2024年8月上旬・午後12:10〜12:45頃・晴れ
里山で湿地帯に接したスギ植林地の林縁で、蜂の羽音が気になりました。
下草のヌスビトハギの小群落には、葉をくり抜いた痕跡が多数残っています。
これはハキリバチの仲間によるしわざです。
関連記事(2年前の撮影)▶ ヌスビトハギの葉をハキリバチ♀が大量にくり抜いた跡【フィールドサイン】
私がその場でじっと待っていると案の定、ハキリバチ♀がヌスビトハギの群落に飛来しました。
ハキリバチ♀は、ハエのようなプーン♪というやや甲高い羽音を立てて飛び回ります。
クマバチやオオスズメバチが発する重低音の羽音とは明らかに違います。
ヌスビトハギの小葉に着陸すると羽ばたきを止めます。
鋭い大顎で小葉をチョキチョキと切り始めます。
丸く切り抜く葉片に跨って丸めながら、切り落とす間際に再び羽ばたき始め、抱えて飛び去ります。
マメ科のヌスビトハギの葉は三出複葉です。
3枚の小葉のうち、真ん中の柄が明瞭な小葉は頂小葉 と呼ばれ、残りの2枚の小葉は側小葉 と呼ぶのが一般的です。
ハキリバチ♀は、ヌスビトハギの頂小葉でも側小葉でも特に選り好みしないで切り抜いているようです。
1枚の小葉から複数の葉片がくり抜かれた跡も残っています。
緑色の葉だけでなく、黄緑の若葉も切り抜くことがありました。
葉片の形状は色々で、卵型だったり長楕円形だったり細長く切り抜かれたりしています。
巣穴の育房に巣材を充填する作業の進捗具合によって、必要な葉片の形状を臨機応変に変えているのでしょう。
切り取り線は小葉の中央にある主脈を越えたり越えなかったり、まちまちです。
小葉のどこから切り取り始めるか(葉柄に対して遠位か近位か)についても、特に決まっていないようです。
巣材の葉片を抱えて飛び去るハキリバチ♀を追いかけようとしても、すぐに見失ってしまいました。
営巣地がどこにあるのか突き止められませんでしたが、ハキリバチの多くは借坑性ですから、林道脇の針葉樹(スギ?)大木の樹上の虫食い穴などに巣がありそうです。
隙間や小孔に切り取ってきた葉片を詰め込んで育房を作り、花粉団子を貯食し、その上に産卵し、葉片で育房を仕切ると、また次の育房を作り始るのだそうです。
関連記事(5年前の撮影)▶ 借坑性ハキリバチ♀の巣の観察:2019年
おそらく同一個体と思われるハキリバチ♀が数分ごとにヌスビトハギの群落に戻ってきて、せっせと巣材を集めて帰ります。
蜂が次に着地しそうな葉を狙って待ち構えても、なかなか予想が当たりません。
私が毎回カメラを近づけて接写しても、ハキリバチ♀は警戒心が薄いのか、嫌がらずに作業を続けてくれました。
林床にはヌスビトハギの他に、フジ(藤、別名:ノダフジ)の葉などもたくさん生えていました。
しかし、このハキリバチ♀が巣材として集めるのは、ヌスビトハギの葉片だけでした。
ちなみに、周囲でジーー♪と単調にやかましく鳴き続けているのはエゾゼミ♂(Lyristes japonicus)です。
ウグイス♂(Horornis diphone)がホーホケキョ♪とのどかにさえずる声も聞こえます。
ハキリバチ♀がヌスビトハギの葉を切り抜いて持ち去る様子を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@3:40〜)
切り抜き作業中の蜂を横から見ると、腹面のスコパは白い毛が密生しているものの、花粉は付着していません。
ハキリバチ♀は毎回几帳面に小葉を丸く切り抜く訳ではないようです。
かなり大雑把に切り取って、クシャクシャに丸めた葉片を持ち去ることもあり、興味深く思いました。
葉片を抱えて飛び去るハキリバチ♀の姿を流し撮りできると、スーパースローで見応えがあります。
葉片を完全に切り抜くと、それを抱えたまま蜂は落下します。
激しく羽ばたいて空中で体勢を立て直すと、ホバリングしながら巣の方向を見定めて、まっすぐ帰巣します。
おそらく太陽コンパスや周囲の景色から、記憶した巣の方角を読み取っているのでしょう。
空荷で飛ぶよりも遅くなるのは、運んでいる葉片が重いのではなくて、空気抵抗が大きいせいでしょう。
ヌスビトハギの茎の先端にはピンクの花序が咲きかけていました。
しかし、巣材集めに忙しいハキリバチ♀がヌスビトハギに訪花することは一度もありませんでした。
幼虫が食べる餌を集めたり、母蜂自身が栄養補給(吸蜜)する蜜源植物は、また別の場所に咲いているのでしょう。
関連記事(2年前の撮影)▶ ヌスビトハギの葉をハキリバチ♀が大量にくり抜いた跡【フィールドサイン】
2年前からの宿題だった、ヌスビトハギの葉から巣材を集めるハキリバチ♀を実際にじっくり観察できて大満足です。
巣材集め行動の細かい点でクズハキリバチとの違いを見出せませんでした。
関連記事(5年前の撮影)▶
さて、この蜂の名前は何でしょうか?
素人目には特徴が乏しくて、ハキリバチの種類を見分けられません。
黒い頭楯の両側に白い部分がある(白毛が密生)ことに気づきました。
『日本産ハナバチ図鑑』と見比べると、ツルガハキリバチ♀(Megachile tsurugensis)が候補として見つかりましたが、顔色だけでは決め手になりません。
ちなみに、ツルガハキリバチは「本州では最も個体数の多いハキリバチ」なのだそうです。(同図鑑p330より引用)
例えばクズハキリバチやバラハキリバチなど、好んで葉を切り抜く植物が蜂の名前に付いている種類もいます。
しかし、ハキリバチ♀が巣材として集める植物は、蜂の種類ごとに厳密には決まっている訳ではないそうです。
ヌスビトハギの葉を専門にくり抜く「ヌスビトハギハキリバチ」なる和名の蜂は、今のところ知られていません。
同定のためにハキリバチ♀を採集しようか迷ったのですが、動画撮影を優先していたら、そのうちパッタリと巣材集めに通って来なくなりました。
育房作りが一段落したのか、それとも活発に働く時間帯が日周リズムで決まっているのかもしれません。
※ 動画の素材は撮影順ではなく、適当に入れ替えています。
※ 蜂の羽音が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。
つづく→
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