2021年7月下旬・午後14:45頃・くもり
郊外の住宅地で何か茶色の獲物を運んで飛ぶモズ♂(Lanius bucephalus)を目撃しました。
そのままモズ♂は、民家の庭に植栽された針葉樹の茂みに飛び込みました。
(映像はここから。)
止まり木はイチイのようです。(秋に赤い実がなるかどうか、要確認。ヒマラヤスギやモミかも?)
針葉がついてない枯枝の部分に止まってくれたので、撮影しやすくて助かりました。
ちなみに、イチイ?の手前に見える低い針葉樹はドイツトウヒ(別名オウシュウトウヒ)です。
今回の捕食メニューはアブラゼミ♀(Graptopsaltria nigrofuscata)でした。
モズ♂はイチイの尖った枝先に獲物の胸部を背面から串刺しに固定し、茶色の翅を嘴で毟り取っていました。
アブラゼミはもう既に死んでいて、全く暴れません。
アブラゼミの腹面に発音器官の腹弁が見えなかったので、餌食となった個体は♀と判明しました。
てっきり樹上で鳴いている声を頼りにセミの♂を捕食するのかと思いきや、鳴かない♀とは意外でした。
モズが一体どうやって捕まえたのか、興味があります。
飛んでいるアブラゼミ♀を素早く掴まえたのでしょうか?
それとも路上でよく転がって死んでいるセミの死骸を拾ってきたのかな?(スカベンジャー)
獲物の翅を完全に除去するとモズはアブラゼミ♀を串から外し、珍しく右足で掴みました。(@0:55)
すぐにまた獲物を咥え直し、初めの枝の刺にしっかり刺し直しました。
食材の下処理が済むと、ようやく獲物を食べ始めました。(@1:12)
アブラゼミ♀の肉片を少しずつ啄むと、美味そうに食べています。
食事の途中で食べ残しを枝の刺に残したまま、モズ♂はなぜか下の枝に跳んで移動しました。(@1:55)
捕食で汚れた嘴を目の前の小枝で拭っています。
再び食卓に戻ると、食事を再開。(@2:17)
食べ進めると串に刺したセミが不安定になります。
獲物を串から外して咥え、改めて刺にしっかり刺し直しました。(@3:04)
完食する前に、啄んだ獲物をうっかり下に落としてしまいました。(@3:39)
モズ♂は慌てて取りに行くも、見失ったようです。
しばらくすると同じ食卓に戻って来てくれましたが、空荷でした。
さほど落胆した様子もなく、食後のモズ♂は嘴をあちこちの枝に念入りに擦りつけて汚れを拭い取っています。
どんどん上の枝に登り、イチイの枝葉の陰に隠れてしまいました。
私が長時間ずっとカメラを向けているので、警戒したようです。
ようやく落ち着くと、辺りをキョロキョロ見渡しています。
視界の開けた枝に移動すると、こちらにお尻を向けてから白い糞をポトリと排泄しました。(@5:41)
排便後は再び枝葉の茂みの陰に隠れました。
時おり遠雷♪が鳴り響き、今にも夕立が降りそうです。
関連記事(5年前の撮影:獲物はトンボ?)▶ 虫を解体・捕食するモズ♂(野鳥)
モズの捕食シーンを初めてじっくり観察できて感動しました♪
モズ♂は獲物の固定具として木の枝の刺を使ったことになりますが、これは一種の道具使用と言えるでしょうか?
他の種類の肉食性鳥類なら足で獲物を押さえつけながら嘴で獲物を引きちぎって食べますが、モズは足を(ほとんど)使いませんでした。
嘴の形状からモズは小さな猛禽と例えられますが、猛禽類と違ってモズは足の力が弱いのでしょうか?
足の代わりに木の刺を道具として使っているように見えます。
モズのくちばしは、先がとがっていてカギの形にまがっています。するどいまなざしはハンターのしるし。それにくらべると、足は細長くてかよわそう。(中略)えだにつきさし、ひきちぎってたべています。たしかに、あの足の細さでは、えものをおさえつけてひきちぎることは無理ですよね。えだにつきさすのは、えさをたべるためのモズの工夫だったんです。人間でいえば、はしやフォークを使うのと同じこと。(嶋田忠『モズ:不思議なわすれもの』p10〜15より引用)
枯枝の横から生えた短い刺は鋭く、まるで血塗られたように赤茶色でした。
モズは食事の度に適当な刺のある枝を縄張り内で臨機応変に探すのかな?
お気に入りの食卓として、この枝を繰り返し使っているのかもしれません。
もしもモズ♂がイチイの枯枝を嘴でポキンと折って折口を鋭く尖らせたのだとしたら、予め食事の道具(フォーク、串、食器)を自分で作ったことになります。(道具作り)
定点観察でこの枝を見張っていれば、モズの捕食シーンを繰り返し観察できそうです。
センサーカメラを近くの樹上に設置して無人で監視したら…と夢は膨らみます。
私はこれまでフィールドで「モズの早贄」を一度しか見つけたことがありません。
関連記事(4年前の撮影)▶ モズ(野鳥)の早贄にされたコオロギ♂
今回の捕食シーンの観察を踏まえると、「モズの早贄」はただの食べ残し(忘れ物)ではないかと個人的には思うようになりました。
しかし、近年になってモズが早贄を立てる理由(究極要因)が生物学的に解明されています。
その研究結果によると、貯食した早贄はモズ♂の栄養食であり、繁殖期に早口で歌えるようになった♂は♀にもてるのだそうです。(日本語版プレスリリースのPDFはこちら。)
Nishida, Yuusuke, and Masaoki Takagi. "Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success." Animal Behaviour 152 (2019): 29-37.
モズの『はやにえ』の機能をついに解明!―はやにえを食べたモズの雄は、歌が上手になり雌にモテる― (大阪市立大学の公式サイトより)
アブラゼミの翅を毟る |
アブラゼミに腹弁が無いので♀ |
獲物を刺に再固定 |
食後の全景 |
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