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2023/04/30

ホンドテンの糞に含まれるアケビ種子のエライオソームに群がるクロオオアリ♀【種子散布と共生関係】

 

2022年10月中旬・午後15:05頃・晴れ 

里山の細い尾根道にホンドテンMartes melampus melampus)がサインポストとして排泄した糞が少し離れて点々と2箇所に続けて残されていました。 




その小さな糞塊をよく見ると、黒くてツヤツヤしたアケビの種子が未消化のまま大量に含まれていました。 
この山に自生するアケビと言えばミツバアケビです。 
雑食性のテンは果実をよく食べますから、アケビの甘い果肉も大好物なのでしょう。 
テンはアケビと持ちつ持たれつの共生関係にあり、アケビの種子散布に一役買っていることになります。 

しかし自然界はもっと複雑で、それだけでは完結しません。 
アケビの種子の端には白いエライオソームが付属しています。 
エライオソームは脂肪酸、アミノ酸、糖などの栄養が豊富で、アリの大好物です。 
テンの消化管を通った後もエライオソームは変性することなく(栄養価を保ったまま)、そのまま排泄されたようです。 
エライオソームを報酬として種子を巣に運び、種子散布を助けるアリがいるのです。 
実際に、クロオオアリCamponotus japonicus)のワーカー♀がテンの糞に群がっていました。 
他には微小のアカアリ(種名不詳)も多数来ていました。 
このアカアリの種類を見分けられる方がいらっしゃいましたら、是非教えて下さい。 
急いでいた私はマクロレンズを装着するのが億劫で、アカアリを接写しませんでした。
アカアリはテンの糞塊2つともに集まっていましたが、クロオオアリは片方の糞にしか来ていませんでした。


クロオオアリ♀+アカアリ@テン糞

クロオオアリ♀+アカアリ@テン糞

アカアリのみが来ていたテンの糞塊


急いでいた私はじっくり観察できませんでしたが、アケビの種子を持って巣に運ぶアリは居ませんでした。 
新鮮な糞は粘り気がありますから、個々の種子が互いに接着してアリは運び出せないのでしょうか? 
糞が乾燥するまで非力なアリはアケビの種子を運べないのだとしたら、ここで長期のインターバル撮影したら面白そうです。 
あいにく現場は登山客の往来が多い尾根道だったので、微速度撮影することができませんでした。 
今思えば、テンの糞を丸ごと採取してどこか人気のない山中に放置して、微速度撮影しながらアリが来るのを待てば良かったかもしれません。

それともエライオソームの付いた種子を巣に運ぶのは、種子食専門のアリ(クロナガアリなど)だけなのかな? 
今回来ていたクロオオアリやアカアリはその場でエライオソームを食べるだけなのかもしれません。 
だとすれば、アケビにとってクロオオアリは役立たずで、せっかくコストをかけて作ったエライオソームは無駄になります。(損失)

もしアリがテンの糞に含まれるアケビの種子を巣に運べば、アケビは2段階で種子散布(動物散布型)してもらうことになります。 
つまり、アケビは甘い果肉とエライオソームを駄賃として使い、種子を少しでも遠くに運んでもらうよう複数の動物たちを操作しているのです。 



【参考文献】
 ・楠井晴雄・楠井陽子『テンが運ぶ温帯林の樹木種子』(『種子散布―助けあいの進化論〈2〉動物たちがつくる森』p37-50に収録) 
・中西弘樹『アリによる種子散布』(同書p104-117) 
・大河原恭祐『なぜアリ散布が進化したのか』(同書p118-132)


 アケビ類を含む(テンの:しぐま註)糞には、トビイロケアリ Lasius niger が集まっている場面をよく見かけた。ミツバアケビやアケビの種子にはアリ散布植物に特有のエライオソームがあり、トビイロケアリはこれに誘引されるものと想像される。トビイロケアリが種子を運んでいるところは確認していないが、アリによる二次散布も考えられる。(同書p46より引用)


多田多恵子『身近な草木の実とタネハンドブック』によれば、

(ミツバアケビの)タネを地面に置くとトビイロシワアリが群がり、白いゼリー質をかじり、運んでいく。この翌年、7m離れた場所に芽が出た。(p146より引用)


 

【追記】

てっきりホンドテンの糞と思い込んでましたが、糞の形状からもしかしてホンドタヌキの糞ですかね? 

タヌキがこんな開けた尾根道で堂々と排便するかな?(反語)という気もします。

タヌキの糞だとしても、全体のストーリーは変わりません。



【追記2】
ちょうど1週間前の2022年10月上旬に同じ稜線を歩いていたら、尾根道にアケビの果皮が転がっていました。
よく見ると歯型が付いていて、中の甘い果肉は残っていませんでした。
野生動物の食べ残し(食痕)だと思います。
丸くて小さなパンチ穴が開いているのは、犬歯による歯型なのか、鳥が嘴でつついたのか、それとも虫食い穴かな?
たとえばアケビコノハ幼虫はアケビの葉だけでなく果実も食害するのでしょうか?
素人目には、ナメクジがキノコをかじった食痕にも似ている気がします。
アケビの果皮は野生動物も捨ててしまうほど苦いのに、ヒト(日本人)は料理して残さず食べてしまうのですから、知恵というか食に対する執念が凄いですね。


【追記3】
吉見光治『テン:種をまく森のハンター』という素晴らしい写真集p57に「アケビを食べたテンの糞」の写真が載っていました。
明るい日中にホンドテンが脱糞するシーンを捉えた写真には驚きました。
♂は目立つ場所に糞をする。このマーキングは縄張りを主張していると考えられる。(p54より引用)
テンの♀がサインポストに糞を残さないのなら、どこに排便するのでしょう?
副題にあるように、この本はテンの種子散布が主要テーマになっています。
残念ながら、テンが実際に木に登って果実を採食している現場の写真は柿だけでした。
撮影の難易度がきわめて高いのは容易に想像できるので、不満という訳ではありません。
アマチュアが糞分析の真似事をするのに参考になりそうなテンの糞の写真がいろいろ載っていたのは助かります。
勉強になったのは、テンは堅果類も食べるが種子散布には貢献しないという点です。
ミズナラとブナの堅果類を食べたテンの糞。種子は噛み砕かれ発芽しない。(p59より引用)



【追記4】 

ホンドテンのロードキル死骸を解剖すると、胃内容物からカキノキ種子および果肉が見つかりました。


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