2015/04/29

ヤマドリ♂(野鳥)の頭骨標本作り

2014年10月中旬

▼前回の記事 
カーブミラーに激突したヤマドリ♂(野鳥)の断末魔
死んだヤマドリ♂(野鳥)に集まるミドリキンバエ



山道のカーブミラーに激突して死んだヤマドリ♂(Syrmaticus soemmerringii)を断頭して持ち帰り、頭骨標本作りに挑戦しました。
残りの死骸は山中に放置したものの、翌日には(おそらくタヌキまたはハクビシン、アナグマによって)丸ごと持ち去られてしまいました。
屍肉食性昆虫によって生物分解される様子を定点観察するという目論見は果たせなくなり、残念無念…。
やはり頑丈な檻などを用意しないと無理ですね。

昨年はニホンザルの頭骨標本を作りましたが、鳥類は初めてです。
今思うと、ぶっつけ本番でやらず同じキジ科であるニワトリの頭を肉屋から買ってきて骨取りを練習しておくべきでした。
以下の手順は我流です。

まずは頭部の羽根を毟ります。
箸の先を突き立てて擦ると簡単に羽根を取り除くことができました。



側面に耳の穴が現れました。
鳥はミミズク類などを除いて外耳がありません。(ヒトの耳のように耳殻が無い。)



興味深いことに、食道内に草の種子が緑色のまま4個残されていました。
飛び立つ寸前まで道端の草むらで採食中だったのでしょうか。
ひっつき虫」の一種なので、羽根に付着した実を羽繕いのついでに飲み込んだのかもしれません。
せっかく新鮮な死骸が手に入ったのですから、やはり解剖して胃内容物を調べるべきでしたね。
手元の図鑑『ひっつき虫観察便利帳』で調べると、ヌスビトハギの実(節果)と判明。


俗に「ひっつき虫」と呼ばれる植物の種子散布は、動物散布の中でも付着型散布と呼ばれる方法です。

鳥獣に付着して移動するのは良いとして、動物から離れて地面に落ちなければ発芽することはできないはずです。
一体どうやって「ひっつき虫」の種子は動物の毛皮(または羽毛、衣服)から離脱するのだろう?といつも不思議に思っていました。
羽繕いや毛繕いで落とされるのを待つか、動物が死んで倒れるまでひたすら待つほかありません。
もし仮に今回のヌスビトハギの実がヤマドリの羽毛に付着した後に羽繕いで食べられたのだとすると、付着型散布から被食型散布に切り替わったことになり、興味深く思いました。
しかし、ヌスビトハギの実は液果ではないので、食べられたら最後、種子も消化されてしまうのかな?(未消化のまま糞として排泄されないと被食型種子散布にはなりません。)



もし次回、野鳥の胃内容物を調べるときのために、やり方を書いておきます。

 事故死したヤマシギを解剖し、胃の内容物を調べてみる。胃袋をシャーレに取り出し、ハサミで切り開く。内容物は最初、塊状で何が入っているかがわかりづらい。そこでシャーレにアルコールを少量注ぎ、内容物をほぐし、バラバラになった内容物を紙の上などに並べていく。(盛口満『生き物の描き方』p131-133より引用)


砂嚢(筋胃)を切り開いて胃石を調べるのも面白そうです。(鳥の食性によってどう違うか?)



羽根を毟った後は、肉取りです。
何度も熱湯をかけては霜降り肉になった所を細い箸や虫ピンの先でちまちまと取り除きました。



ようやく頭骨が現れました。
カーブミラーに激突死したヤマドリ♂の頭骨は意外にも折れたりひび割れたりしていませんでした。
首(頚骨)や脳に損傷を受けたのでしょうか?

鳥は魚や恐竜と同じく眼球を支える薄い骨(強膜骨環)がある筈ですが、きれいに残す術を知らない私は、眼球を丸ごと摘出しました。





組織を粗取りした後は頭部を水煮します。
小鍋をとろ火にかけてコトコト煮ました。
脳が未だ残っているためか、やや腐敗臭がしました。
途中から皿洗い用の洗剤(界面活性剤)を加えました。
タンパク質を変性させ脂質を溶かす以外に、爽やかな香料で悪臭が和らぐ効果もあります。

煮た後は素手の指先で(爪を使って)細かな肉を取り除きました。
まだるっこしいので、ゴム手袋は脱ぎました。
(煮沸消毒した後は素手で触れても大丈夫だろうと判断。)

頸骨を外した穴から頭骨の中に綿棒を突っ込んで、水洗いしながら脳を掻き出しました。
脳は煮る前に掻爬すべきだったかもしれません。
ヤマドリの頭骨は場所によって非常に薄く(透けて見えるほど)繊細であることに気づきました。
脳の掻爬に箸とか金属製の固い道具を使うと、うっかり頭骨を突き破ってしまいそうです。
上下の嘴に被さっているゴムのようなキャップ(表皮?)をひっこ抜いて外しました。
顎の辺りの細い骨の関節が外れてしまいました。(復元する自信がない…。)




舌の肉を削ぎ取ると、尖った骨が現れました。



頭骨にへばり付いて未だ取り切れていない細かな組織を、どう処理するか問題です。
色々な方法があるみたいですけど、今回は薬品で溶かすことにしました。
漂白剤、界面活性剤およびタンパク分解酵素を配合した入れ歯洗浄剤を買ってきました。
中性の類似商品が多いなか、弱アルカリ性の部分入れ歯用ポリデント錠を選びました。


説明書を読んで頭骨を40℃のぬるま湯300ccに浸し、錠剤2個を入れるとすぐにシュワシュワと発泡が始まりました。
爽やかなミントの香りが漂います。
頭骨が水面から少し浮いてしまうのですが、構わずアルミ箔で覆い、浸け置きしました。



ポリデント処理は一晩だけに留めるつもりが、その後急に忙しくなり、4日間も放置してしまいました。
骨を水洗いしながら歯ブラシで軽く擦ります。
長く処理しすぎて、顎関節?が溶け骨が外れてしまいました。
骨格の構造(解剖学)に疎い素人には修復不可能です…。
こんなことなら薬品でタンパク質を溶かすのではなく、ただの水に漬けてバクテリアの力でゆっくり腐らせた方が素人向きだったかもしれません。
眼球を支える膜状の骨(強膜骨環)が残りました。
それにしても、鳥類の頭骨がこれほど華奢で繊細だとは知りませんでした。
空を飛ぶために軽量化を極限まで進めた結果なのでしょう。
前の年にやったニホンザル頭骨の骨取りに比べて難易度が格段に高かったです。

残念ながら今回は失敗しましたけど、何事も経験です。
小動物ほど骨取りが難しいことを実感しました。
数をこなして練習するしかありません。








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