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2020/06/13

川岸で配偶者♀を一途にガードするオナガガモ♂(冬の野鳥)



2020年1月上旬・午後15:20頃・くもり

オナガガモ♀♂(Anas acuta)の大群が川面だけでなく、一部は岸に上陸して休んでいます。
陸上で配偶者ガード(配偶者防衛)している♀♂カップルを見つけました。
オナガガモはとても分かりやすい性的二型なので、野外で配偶行動の観察がしやすくて助かります。

渥美猛『オナガガモの奇妙なつがい形成』によると、

鮮やかな羽毛に換羽した♂は、♀に気に入られようと、ポンプ、げっぷ、水はね鳴き、そり縮みといったさまざまな求愛行動をします。つがいになった♂と♀は、一定の距離を保って、寄り添うように行動します。(中略)つがい♂は、つがい♀に求愛したり、接近する他の♂に対して攻撃します。この行動を配偶者防衛行動と呼びます。 (上越鳥の会 編『雪国上越の鳥を見つめて』p126より引用)

♂は♀を獲得すると採餌に専念できるのです。(中略)攻撃する頻度が一番多いのはつがい♂です。攻撃される相手はつがい♀に近づく独身♂やつがいにうっかり近づく独身♀でした。つがい♀はつがい♂に守られているため攻撃される頻度はごくわずかでした。(同書p127より引用)

これは主に水面上で繰り広げられる配偶者防衛行動について記述したものですが、今回の観察で、陸上でも続けられることが分かりました。

陸上で寝ている地味な♀aの横に♂が歩いて来ると、並んで止まりました。
♀は薄目を開けて♂の様子をこっそり見ています。
♂は首を上下に伸縮し始めました。
♂に特有の白い首筋を♀にアピールする求愛誇示行動なのでしょう。
このとき小声で鳴いているかどうか気になったのですが、周囲の大群の鳴き声にかき消されてよく聞き取れませんでした。
♂は求愛の合間に羽繕いもしています。

驚いたことに、♂が求愛しながら♀に胸で軽く体当りしました。(@0:27)
「プロポーズしてるのに無視すんなよ!」という「構ってちゃん」なのかな?と、どうしても擬人化しそうになります。
驚いた♀は歩き出しました。
もしかすると、♂はパートナーの♀を群れから離れたどこか静かな場所に誘導し、交尾したいのかもしれません。
その後の様子を見ていると、♂aはライバル♂から♀aを少しでも遠ざけたいのだ、と分かってきました。
しかし♀aはすぐに立ち止まると、片足立ちで寝始めました。

その間♂は、近寄ってきたライバル♂を目掛けて突進すると、追い払いました。
すぐに♀の傍らに戻って来ると、♂は求愛を繰り返します。
ライバル♂が近づきそうになると、♀との間に割り込むように地面に座りました。

座位休息しながらも♂は眠らずに、首を上下に伸び縮みさせて横の♀に白い首筋を見せつけています。(求愛誇示)
♂がときどき尾羽根を左右に激しく振る行動も何か意味がありそうです。

寝ている♀の横で♂が再び立ち上がりました。
ライバル♂が目の前を横切ろうとするだけで、♂は突進して撃退します。
♀の傍に戻って来ると、♂は必ず首を伸ばして求愛を披露します。
尾羽根を左右に振りながら♂は♀の横に座り込み、羽繕いを始めました。

♂は座りながらも油断なく配偶者防衛を続けます。
♂がまたすぐに立ち上がると、♀に求愛を再開。
ライバル♂が目の前を横切ろうとすると、♂は突進して尻を激しくつつき、追い払いました。

注目している♀♂ペアの背後でも、別の♀♂ペアが同様の求愛誇示および配偶者ガードを繰り広げています。

配偶者防衛に奮闘する♂aをよそに♀aはのんびりと片足立ちで寝ていました。
ようやく♀が目覚めると、歩いて川の方へ移動し始めました。
慌てて♂は求愛しながら、ぴったりと♀の横を付いて歩きます。
護岸の水際までやって来ると、♀a♂aが並びました。
このとき、♂aが右隣の♀b(無関係の♀b)をつついて追い払ったので驚きました。(@4:20)
オナガガモの♂から♀への攻撃を見たのは初めてかもしれません。
繁殖期のオナガガモ♂はとても一途で、配偶者以外の♀には興味が無いのでしょうか?
それとも発情していない♀には用が無いので追い払ったのかな?
そして♂aは左隣りのパートナー♀aに求愛誇示を続けます。

一旦逃げた♀bが戻って来て同じ場所に割り込むと、そのまま川に入りました。
最後はオナガガモの群れ全体が何か(通行人?)に驚き、岸から川へ一斉に飛ぶと、大騒ぎしながら逃げて行きました。
せっかく長時間、配偶者ガードを続けたのに、♂がこの混乱でパートナー♀とはぐれたのではないか?と心配になります。
同種の大群の中からどうやってパートナーを互いに個体識別しているのでしょうか?

オナガガモの♂は♀が浮気しないように一瞬も気が休まらず、見ていて気の毒になるほどでした。
この時期の♂はほとんど不眠不休、飲まず食わずで配偶者防衛に専念するのですかね?(男はつらいよ)
しかし上記の本を読むと、私の印象とは異なり、研究結果は意外なものでした。

つがいを形成した♀は、配偶者防衛行動により、♂に守ってもらえるため餌をとることに専念でき、繁殖のための栄養源を確保できるというのが従来の説です。(中略)
 つがい形成は♂にメリットはあるのでしょうか。オナガガモの場合、♂はつがいになったほうが採餌に専念できます。つがいになることは、♂にとって♀を獲得できるという最大のメリットのほかに餌をたくさん食べられるというメリットがあります。越冬期にたくさん餌を食べ、栄養を蓄えた♂は渡りや繁殖において栄養不足の♂よりも有利と考えられます。(同書p127〜128より引用)
本の記述はつがいが完全に形成されて落ち着いた後の話で、私が見ていたのはその前の段階だったような気もします。

つづく→オナガガモ(冬の野鳥)のラブコメ:♂aを追い払う♀に求愛する♂b




【追記】
松原始『鳥類学者の目のツケドコロ』によると、♀は♀で次々と迫ってくる♂の相手をいなしたりかわしたりする必要があり大変なようです。
(カモ類の)♂がやっているのは、「まずは自分が♀をナンパする」「ナンパに成功したら他の♂がつきまとわないよう、ひたすら♀をガードする」という行動なのです。 もし、このようなガードがなかったら、♀はつきまとってくる♂を追い払うのに多大な時間とエネルギーを費やすことになります。こういった無法な♂どもが寄ってくることのストレスや行動の不自由も馬鹿になりません。論文でも文字通りに「ハラスメント」と表現されることがあります。その結果、♀の栄養条件や健康状態が悪化する例もあることが知られています。 (電子書籍版より引用)

カモの繁殖には大きな特徴があります。せいぜい産卵のあたりまで♂は♀を厳重にガードするが、その後は何もしない、ということです。(同書より引用) 






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