前回の記事:▶ ニホンアナグマの諸活動:6月上旬【トレイルカメラ:暗視映像】
2023年6月上旬
もはやニホンアナグマ(Meles anakuma)の母親♀が幼獣の首筋を咥えて連れ出さなくても、幼獣は自力でなんとか歩いて巣外に出てこれるようになりました。
これまで♀は幼獣を1頭ずつ巣外に連れ出して毛繕いしてやっていましたが、巣外で複数の幼獣にまとめて授乳するようになりました。
気温の表示はほとんどが異常値です。
暗視動画を連続撮影すると、トレイルカメラ自体が熱くなるせいです。
シーン1・6/10・午後19:22・(@0:00〜)
手前の巣穴Lから出て外の地面に座った母親♀の乳首に幼獣2頭が吸い付いていましたが、じきに離れました。
♀は授乳しながら自分の体を左の前足と後足で掻きました。
もう1頭の幼獣が巣口Lから自力でアクセストレンチを登り、母親のもとになんとか辿り着こうとしています。
シーン2・6/10・午後19:24・(@1:00〜)
計4頭の幼獣が母親にまとわりついていました。
♀が仰向けになって体を掻いたり毛繕いしたりすると、腹面に乳房が張っていることが分かります。
仰向けになった♀の乳首に幼獣が吸い付く決定的瞬間が撮れました。(@1:40〜)
アナグマ♀の授乳シーンは初見です。
♀は自分の身だしなみを整えるのに忙しくて、結構手荒に幼獣を扱っています。
シーン3・6/10・午後19:23・(@2:00〜)
別アングルで設置した旧機種のトレイルカメラでも授乳シーンが同時に撮れていました。
シーン4・6/10・午後21:58・(@3:00〜)
約2時間半後、アクセストレンチに座って待つ♀の元に巣口Lから幼獣が登ってきます。
♀が迎えに行って、幼獣の尻を舐めてやりました。(対他毛繕い)
幼獣は♀の腹の下に潜り込み、母乳を飲んでいるようです。
他の幼獣がキャンキャン♪鳴き騒ぐので、様子を見に♀は巣穴Lに戻りました。
母親の乳首に吸い付いていた幼獣も、一緒に引きずられるように入巣L。
シーン5・6/10・午後22:57・気温19℃(@3:47〜)
約1時間後、♀が巣口Lで幼獣が出てくるのを待ち受けています。
糞尿で汚れた尻の辺りを中心に丹念に舐めてやります。
幼獣を仰向けにひっくり返して、腹面を舐めるのも忘れません。
シーン6・6/10・午後23:00・(@4:47〜)
♀がアクセストレンチに移動して自分の体で痒い部分を左後足で掻いています。
幼獣が覚束ない足取りで巣口Lからアクセストレンチを登って来ると、そのまま♀の腹の下に潜り込み母乳を飲み始めました。
続いて2頭目の幼獣が巣穴Lから外に出てきました。
シーン7・6/10・午後23:03・(@5:47〜)
カメラの起動が遅れ、母子の合流シーンを撮り損ねてしまいました。
♀が幼獣を跨いだ直後に軽く座って尻を幼獣に擦り付けました。(アロマーキング@5:50〜)
その後♀は地面に座り込んで自分の体をボリボリと右後足で掻いています。
近くをうろついていた幼獣が♀の乳首に吸い付きました。
シーン8・6/10・午後23:02・(@6:47〜)
別アングルで撮れた映像に切り替えます。
巣穴Lの周囲に生えたマルバゴマキ灌木の茂みに隠れてアナグマ家族の姿がよく見えないので、5倍速の早回し映像でお届けします。
暗視動画で見ると、母親♀の目の大きさが左右で少し違うことが分かります。(右目<左目)
シーン9・6/11・午前1:54・(@6:59〜)
日付が変わった6/11は、東北地方南部で梅雨入りが宣言された日です。
撮れた映像では雨は降っていませんでした。
アクセストレンチに座り込んだ♀の乳首に腹を空かせた3頭の幼獣が殺到しています。
仰向けで授乳しながら♀は幼獣に対他毛繕いしたり、自分の毛繕いをしたりしています。
残る1頭の幼獣はどうしているのか、安否が少し心配になります。
シーン10・6/11・午前1:53・(@7:59〜)
別アングルで同時に撮れていた映像に切り替えます。
シーン11・6/11・午前1:55・(@8:59〜)
新機種トレイルカメラの暗視映像に戻ります。
♀と幼獣3頭が組んず解れつしながら、ひたすら授乳と対他毛繕いを続けています。
シーン12・6/11・午前1:55・(@9:59〜)
別アングルに設置した旧機種のトレイルカメラで同時に撮れていた映像に切り替えます。
アナグマ母子の姿が周囲の灌木の茂みに隠れてよく見えないので、5倍速の早回し映像に加工しました。
シーン13・6/11・午前1:57・(@10:11〜)
新機種トレイルカメラの映像に戻りました。
幼獣2頭が母親にまとわりついています。
手前の巣口Lからもう1匹の幼獣がアクセストレンチを登ってきました。
この幼獣は、いつの間にか左の死角から巣口Lに転がり落ちてしまったようです。
それとも巣L内でずっと寝ていた幼獣個体がようやく目覚めて(空腹に耐えかねて)外に出てきたのかな?
(別アングルの映像を見ると謎が解けました。)
シーン14・6/11・午前1:57・(@11:11〜)
別アングルで同時に撮れていた暗視映像に切り替えます。
5倍速の早回し映像でお届けします。
シーン15・6/11・午前1:58・(@11:23〜)
アクセストレンチをよちよち登ってきた幼獣が兄弟姉妹の体を乗り越えようとしたら、滑ってコテンと横転してしまいました。(@11:38〜)
幼獣の一挙手一投足がなんともかわいらしいですね。
転んだ幼獣個体も鳴き声ひとつ上げず、なんとか兄弟姉妹をかきわけて、母親の乳首に吸い付くことが出来ました。(@12:00〜)
その体を♀が丹念に舐めてやっています。
シーン16・6/11・午前1:57・(@12:23〜)
別アングルで同時に撮れていた暗視映像に切り替えます。
5倍速の早回し映像でお届けします。
幼獣1頭がアクセストレンチから巣口Lに転がり落ちた(滑り落ちた)ものの、自力でなんとか這い上がります。
シーン17・6/11・午前1:59・(@12:35〜)
♀は3頭の幼獣に同時に授乳しながら、対他毛繕いしてやっています。
シーン18・6/11・午前1:59・(@13:35〜)
別アングルで同時に撮れていた暗視映像に切り替えます。
5倍速の早回し映像でお届けします。
シーン19・6/11・午前2:00・(@13:47〜)
トレイルカメラ新機種の映像に戻ります。
幼獣3頭を巣外に放置したまま、母親は先にさっさと帰巣Lしてしまいました。(@14:35〜)
残された幼獣が自力で入巣Lするまで見届けられなかったのが残念です。
幼獣がもう自力で歩けるほど成長したので、♀が幼獣を咥えて運ばなくなったことが分かります。
シーン20・6/11・午前2:00・(@14:47〜)
別アングルで同時に撮れていた暗視映像に切り替えます。
5倍速の早回し映像でお届けします。
シーン21・6/11・午後23:15・(@14:59〜)
昼間は寝て、同じ日の晩遅くに再び授乳シーンが撮れていました。
今度は右の巣穴Rの近くの地面で、♀が幼獣1頭に対して授乳および対他毛繕いをしています。
カメラの電池が消耗して、断片的な映像しか撮れなくなりました。
シーン22・6/12・午前0:57・(@15:07〜)
日付が変わった深夜にも、巣穴Rの近くの地面で♀が幼獣1頭に対して授乳および対他毛繕いをしていました。
シーン23・6/12・午前1:01・(@15:20〜)
右の巣穴Rの入口付近で、♀が幼獣2頭に対して授乳および対他毛繕いをしています。
シーン24・6/12・午後23:53:・(@15:34〜)
明るい日中は巣内で寝て、同じ日の晩遅くに再び授乳シーンが撮れていました。
幼獣3頭を引き連れて♀が巣穴Lの外に出てきました。
♀はアクセストレンチに放尿マーキングした匂いを嗅いでから、その横の地面に座り込みました。
アクセストレンチをゆっくり登ってきた幼獣が♀に追いつくと、舐めてやります。
幼獣の1匹は♀の腹の下に潜り込んで乳首を吸おうとしています。
シーン25・6/16・午後18:24・(@16:34〜)日の入り時刻は午後19:06。
4日後、日没前なのに早くも母子全員が巣穴Rの外に出て来ました。
幼獣4頭が同時に外出するのは初見です。
実はそれまで同時に3頭の幼獣しか巣外で見かけなかったので、残る1頭は死んでしまったのではないかと心配していました。
幼獣4頭の無事が確認できて一安心。
ヘルパー♂の姿が見えませんが、母子勢揃いの微笑ましい光景でした。
母親♀は近づいてきた順に幼獣の体を舐めてやります。
♀は自らコテンと寝転び、横臥で自分の体を掻きました。
そのまま仰向けになると、幼獣に授乳を始めました。
一方、1頭の幼獣が巣口Rに取り残されたまま、アクセストレンチを登れないでいます。
発育が少し遅れた個体なのでしょうか?
シーン26・6/16・午後18:25・(@17:34〜)
巣口Rに取り残されたままの幼獣個体がいます。
巣口Rから伸びるアクセストレンチには多数の落枝や蔓が転がっていて、体の小さな幼獣にとってはかなり歩きにくそうです。
歩行能力が比較的高い幼獣個体は、奥の灌木林へ探検に出かけます。
※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。
ニホンアナグマ♀の乳首の数をネット検索で調べても、いまいち正確な情報が得られませんでした。
アナグマ – おもしろ哺乳動物大百科 83 食肉目 イタチ科 というサイトによると、乳頭数は3対です。
ただし、このまとめサイトでは、ニホンアナグマとヨーロッパアナグマを一緒くたに扱っています。
ヨーロッパアナグマ はオスメスともに3対の乳首があるが、メスのほうがより発達している。 (wikipediaより引用)
熊谷さとし『フィールドワーカーのための動物おもしろ基礎知識』という入門書のp205で乳頭式の定義を記してあったのですが、ニホンアナグマの乳頭式については記述がありませんでした。
ニホンアナグマ♀の乳頭が3対あるとすると、最大で6頭の幼獣を同時に授乳することができます。
私が観察しているアナグマ♀は4頭の幼獣を出産し、育てています。
成獣の個体識別も覚束ないのに幼獣の個体識別は難しすぎて私にはとても無理です。
もしかすると、この♀は幼獣を3頭+1頭と2グループに分けて別の時間帯に授乳しているような気がします。
4頭の幼獣を同時に授乳するのは肉体的な負担が大きいからでしょう。
幼獣1頭を巣外にしばらく放置した事件がきっかけで、授乳リズムが1頭だけずれたのかもしれません。
あるいは幼獣を性別によって育て分けているのだとしたら、より一層興味深いです。
熊谷さとし氏の著作では、ニホンアナグマのヘルパーは若い♀が務めると書いてあります。
子別れの際、成長した子どもを全部追い出さず、1頭だけ残して翌年の子どもの世話をさせる、ということもある。キツネやオオカミ、イノシシ、ヨーロッパアナグマなど、多くの動物に見られる行動で、ヘルパー制度と呼ばれている。(中略)動物のヘルパーは、妊娠中の母親にエサを運んできたり、子どもの遊び相手をしたり、さらに♀のヘルパーは、母親に代わって弟や妹たちにお乳をやることもあるという。この制度は、母親の子育ての負担を軽減し、目配りが行き届くために、より子どもたちの安全が守られ、またヘルパー自身が親になったときの訓練にもなる、という素晴らしい制度なのだ。もっとも、この制度には経済力が優先する。(中略)「確実にエサが確保される」という食べものが豊かな場所でなければ、このような行動を観察することはできない。俺が観察している(ニホン)アナグマのファミリーは、毎年ではないけれど、この制度を導入している。 (熊谷さとし『フィールドワーカーのための動物おもしろ基礎知識』(2006)p204より引用)
手元にあるもう1冊の本、熊谷さとし『日本の野生動物 2―身近に体験! タヌキを調べよう』(2006)によると、
アナグマもほんとうは、秋になるとタヌキのように「子別れ」をして、子どもは親からはなれるはずなのだが、母親は♀を1頭だけ手もとにのこし、翌年の子どもの世話をさせることがある。(中略)ヘルパーは子守ばかりでなく、妊娠中の母親に食べものを運ぶこともする。ヘルパー制度は、母親の子そだてを楽にして、子どもの安全を守るほか、ヘルパーに子どもが生まれたときの子そだての訓練にもなる。(p25より引用)
私が観察しているニホンアナグマでは、ヘルパーが妊娠中の母親に食べものを運ぶ行動は一度も見られませんでした。(トレイルカメラが撮り漏らしたのかもしれません。)
もしも母親♀だけでなくヘルパー♀(1歳仔の娘)も幼獣に授乳できるとなると、私が撮った動画の解釈は大幅に再検討する必要があります。
しかし、妊娠・出産していないヘルパー♀の乳腺が発達して授乳が可能になることは生理的にあり得るのでしょうか?(調べてみると、動物でも想像妊娠はあるらしい。)
ニホンアナグマのヘルパーは若い♂(1歳仔の息子)であるというのが最近の研究結果らしいので、この点で熊谷さとし氏の古い?見解はひとまず忘れることにします。
混乱の原因は、若い時期のアナグマは体型に分かりやすい性差がないことにあります。
私も股間の陰茎を見て初めてヘルパーが♂だと分かりました。
逆に♂がヘルパーだとすると、「自分が子育てするときのための訓練になる」という説明はできなくなります。
【アフィリエイト】
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【追記】
鈴木欣司『アナグマ・ファミリーの1年』(2000年)によると、
アナグマの巣を出たばかりのときの子どもの数は、3頭が普通です。お乳の数は全部で6個ありますが、専用の乳を吸うのではないようです。(p19より引用)
私の観察するニホンアナグマ♀が4頭の幼獣を産んだのは、平均よりも多産の部類に入るようです。
4頭とも無事に育ちましたし、生息環境に餌が豊富なことを示しています。
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