2023年1月中旬
雪深い里山のスギ林道にある溜め糞場sに通ってくるホンドタヌキ(Nyctereutes viverrinus)をトレイルカメラで監視していると、身近なゴミ問題について考えさせられる事件が起こりました。
シーン1:1/13・午前0:35・気温2℃
深夜に雪道を歩いて来たタヌキが手前の死角に消えてから再び現れ、左に立ち去りました。
凍結した雪面が荒れているのは、スギ樹上からの落雪によって爆撃を受けたようなクレーターが並んでいるからです。
しばらくすると、左から「フサ尾」のタヌキが戻って来ました。
黒くて細長い物を口に咥え、引きずっています。
越冬中のヘビを見つけて捕食したのか?と初め私は驚きました。
しかし、タヌキが雪を少し掘っただけで見つかるような浅い場所でヘビが冬眠するはずがありません。
タヌキは林道で立ち止まると、雪面に謎の獲物?を置きました。
左の前脚で押さえ付けながらヘビ?をクチャクチャと噛み、食い千切って食べ始めました。
ヘビは変温動物ですから、こんな低温下では逃げることも反撃することもできません。
次にトレイルカメラが起動したときには、タヌキはなぜか食べかけの黒蛇?を雪上に残したまま、辺りをウロウロしていました。
最後は雪道を右に立ち去りました。
シーン2:1/13・午後23:42・気温3℃・(@1:33〜)
23時間5分後の深夜にタヌキが再登場。
低温でカメラの起動が遅れ、画面の右端を右に歩き去るタヌキの尻尾がちらっと写っただけでした。(赤い矢印➔に注目)
前夜に運んできた黒ヘビの死骸?が雪面に残されたままなのに、タヌキはもはや全く興味を示しませんでした。
さて、この謎の黒くて細長い物体は何だったのでしょう?
この後、大雪が積もって埋もれてしまいます。
2023年3月下旬
春に現場入りすると、スギ林道の残雪の上に黒くて細長い謎の物体が再び現れていました。
タヌキが放置する様子が動画に写っていた、まさにその地点です。
ヘビの死骸ではなく、黒い粘着性ビニールテープの切れ端でした。
このゴミには見覚えがあり、捨てた犯人は私でした。
もちろん私はゴミを意図的にポイ捨てしたりしません。
言い訳になりますが、自戒を込めて経緯を説明します。
トレイルカメラを立木に固定する際に、悪戯・盗難防止のためにワイヤーロックを掛けます。
雨水で濡れただけならステレス製の鍵穴が錆びることはありません。
しかし、鍵穴が凍ってしまうと鍵が差し込めなくなり大変です。
昨年まさにこの現場で起きた苦い経験なのですが、ワイヤーロックの鍵穴に雪が詰まって凍結し、春まで解錠できなくなってしまいました。
現場で鍵穴にお湯をかければ溶けるかもしれませんが、その日の晩にまた凍ってしまうでしょう。
天から降ってくる雨雪だけでなく、樹上から滴り落ちる雪解け水も鍵穴を濡らす原因となります。
次に粘着性のビニールテープをグルグル巻いて鍵穴を塞ぎます。
それでも不安な雪山では、更にアルミホイルやビニール袋で鍵全体を覆って完全防水にします。
剥がしたゴミが風に飛ばされないうちに、しっかり拾って持ち帰らないといけません。 素手ならウェストポーチのポケットのチャックを開けて拾ったゴミを入れる作業をノールックでも簡単にできます。(何回も繰り返し、手慣れた作業です)
厳冬期は手袋をはめて作業するので、どうしても手先の感覚が鈍くなります。
ノールックでゴミをポケットに入れたつもりなのに、手元が狂って粘着テープのゴミを知らず知らず落としてしまったようです。
あるいはウェストポーチのチャックを閉め忘れてゴミを落としてしまったのかもしれません。
記録を遡ると、私が現場で黒ビニールテープをうっかり捨ててしまった翌日の夜に空腹のタヌキが拾ったことになります。
ビニールテープに私の体臭がわずかに残っていたのか、匂いで餌と誤認したようです。
もちろんタヌキがビニールテープ(の切れ端)を食べても消化されませんし、栄養価はありません。
糞と一緒に正常に排泄されればよいのですが、消化されない大量のプラスチックごみが消化管に詰まってしまったり、ゴミに含まれる有害な化学物質を摂取したりする悪影響が懸念されています。
タヌキの溜め糞場で糞分析をしたり、解剖で死体の胃内容物調査をしたりすると、ヒトが捨てたゴミをタヌキがよく誤食していることが分かるそうです。
本を読んで知っていましたが、実際に私も後日、河畔林の溜め糞場wnで大量の輪ゴムやビニール片を含んだタヌキの糞を見つけています。(別の記事で写真を公開予定)
ヒトの生活域に近いところで暮らす個体は餌の多くをヒトの残飯に依存しているために、ゴミを誤食するリスクが高まります。
この事件で反省した私は、ゴミ袋を常に持ち歩くようになりました。
野外で自分が捨てたゴミに限らず、フィールドで見つけたゴミをなるべく拾って帰るようになりました。
実は日本の田舎は、河原も里山も農地もゴミだらけです。
誰かに褒められたくてゴミ拾いを始めた訳ではなくて、野生動物のゴミ誤食問題が深刻だと痛感したからです。
ゴミ問題のせいで野生動物が健康を害して数を減らし、観察できなくなると私も困ります。
ゴミ拾いも完璧主義だと疲れて長続きしませんから、やれる範囲で細々と続けていくつもりです。
たとえば金属製の空き缶よりも、プラスチックやビニール製のゴミを優先して拾っています。
プラスチック類は何年放置されても自然に分解されずに残るのが問題です。
誰かが丹念に拾い集めて適切に分別処理しなければ、いつまで経ってもフィールドからプラスチックごみは無くなりません。
大量消費されるプラスチック類を生分解性のものに早く切り替えて欲しいものです。
それから、日本は過剰包装や過剰サービスによるプラスチックごみが深刻です。
最近ストローをプラスチックから紙に切り替えた飲食店の是非が話題になりますが、そもそもボトルやコップ、グラスに口を付けて直接飲めば済むので私はストローを必要としません。
過剰包装を槍玉に上げましたけど、そもそも今回のタヌキ誤食事件は、私がワイヤーロックの鍵穴を(必要に迫られて)過剰包装したことが原因なので、皮肉なものです。
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