2014年10月下旬
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ケブカスジドロバチ♀の泥巣作り#2:接写
巣材集めのために出入りする蜂の離着陸を240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
撮影時刻は午後12:27〜13:42。
よく晴れていて、マクロレンズでも光量は充分です。
飛んで来る蜂のシルエットが白壁に映って美しいですね。
カメラを固定したくても巣穴の場所が低過ぎて三脚が使えません。(地上8cm)
そこで途中からは畳んだ衣類をカメラの下に敷いて高さを調節しました。
蜂が帰って来たときに録画開始ボタンを慌てて指で押すとぶれるので、リモートレリーズを使いました。
巣材の泥玉を抱えて帰巣した蜂は巣穴の前で軽くホバリング(停空飛翔)してから白壁に着陸します。
スローモーションで見ると、泥玉は大顎に咥えているだけで、前脚は使っていないようです。
それから、出巣の際にようやく顔が拝めました。
触角の付け根の間に黄紋があります。
午後の観察中、巣への出入りを毎回HD動画またはハイスピード動画で記録しました。
定点観察のため翌日とそれ以降もときどき見に来たのですが、残念ながら泥巣が完成する前に蜂が帰って来なくなってしまいました。(蜂を見たのは1日目だけ。)
まさかしつこいパパラッチに嫌気が差して作りかけの巣を見捨てて営巣地を変えたとは考え難いのですけど、母蜂が天敵に襲われたり寿命を迎えたのでしょうか?
産卵や貯食行動も観察できませんでした。
おそらく鱗翅目の幼虫を狩り集めるはずですが、この時期は寒くてもはや獲物となる芋虫も山中にはほとんど居なさそうでした。
「泥巣が完成したら、発掘・採集した蜂の子を室内飼育で越冬させたい」と取らぬ狸の皮算用をしていたのに、来期以降の課題になりました。
ムモントックリバチの泥巣 |
実は同じ白壁の数メートル横で同様のコンクリート穴に徳利状の小さな泥巣も見つけました。
私が造巣行動の初めだけ観察したケブカスジドロバチ♀は徳利状の泥巣を作るのでしょうか?
それともこれは別種のドロバチが作ったのかな?
徳利を発掘しようと思いつつ先延ばしにしていたら冬になり根雪に埋もれてしまいました…。
いつもお世話になっているヒゲおやじさんの掲示板にお邪魔して問い合わせたところ、「トックリはムモントックリバチ(Eumenes rubronotatus)ではないか」とご教示頂きました。
シリーズ完
【追記】
ケブカスジドロバチ(Ancistrocerus melanocerus)の生態について記録を調べてみました。
まず古典的バイブルである岩田久二雄『本能の進化:蜂の比較習性学的研究』を紐解いてみます。
ドロバチ科の営巣記録の一覧表(p241)にシノニム(Ancistrocerus densepilosellus Cameron,1911)として載っていました。
本種の獲物は鱗翅目幼虫、造巣法は築坑型、貯蔵数10-20、独房数6。
築坑型のAncistrocerusはすべて円筒型または洋樽型の泥瓶をつくる。それらの付着される場所は、樹枝や人家の壁や岩壁の表面であることが多いが、時には既存坑の中にかくして泥瓶を造るものもある。上記の付着場所は一般には雨が直接かからぬような、凹みや庇の下をえらんでいるが、これは泥瓶には耐水性がないからである。
岩田久二雄『日本蜂類生態図鑑』p37によると、ケブカスジドロバチの旧名はミヤマスジドロバチと呼ばれていたようです。
スジドロバチ(Ancistrocerus)属の諸種が、練り土を使って広口の独房を築造することが知られている。(中略)ミヤマスジドロバチ(A. densepilosellus Cameron)は山嶽地帯に生息していて、ビール樽型の広口の独房を造るが、稀な種である。数独房を塊状にかためて造る。獲物は小形のアオムシの成熟近いものであり、不完全麻痺させた上、各房に6〜20頭も貯蔵する。今までに同定された獲物は1つもない。
インターネット検索すると、次の文献(講演要旨PDF)を見つけました。
郷右近勝夫. "F214 ケブカスジドロバチの生態的研究 (IV) 北日本での世代数と営巣場所の選択性について (生態学)." 日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 38 (1994): 131.それによると、今回観察したのは越冬世代の巣であるとはっきりしました。
成虫の出現は4月上旬〜12月中旬までの長期間にわたって認められた。この間、2〜3世代を経ると推定。営巣場所(造巣基)は圧倒的に石面が選択されるが、そのほか土中、鉄支柱、コンクリート壁、キゴシジガバチの古巣なども、利用される。
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