2023年4月中旬〜下旬
二次林にあるニホンアナグマ♀(Meles anakuma)の巣穴を自動センサーカメラで見張っていると、♂が夜な夜な夜這いに来るようになりました。
春の配偶行動が始まったようです。
しかし♀は未だ発情していないのか、♂の求愛をなかなか受け入れようとしません。
地面に掘った巣穴が手前(R)と奥(L)に2つあります。
シーン1:4/20・午後21:09・(@0:00〜)
晩に奥から登場したアナグマ♂が左へ移動し、巣口Lの方へ行きました。
その気配を察したのか、手前の巣口Rから♀が顔を出しました。
♂が♀の巣穴に近づきながら求愛の鳴き声(ジェジェジェビーム♪)を発したかどうか、重要なポイントなのですが、観察歴の浅い私にはよく分かりません。
トレイルカメラの位置がやや遠いので、録音されにくいのでしょうか?
この営巣地(セット)の主である♀は目付きに分かりやすい特徴があり、左右の目の大きさが異なります。(右目<左目)
斜視やオッド・アイのような生まれつきの形質なのでしょうか。
明るい昼間だと分からないのですが、赤外線の暗視映像だとよく分かります。
♀は出巣Rして振り返り、♂の方を見ています。
睨み合いの末に、突然♀が脱兎の如く駆け出して、♂を追い払いました。
喧嘩(威嚇)の鳴き声を言葉に現すのは難しいのですが、カカカカ!またはガガガガ!というような鳴き声を素早く発したようです。
声帯を使って発声しているかどうかも分からない、なんとも得体のしれない音声です。
しばらくすると奥から♀がトコトコ戻ってきて身震いすると、手前の巣穴Rに戻りました。
シーン2:4/20・午後21:11・(@1:00〜)
約30秒後、右の二次林を通って♂が再び♀のセットに戻ってきたようです。
手前の巣口Rに居座り周囲を警戒していた♀は、♂を見つけると一瞬怯んで巣内に後退しかけたものの、再び脱兎の如く飛び出して撃退しました。
♀は♂を深追いせずにすぐに戻ってきて入巣Rします。
タヌキやキツネが巣穴を訪れたとき巣内のアナグマ♀は無反応だったのに、同種の♂が夜這いに来たときだけ、すごい剣幕で(強気で)追い払っています。
シーン3:4/21・午前2:38・(@1:36〜)
日付が変わった深夜未明にも同じパターンの行動が繰り返されました。
手前の巣穴Rからアナグマ♀が顔を出して周囲を警戒しています。
♂が右奥の茂み(灌木林)からやって来ると、ビルルル♪と何かを震わせているような、言葉にし難い変な物音が聞こえます。
これはアナグマ♂が発する求愛の鳴き声なのかな?
(じぇじぇじぇビーム?)
この鳴き声?を聞くと♀は慎重に出巣Rして右下へ駆け出し、戻って来ませんでした。
巣穴にすぐ戻って来なかったということは、画面の外で♂と交尾した可能性を否定できません。
夜這いに通っている♂が同一個体なのか、別個体が代わる代わる来ているのか、私には個体識別ができていません。
※ アナグマの鳴き声が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。
この動画を初めて見たときは「アナグマ同士で巣穴を巡る縄張り争いがあるのか?」と思ってしまいました。
アナグマ関連の本を何冊か読んで勉強してみると、「♂が♀の巣穴に夜這い・求愛しようとしている」のだと、ようやく状況が飲み込めました。
アナグマに関しては、観察と並行して本で予習しておくことを強くお勧めします。
読んでみて分かったのですが、アナグマの配偶行動や社会システムは他の哺乳類と違って独特です。
素人は先入観に囚われて頓珍漢な解釈に陥りがちです。
自力でゼロから解明しようとすると、アナグマをきっちり個体識別した上で何年も何十年もかかってしまうでしょう。
特に福田幸広『アナグマはクマではありません』という写真集の解説が特に参考になりました。
プロポーズの方法が非常に変わっています。それは♂が♀の巣穴へ行き、「ビルビルビルー」という、低い連続した特殊な声を発します。私はこの声を「ジェジェジェビーム」と名付けました。(中略)この声は♀を誘い出す特殊な声で、この声を聞いた発情中の♀は必ず巣穴から顔を出すのです。♀の反応が悪い時には♂は巣の中にまで侵入することがありますが、巣の奥の赤ちゃんを守るためなのか、♀は♂が巣に入るのを徹底的に排除します。(子殺しがあり得るのか?:しぐま註)しかし、何度追い払われてもめげることなく、♂はジェジェジェビームを発し続けるのです。 (p50より引用)
今のところはトレイルカメラの設置アングルを試行錯誤しているところで、今回は右の茂みが邪魔です。
後日、別アングルでもっとはっきり分かる動画を撮ることができました。(映像公開予定)
【追記】
アナグマ ♂の求愛声が低音で響くのは、地中巣内の♀に聞かせるために進化したのだろう。
高音だと指向性が高い代わりに回折しないですぐに減衰してしまいます。
個人的な思いつきを書き留めておきます。
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