(オニヤンマの)成熟♂は夏の朝夕を中心に、木陰の多い細流に沿って長距離を往復飛翔しながら♀を探す。川沿いの林道上などもよくパトロールする。(『日本のトンボ』p291より引用)
この行動は私も観察済みです。
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少し古い本ですが、『トンボの繁殖システムと社会構造 (動物 その適応戦略と社会)』によると、
オニヤンマやムカシトンボなどでは、♂は縄ばりをもたないで広く♀を探し回る。トンボの♂が♀を獲得するために縄張りをもつか、それとも探索するかは、種によって固定されたものであるという考えが以前は根強かった。 (p63より引用)
さほど忍耐力を持ち合わせないトンボの場合には、♀が卵を産んでいそうな場所を探す積極戦法をとる。その代表がオニヤンマで、川に沿って行ったり来たりしながら♀を探す。産卵している♀を見つけると、そっと近づいて狙いを定め、次の瞬間♀に飛びついてゲットする。♂同士が出会うと追いかけるものの、あまり激しい争いはしない。 (p46より引用)
(オニヤンマは)成熟すると流水域に移動して、オスは流れの一定の区域をメスを求めて往復飛翔する。従来、この往復飛翔は縄張り維持とされていたが、最近の研究で、オスは羽ばたくものはすべてメスと見なしてしまい、出会うオスをメスと見なして追いかけ、縄張り維持でないことがわかった。(中略)オニヤンマのオスは流れの一定区域をパトロールし、侵入する同種個体に接触を図る。オスに出会うと激しく追いかけて排除し、メスに出会うと捕まえて交尾をおこなう。
この記述によれば、今回私が撮影した空中戦は2匹の♂が互いに♀だと誤認して追尾し合い、縄張り争いのように見えただけ、ということになります。
後半の下線部はまさに縄張り行動だと思うのですけど、前後半で筆者が違うのでしょうか?
次に機会があれば、♀が飛来するまで待って、どうなるか見届けたいものです。
♂同士が戦って♀を獲得する動物の中には、生まれつき体格に劣り喧嘩に弱い♂個体はスニーカー戦略(サテライト戦略)という裏技で子孫を残そうとする例が知られています。
つまり♂の繁殖戦略に個体差があっても不思議ではありません。
あえて個人的な仮説を立てるならば、オニヤンマでも強い♂は縄張りを張って♀を待ち伏せし、縄張りを獲得できなかった弱い♂個体が♀を積極的に探索する放浪の旅に出るのではないでしょうか?
トンボの古い図鑑ではどう説明されているかと言うと、
未熟な(オニヤンマの:しぐま註)成虫は林冠の樹梢をしばしば数匹〜10数匹の小群をつくって高飛するが、夏日やぶのそばの路上の同じ場所を往復飛翔する性質のあることはよく知られている。また成熟した♂は流れの上を往復飛翔して縄張りをつくりパトロールする。(保育社『原色日本昆虫生態図鑑IIトンボ編』(1969年)p100より引用)
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