2023年11月上旬
貯食のために野ネズミ(ノネズミ)が通う給餌場を自動撮影カメラで見張っています。
前回与えたクリは虫食いのせいかあまり気に入ってもらえず、50個与えたうちの計20個しか持ち去りませんでした。
そこで次の餌として、トチノキに切り替えました。
実はこの給餌実験のために、5月中旬に栃の実を拾い集めていました。
果実(蒴果)を丸ごと採集したのですが、保管している間に硬い果皮が自然に割れて種子(いわゆる栃の実)がこぼれてしまいました。
未加工の栃の実は有毒と言われています。
この記述はあくまでもヒトに対する毒性を記したもので、野生動物への影響は不明です。
未加工のまま食すると吐き気、しびれ、麻痺などを起こすことがある。(中略)種子は渋や有毒成分をのぞいて食用にされる。 毒性成分:トリテルペン系サポニンのエスシンなど。(フィールドベスト図鑑『日本の有毒植物 』p74より引用)
トチノキの大木の下で秋に落果した種子を春になっても大量に採取できたということは、野ネズミは忌避して持ち去らないのでしょうか?
しかし私は以前、山中の峠道でアカネズミの食痕が付いたトチノキの果実を見つけています。
関連記事(7年前の撮影)▶ トチノキの種子に残るアカネズミ?の食痕
シーン1:11/8・午後12:26(@0:00〜)
明るい日中にたまたまフルカラーで撮れた現場の状況です。
山林の斜面を抜ける獣道でカラマツの根元の窪みに給餌場を設けてあります。
右の給餌場Rにはトチノキの種子を30個、左の給餌場Lにはオニグルミの堅果(残り物、果皮なし)を8個、並べて置きました。
野ネズミに好きな餌を選択させる選好実験の真似事です。 (※追記参照)
トチノキの種子は有毒とされていますが、果たして野ネズミは忌避するでしょうか?
ちなみに、現場付近の山林にはトチノキもオニグルミも自生していません。
給餌場Rから栃の実が斜面を転げ落ちて紛失しないように、ストッパーとして数本の落枝を餌場の直下に横向きで並べておきました。
トレイルカメラの設置アングルがいまいちで、餌場Lが画面の左下隅で見えにくくなってしまいました。
シーン1:11/10・午後19:37(@0:04〜)
待ちわびた野ネズミが、小雨が降る晩にようやく左からやって来ました。
左の餌場Lで、扱い慣れたオニグルミ堅果を両手で持って、くるくると回しています。
そのまま口に咥えると、右下へ運び去りました。
しばらくすると、貯食を終えた野ネズミが左から餌場Lに戻って来ました。
次に選んだクルミを左に搬出。
今回、野ネズミはオニグルミの果皮を剥く必要がないので、餌場で選んでから持ち去るまであまり時間がかかりません。
シーン2:11/10・午後19:42(@0:47〜)
野ネズミが餌場Lの辺りをウロチョロしています。
もしかすると、オニグルミ堅果はもう全て運び尽くして残っていないのかもしれません。
シーン3:11/10・午後19:44(@0:54〜)
冷たい雨が降っているのに、野ネズミは斜面を右に大きく跳躍したり、縦横無尽に駆け回ります。
斜面の林床で餌を探し回っているのでしょう。
右の餌場Rに積んであるトチノキの種子は落ち葉に埋もれてしまっているために、暗闇で野ネズミは未だ気づいていない様子です。
それとも、当地の野ネズミは見慣れないトチノキ種子を餌だと認識していないのでしょうか?
シーン4:11/10・午後19:46(@1:14〜)
野ネズミが通い慣れた餌場Lにまた来ていたのですが、すぐに立ち去りました。
オニグルミが本当にもう残っていないかどうか、未練がましく確かめに来たのでしょう。
※【追記】
Google Scoloarで文献検索してみたら、面白そうな学会発表を見つけました。
三浦光, et al. "森林性ネズミ 2 種による 3 種の種子の利用様式―クリ・トチノキ・オニグルミの混合供試実験―." 日本森林学会大会発表データベース 第 127 回日本森林学会大会. 日本森林学会, 2016.
抄録
森林性の野ネズミ類、とくにアカネズミ属は、貯食型種子散布における主要な散布者である。したがって、野ネズミ類の落下種子に対する選好性は、それらの種子を生産する樹種の更新および分布拡大、ひいては森林動態に影響を及ぼす。野ネズミ類の種子選好性については多くの知見があるが、異なる多樹種の種子を混合して供試した場合の事例は少ない。本研究では、調査地 (愛知県北東部) に生息するヒメネズミおよびアカネズミを対象として、3樹種 (クリ、トチノキ、オニグルミ) の種子に対するそれぞれの反応を観察した。 供試実験は、広葉樹パッチに隣接する、ヒノキ・アカマツ林にて行った。円周上に種子を配置できる餌台を作成し、3樹種を交互に並べることで、どの方位から進入しても各樹種へアクセスできるようにした。種子は個体ごとに識別し、餌台へ向けてカメラを設置した。また、餌台から持ち去られた種子の追跡調査も行った。 ヒメネズミはクリを非常に強く選好し、優先的に持ち去った。アカネズミはトチノキやオニグルミも積極的に利用した。また、種子の持ち去り先および利用様式についても、ネズミ種と樹種の組み合わせで、類似点あるいは相違点が認められた。
要旨を読んだだけですが、実験のデザインの仕方など今後の参考になります。
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