2018/03/12

川面で争うオナガガモ♀♂の群れ(冬の野鳥) 【HD動画&ハイスピード動画】



2016年12月中旬

冬の川面で群れをなしてくるくると泳ぎ回るオナガガモ♀♂(Anas acuta)を240-fpsのハイスピード動画で撮ってみました。(@0:19〜)
群れ内でときどき勃発する小競り合いが気になったので、長撮りした素材からそんなシーンばかりをまとめてみました。

オナガガモは性別を外見から容易に見分けられるので助かります。
(真っ黒な頭部と白い首のツートンカラーが目立つのが♂で、♀は全体が地味な茶色。)



・♂vs♂ 正面から嘴で軽くつつき合う。

・♀vs♂ 羽繕い中の♀が前方に居た♂の尾羽を突いた。(@0:19-0:55)
♂は驚いて向き直っても反撃しませんでした。
再び♀に軽くつつかれて、♂はたまらず離れて行きました。

・♂vs♂ 「邪魔だ! どけ!」とばかりに前方の♂を嘴でつついた。(@0:55-1:20)
突かれた方は驚いて向きを変えたが、反撃せず離れました。
やられた個体が直後に尾羽をフリフリ。

・♂vs♀ ♂が♀の正面から近づき、顎で♀を下に押し付けました。(@1:21-1:47)
その後の展開を見ても求愛行動には思えません。

♀はぼーっとしていて♂の接近に気づかなかったのでしょうか? 
慌てて逃げる♀を♂は追いかけず、共に尾羽を左右にフリフリしています。(転移行動?)



オナガガモの群れにはつつきの順位があるのでしょうか?
これだけ群れが大きくても互いに個体識別して順位を覚えていられるのか、私には疑問です。

餌を奪い合うための争いでないことは確かです。

こうした小競り合いの個人的な解釈としては、オナガガモ同士がパーソナルスペースを保ち互いに近づき過ぎないように突いて牽制し合っているのかと、なんとなく想像しました。

満員電車内の人々の殺伐とした行動を連想してしまいます。
一方では群れとして集まりたいという矛盾した衝動もある訳ですから、なかなか大変ですね。


小競り合いの後に尾羽を左右にフリフリする行動がよく見られました。

これは、降参のポーズもしくは和睦の挨拶なのかな?
対立の気まずい感情を和らげて気分転換する転移行動?
ただし、何かに驚いたのか急に少し飛んで着水した直後にも尾羽を左右にフリフリしています。(♂@1:51-2:19)
八木力『冬鳥の行動記』を読むと、「儀式的水浴び→転移性はばたき→尾を振る」という一連の流れがカモ類の転移行動らしい。

尾羽を左右に振るだけでは転移行動とは呼べないのですかね?



※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


今回観察したオナガガモの小競り合いが繁殖期に特有の求愛行動や♀の取り合いと解釈すべきなのかどうか私には分からず、ずっと気になっていました。
『動物たちの気になる行動(2)恋愛・コミュニケーション篇』という動物行動学の研究を紹介する本を読んでいたら、福田道雄『人前で求愛ディスプレイをするオナガガモ』という総説が収録されていました。

読んでみると、とても勉強になりました。
私の興味を引いたポイントをかいつまんで引用します。
 日本に渡来するカモ類のつがい関係は、一回の繁殖期の間だけのものです。(中略)日本で過ごす間につぎの繁殖期のために、新しいつがいをつくります。(中略)カモたちは、いったんつがいになると、ほとんど別れることはなく、連れ添って行動し、繁殖地へ帰って行きます。(p26より引用)

囲い込み行動はオナガガモだけにみられるもので、他種のカモ類は行いません。オナガガモが多数飛来した水辺で、1〜2月ごろに注意深く観察していると、数羽以上の♂が一羽の♀を囲むようにして、追いかけながら泳いでいく光景がよくみられます。(中略)「囲い込み」が始まると、集まったメンバーはほとんど入れ替わることなく続けられます。(中略)そしてこの集団の♂たちが、♀に対して求愛のディスプレイを繰り返し行います。(p22より引用)

オナガガモの代表的な(求愛)ディスプレイには、つぎのものがあります。(あご上げ、げっぷ、水はね鳴き、そり縮み)ただし多くの場合、一つのディスプレイは単独で行われることはなく、組み合わせられたり、一連の行動として行われます。(それぞれの詳細は割愛)(p22-29より引用)

つがい形成とその後の行動についても、♂の「後頭さし向け」と♀の「けしかけ」ディスプレイについて解説されていました。(p30-31より)


さすがプロの研究者による専門的な解説はとても勉強になりました。
しかし、記述された一連のディスプレイはあまりにも細かな行動で、観察歴の浅い私にはしっかり見分けられそうにありません。
撮影時期が12月で、求愛するには少し早かったのかもしれません。
オナガガモを観察する上で目の付け所がこれで分かったので、今後の宿題です。




【追記】
渥美猛『オナガガモの奇妙なつがい形成』によると、
多くの渡り鳥は、繁殖地でつがいを形成します。(中略)同じ渡り鳥でもカモの仲間は、つがいを形成する場所と時期が違います。なんと、越冬地である日本で繁殖とは関係のない越冬期につがいを形成するのです。 (上越鳥の会 編『雪国上越の鳥を見つめて』p125より引用)


日本に渡ってきた頃は、♂の羽の色は♀にとてもよく似ています。 オナガガモは10月下旬から求愛を始め、12月下旬からつがいを形成します。♂は♀の気を引くために鮮やかな羽毛に換羽するのです。(中略)つがいを形成する時期以外は地味な迷彩になる (同書p126より引用)

鮮やかな羽毛に換羽した♂は、♀に気に入られようと、ポンプ、げっぷ、水はね鳴き、そり縮みといったさまざまな求愛行動をします。つがいになった♂と♀は、一定の距離を保って、寄り添うように行動します。(中略)つがい♂は、つがい♀に求愛したり、接近する他の♂に対して攻撃します。この行動を配偶者防衛行動と呼びます。 (同書p126より引用)



♂は♀を獲得すると採餌に専念できるのです。(中略)攻撃する頻度が一番多いのはつがい♂です。攻撃される相手はつがい♀に近づく独身♂やつがいにうっかり近づく独身♀でした。つがい♀はつがい♂に守られているため攻撃される頻度はごくわずかでした。(同書p127より引用) 
この報文には「オナガガモの求愛行動 水はね鳴き」および「オナガガモの求愛行動 そり縮み」を描いた♂のイラストも掲載されていて、素人にはとても参考になりそうです。


オナガガモ♀(右)♂(左)
オナガガモ♀♂(野鳥)群れ@川面

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