2023年11月上旬〜中旬
トチノキ種子(栃の実)の種子散布について、ちょっとした実験をしてみました。
wikipedia:トチノキより引用
ドングリと同じく重力散布と動物散布の併用型で特にネズミ類の貯食行動に依存する。地上に落下した種子は冬までにほとんど持ちされれるという[39] 。種子の毒性は強く、ハツカネズミにトチの実の粉末を与えると高確率で死亡するという[40]。ドングリの場合、森林性のネズミ類、イノシシやツキノワグマは馴化により対応することが知られており[41][42][43]、おそらくトチノキに対しても同じことが起きていると見られるが、よくわかっていない。
ヒトは栃の実を丹念に灰汁抜きする方法を編み出してサポニンを除き、食用利用できるようになりました。
シーン0:11/8・午後12:26(@0:00〜)
明るい時間帯にたまたまフルカラーで撮れた現場の様子です。
山林の斜面を抜ける獣道でカラマツの根元の窪みに給餌場を設けました。
右の給餌場Rにはトチノキの種子を30個、左の給餌場Lにはオニグルミの堅果(果皮なし)を8個、並べて置きました。
トチノキの種子にはサポニンという毒が含まれているらしいのですが、給餌場に通ってくる野ネズミ(ノネズミ) は栃の実を忌避するでしょうか?
実はこの給餌実験のために、5月中旬に栃の実を拾い集めていました。
トチノキ落果(蒴果)を丸ごと採集しても、室内で保管している間に硬い果皮が自然に割れて種子(いわゆる栃の実)がこぼれてしまいました。
公園の街路樹として植栽されたトチノキ大木の下で秋に落ちた果実(蒴果)を春になっても大量に採取できたということは、定説に反して野ネズミは栃の実を忌避して持ち去らなかったのでしょうか?
しかし私は以前、山中の峠道でアカネズミの食痕が付いたトチノキの果実を見つけています。
関連記事(7年前の撮影)▶ トチノキの種子に残るアカネズミ?の食痕
ちなみに、この給餌場付近の山林にはトチノキもオニグルミも自生していません。
給餌場Rから栃の実が斜面を転げ落ちて紛失しないように、ストッパーとして数本の落枝を餌場の直下に横向きで並べて置きました。
シーン1:11/10・午後23:57(@0:03〜)
雨上がりの深夜に、斜面を駆け上がる野ネズミの後ろ姿が写っていました。
後ろ姿では、木の実を運んでいるかどうか不明です。
監視カメラの起動が遅れるのは、気温が低くて電圧が低下した上に、雨に濡れた野ネズミの体温が冷えて、熱源センサーが検知しにくくなるのでしょうか?
野ネズミはシシガシラという常緑シダ植物の茂みの下に隠れて貯食した?後に、さらに斜面を登っていきました。
シーン2:11/11・午前1:58(@0:34〜)
日付が変わった深夜、野ネズミが木の実を咥えて運びながら斜面を右にトラバースして行きます。
今回もトレイルカメラ起動が遅れ、野ネズミが餌場に来たシーンが撮れておらず、運んでいる堅果の種類を映像から見分けられません。
斜面の右上で立ちどまった野ネズミは、茂みの下に姿を消しました。
再び現れると、近くに置いておいた木の実を拾い直して、隠し場所に埋めたようです。
落ち葉を被せて貯食物を隠蔽しました。
その後は斜面を降りて給餌場に戻って来るかと思いきや、右下へ走り去りました。
カメラを固定したシナノキが木枯らしの強風で左右に激しく揺れています。
貯食シーンを1.5倍に拡大した上でリプレイ。(@2:00〜)
シーン3:11/11・午前1:58(@3:05〜)
餌場での行動をまたもや撮り損ねてしまい、トレイルカメラが起動したときには野ネズミが斜面を駆け上がっていました。
貯食を終えた野ネズミが斜面を駆け下りて来ると、餌場Rに到着しました。
トチノキ種子を迷いなく選ぶと、口に咥えて搬出しました。
そのままカラマツ根元を右に回り込むと、斜面を右にトラバースして行きます。
これで、野ネズミが栃の実を拾い集めて貯食することが確かめられました。
シーン4:11/14・午前1:08(@3:54〜)
3日後の深夜、雨が降っています。
レンズが濡れて、画面全体がうっすらと曇ってしまいました。
野ネズミが左から餌場Lに来たのに、なぜかすぐに左へ逃げ帰ってしまいました。
シーン5:11/14・午前3:30(@4:03〜)
2.5時間後にも再び野ネズミが登場しました。
画面の右下隅をちらっと横切り、斜面を駆け下りました。
おそらく給餌場の栃の実はすべて運び終えて空っぽとなり、新たな餌を求めて林床をうろついているのでしょう(探餌徘徊)。
※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。
シリーズ完。
11/19に現場入りすると、給餌場のトチノキ種子およびオニグルミ堅果はすべて無くなっていました。
今季の給餌実験はこれで終わり、別テーマのためにトレイルカメラを撤去しました。
今季はオニグルミ堅果(果皮あり+なし)、クリ堅果、トチノキ種子を給餌してみました。
栃の実の給餌を一番最後にしたのは、種子に含まれる有毒物質サポニンを摂取した野ネズミがもしかしたら死んでしまうかもしれないと心配したからです。
野生動物を意図的に殺そうとして毒エサを撒いたのではなく、あくまでも天然のトチノキ種子を置いただけです。
【考察】
野ネズミが給餌場から栃の実を1個ずつ運んで地中に埋める証拠映像がなんとか撮れました。
例数が少ないので、来年以降にまた追試するかもしれません。
晩秋に実験をしたせいで、給餌場に置いた栃の実が落ち葉の下に隠れてしまい、野ネズミによる発見が遅れたようです。
野ネズミは浅く掘った地面の穴に栃の実を埋め、落ち葉を被せて隠しています。
深い雪が積もった冬の間に食べる保存食なのでしょう。
野ネズミが栃の実を食べるシーンは撮れなかったので、トチノキ種子の毒性については分かりません。
普通に考えても、共生関係にある種子散布者をトチノキが毒殺するはずはなく、何らかのサポニン対策(解毒など)が進化してきたはずです。
春までに野ネズミが食べ忘れたトチノキ種子から無事に発芽できれば、種子散布に成功したことになります。(貯食型の動物散布)
【参考文献】
長らく積読状態だったのですが、ようやく読んでみたらとてもエキサイティングで非常に勉強になりました。
研究の道筋があまりにも理路整然ときれい過ぎると、強引に辻褄を合わせたんじゃないの?と内心疑ってしまいます。
しかし、本書では実験に失敗したことや未解決課題も正直に書いてあって研究の臨場感が伝わりました。
私が素人ながら実際に野ネズミを相手に給餌実験の真似事をあれこれ試してみた後に本書を読んだので、面白いほど内容を吸収できました。
個人的な疑問もいくつか解消できました。
後半を読み進めるのがしんどいと書評で文句を言ってる人は、山歩きやフィールドワークの実体験が全くない人かもしれません。
(前半は生物好きな高校生でも読めるはずです。)
本書前半部のダイジェスト版のような総説のPDFが無料でダウンロードできます。
島田卓哉. 堅果とアカネズミとの関係―タンニンに富む堅果をアカネズミが利用できるわけ―. 哺乳類科学, 2008, 48.1: 155-158.
また、筆者は野ネズミの研究者が増えて欲しいと願いながらも、人獣共通感染症のリスクがあることを率直に書いてあって印象に残りました。
野ネズミのフィールドワークを始めた素人が野ネズミからウイルスなどの感染を防ぐためにどんな注意をすべきなのか(服装や装備など)、具体的に書いて欲しかったです。「野ネズミと栃の実:サポニンという毒とうまくつきあう方法」については全く言及されておらず、今もどこかで誰かが研究中なのでしょう。
面白いテーマだと思うのですが、二番煎じのような研究を誰もやりたがらないのかな?
伊佐治久道; 杉田久志. 小動物による重力落下後のトチノキ種子の運搬. 日本生態学会誌, 1997, 47.2: 121-129.
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