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2018/12/06

ホソバセダカモクメ(蛾)の幼虫がアキノノゲシの種子を食べる際のトレンチ行動



2018年9月上旬

田園地帯の農道沿いに咲いたアキノノゲシの群落で丸々と太ったホソバセダカモクメCucullia fraterna)の幼虫を2頭見つけました。
アキノノゲシはホソバセダカモクメ幼虫の食草として知られているので、この組み合わせは不思議ではありません。
しかし今回の幼虫は2頭とも葉ではなく実を食害していました。
この記事では左側の個体bに注目します。

アキノノゲシの花が散ると、実が膨らんで種子と冠毛が作られます。
ホソバセダカモクメの幼虫は、その実につながる柄を数センチに渡ってかじり、傷をつけていました。
しかし先端の実を切り落とさないように、柄の表面だけを注意深く甘噛みしています。
やがて傷つけられた細い柄が萎れて折り曲がると、ホソバセダカモクメ幼虫は実の中の種子を食べ始めました。

ホソバセダカモクメ幼虫の種子食は2年前から気になっていたテーマなので、ようやく決定的な証拠映像が撮れて感無量です。

▼関連記事(2年前の撮影)
ホソバセダカモクメ(蛾)の幼虫はアキノノゲシの綿毛を食べる?

このように食べ方を工夫する様子がとても興味深く思いました。
わざわざ手間暇かけてでも種子を食べるということは、単純にアキノノゲシの葉を食べるよりも種子の方が栄養価が高いのでしょう。
幼虫が育って体重が増すと細い柄に掴まれなくなり、実を食べるためには柄をかじって萎れさせる必要があるのでしょうか?

ところでアキノノゲシと言えば、植物体を傷つけると白い乳液を分泌することが有名です。
これは草食動物に対する忌避物質を含んでいるのだそうです。

福田晴夫、高橋真弓『蝶の生態と観察』という本の「第5章:幼虫の食物と摂食行動」に似たような習性が書いてあったのを思い出しました。

 食痕をつけるときに、傷口から乳液や蜜が分泌されるような植物に対しては、葉脈にかみ傷をつけて葉先をしおらせるように下垂させてから摂食する習性が見られる。たとえば、イヌビワ――イシガケチョウ、キジョラン――アサギマダラ、ネムノキ――キチョウ、などからミドリシジミ類まで似たような習性が広く認められる。しかし、この問題はなぜか深く研究されたことがない。(p95より引用)


こうした摂食前行動は蝶類に限らず他の昆虫でも知られています。
私は未見ですけど例えば、クロウリハムシの成虫が有名です。

摂食の際、まず、葉を円形に傷つけ、円形の中の葉を食べる。これを「トレンチ行動」という。植物が出す防御物質(苦味や粘性がある)の流入を遮断する効果があると考えられている (昆虫エクスプローラのサイトより引用)

 クロウリハムシは、ウリの葉を円形に傷つけていく。それから、その円の中の葉を食べる。この奇妙な習性は、先に周りを傷つけておくことで、植物が出す防御物質や苦い汁液の流入を止めていると考えられている。円の傷の中の葉っぱは、きっと食べやすくておいしくなるのだろう。(石井誠『昆虫のすごい瞬間図鑑:一度は見ておきたい!公園や雑木林で探せる命の躍動シーン』p178より引用)


俄然興味が沸いてきた私は、この問題を自分なりに少し追求してみることにしました。
ホソバセダカモクメ幼虫とアキノノゲシを採集して飼育しようか迷ったのですが、この時期は忙しくて余力がありませんでした。
飼育下でもう一度同じトレンチ行動をするかどうか追試するとともに微速度撮影で記録したいところです。

(もう1匹の幼虫も同じ食べ方をしていたので、再現性は大丈夫そうです。)
しかしアキノノゲシを切り花にして花瓶に活けるのでは茎の切り口から乳液が流出してしまい、幼虫のトレンチ行動が再現しなくなりそうです。※


※ 乳液が流出した後の実を与えたら幼虫がトレンチ行動をしなくなり、更にその状態で実や柄に乳液を予め塗っておくとトレンチ行動がまた見られるようになれば、かなり強力な証明になりそうです。(机上の空論)
アキノノゲシの株を根ごと掘り採って鉢植えにするか、種子から鉢植えで育てる必要があるとなると、実験の準備が大変そうです。
また、ホソバセダカモクメ幼虫がアキノノゲシの葉を食べる前にも乳液対策のトレンチ行動をするのかどうか、知りたいところです。

幼虫を飼育する前に出来ることとして、まずはアキノノゲシの柄を萎れさせない状態で実を傷つけると乳液を分泌するか実験してみましょう。


※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。

つづく→もう一頭の幼虫もトレンチ行動



【参考文献】
竹内将俊, & 田村正人. (1993). ウリキンウワバ幼虫のウリ科寄主植物上でのトレンチ行動. 日本応用動物昆虫学会誌, 37(4), 221-226. 
(Google Scholarで検索すると全文PDFが無料で読めます。)

ウリ科植物を材料にした実験結果を読んでみると、今後の参考になりました。

・野外の自然状態の葉に対し,茎を切って水差し状態にした無傷の葉ではトレンチ率は低かった。
師管液の量は野外状態の葉で多く,また茎を切って水差し状態にした無傷の葉では切断からの放置時間が長いほど少なかった。
・自然状態の葉へ幼虫を放すと,最初の数分間はトレンチなしで摂食し,その後トレンチ行動に移るのが一般的であった。
・トレンチ行動を詳細に観察すると,ウワバ幼虫は,まず主要な葉脈に傷をつけ師管液を外に排出させた後,円状に溝をつけることが多く,また口器を掃除する行動を見せた。口器に多少の粘性物質が付着しても,最初に葉脈を傷つけることで多量の師管液の排出が行われるなら,サークルはつけやすく,その後の摂食は容易になろう。 



【追記】
ホソバセダカモクメ幼虫がオニノゲシの葉を食べていたときには、傷口から滲む白い乳液を気にしていませんでした。
トレンチ行動もしていませんでした。
▼関連記事(8年前の撮影) 
オニノゲシの葉を食すホソバセダカモクメ(蛾)幼虫
ホソバセダカモクメ(蛾)幼虫b@アキノノゲシ実柄噛り
ホソバセダカモクメ(蛾)幼虫b@アキノノゲシ実柄噛り
ホソバセダカモクメ(蛾)幼虫b@アキノノゲシ種子食

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