青々とした若葉が展葉し始めました。
樹種はマルバゴマキ(別名マルバゴマギ、ヒロハゴマキ、オオバゴマキ)と後に判明します。
日の出直後からアナグマ♀が穴掘りしていました。
巣口Rに頭を突っ込み、後退しながら巣内の土を後ろに掻き出しています。
上半身の毛皮が黒い土で汚れていて、本来の毛並みの色が分かりません。
黒い過眼線がくっきりしていてシャープな顔立ちなので、明らかに♂ではなく♀と分かります。
巣穴の主♀は左右の目の大きさが非対称なのですが、赤外線の暗視映像でしか区別できません。
明るい昼間は黒い過眼線に隠れて瞳の大きさが見分けられないのです。
定説に反して♀も穴掘り作業に従事することがあるのか、それとも未成熟の若い♂は♀っぽい体型に見えるのか、この点が今の私には分かりません。
(外性器をしっかり確かめたいのに、なかなか見ることができません。)
外で身震いしてから入巣Rしました。
シーン5:4/24・午前5:03・(@3:11〜)
約1分30秒後にカメラが起動すると、ずんぐりむっくりした♂が巣口Rの右に来ていました。
(よそから来たのではなく、出巣Rした直後だと思われます。)
体に土汚れも無く、明らかにさっきとは別の個体です。
巣口Rの匂いを嗅ぎ回ると、この♂個体も穴掘りを始めました。
巣口Rを拡げようと前脚で掻き出した土砂を後ろに跳ね上げています。
そのまま入巣Rしました。
アナグマ関連の本を読んで勉強するまで私はヘルパーの存在を知らず、アナグマの♀♂番 が春は同じ巣穴で暮らしているのかと動画を見て勝手に解釈していました。
シーン6:4/24・午後18:28・(@4:41〜) 日の入り時刻は午後18:26。
夕方まで近くの田畑を耕耘していたトラクターの騒音がようやく止みました。
日没直後に♂がセット付近をうろついています。
巣口Rの窪みに入ると、右に向かって穴を掘り始めました。
夜這いに来た♂ではなく、ヘルパーの♂だと考えています。
よそから求愛に来た♂が暇潰しで穴を掘っているという可能性もあるのですが、それなら巣内の♀(またはヘルパー)が怒って直ちに撃退するはずです。
シーン7:4/27・午後18:26・(@5:20〜)
日の入り時刻は午後18:28。
3日後は日没直前から♀が活動開始。
巣穴Rの外を少しうろついてから、巣口Rの縁で穴を掘り始めました。
拡張した巣口Rに入ってしばらくすると、巣口Rから♀が顔を出しました。
そこで1.5分間の録画時間が終了しました。
※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。
【追記】
少し古い本ですが、鈴木欣司『アナグマ・ファミリーの1年』(2000年)によると、著者の観察したヘルパーは♀でした。
アナグマのヘルパーは、イギリスなどにすむヨーロッパアナグマでは知られています。ヨーロッパアナグマは、開けた牧草地などに「セット」とよばれるたくさんの巣穴を掘り、そのなかで「クラン」とよばれる母親、おばあさん、姉妹など血縁どうしのグループをつくって生活をしているからです。ところが日本にすむニホンアナグマは、「クラン」はつくらないで、単独で生活しています。(中略)(著者が観察している:しぐま註)フィーダーに前年生まれた♀が残り、ヘルパーがたんじょうしたのはなぜでしょうか。わたしたちは、フィーダーをふくむこの近辺は、食べ物に困ることが絶対にないからだと推測しました。自分の食べる分がへるようだったとしたら、母さんアナグマは、何がなんでも子どもを追いだしたでしょう。残ることをゆるした♀の子どもに、子育てを手つだわせることで、育児負担は少なくなり、赤ちゃんアナグマの安全もまもれる。♀の子どもにとっても、子育てを手つだうことが、自分の子育てのときに役に立つのです。わたしたちが観察しているフィーダーでは、前年生まれた子どもが残ることは、母親にとっても残った子どもにとっても、利益が生まれたのでした。(p22〜23より引用)
その後、ニホンアナグマでヘルパー♂の存在が明らかになったのは、常識外れというか、かなり大きなパラダイムシフトだったに違いありません。
無人カメラという文明の利器による長期観察(カメラトラップ)が可能になった功績が大きいです。
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