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2020/08/13

ルピナスの蝶形花で採餌するクマバチ♀の羽ばたき【HD動画&ハイスピード動画】



2020年5月下旬・午後14:00頃・晴れ

平地の原っぱに咲いたノボリフジ(別名ルピナス)の群落で、この日はキムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)が訪花していました。
青い花にもピンクの花にも両方来て採餌していました。
後脚の花粉籠に橙色の花粉団子を付けています。
前脚や顔、腹部下面も大量の花粉で汚れています。

ルピナスのメインの送粉者(の本命)はおそらくクマバチだろうと予想した私は、ルピナスの花畑にしつこく通っていました。
粘った甲斐があって、狙い通りの被写体が撮れました。

前回観察したヤマトツヤハナバチ♀よりもクマバチ♀は大型で体重も重いので、ルピナスの蝶形花の翼弁に着陸すると蜂の重みで左右の翼弁が自然に開きます。
同時に内部の竜骨弁がテコのように動いて、先端の葯と雌しべがクマバチの毛深い腹部下面に押し付けられます。
蝶形花が開くと、旗弁の根元に口吻を差し込んで吸蜜しているようです。
クマバチは穿孔盗蜜の常習犯として悪名高いのですが、ルピナスの花に対しては正当訪花を繰り返し、盗蜜行動をしていません。
クマバチ♀は吸蜜しながらも前脚で雄しべの葯から花粉を掻き集めています。
体毛に付着したオレンジ色の花粉を掻き落として後脚の花粉籠にまとめ、巣に持ち帰るのです。
一方、クマバチの無駄のない洗練された採餌行動によってルピナスは効率よく他花授粉してもらえます。
こうしてルピナス(ノボリフジ)とクマバチは相性が良く、見事な共生関係にあることが伺えます。
クマバチが飛び去ると軽くなったルピナス蝶形花の翼弁はバネ仕掛けのように自然に閉じ、竜骨弁は自動的に隠されます。
(既にこじ開けられて戻らなくなった蝶形花もクマバチ♀は律儀に訪れていました。)
個々の花での滞在時間は短く、クマバチ♀は忙しなく飛び回っています。
小型のヤマトツヤハナバチ♀が苦労して花弁をこじ開けているのと大違いでした。

花から飛び立つ瞬間を狙って240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@1:48〜)
花に着陸すると羽ばたきを止めます。
飛び立つ際にクマバチ♀が花から顔を離すと口吻を引き抜いたので、吸蜜後と分かります。
次の花に向かう途中も空中でホバリング(停空飛行)しながら身繕いして、顔や体に付いた花粉を拭って花粉籠に移しています。
ルピナスの花序を回りながら順番に訪花しているようですが、重複による無駄もありました。

ラストシーンは、クマバチ♀が青い花だけでなくピンク色のルピナスにも訪花したという証拠映像です。(@7:30〜)
残念ながら蜂にピントが合う前に飛び去ってしまいました。
やはりクマバチは通説通り、ピンクよりも青い花の方が断然好みだという印象を受けました。

クマバチ以外ではマルハナバチ類も重要な送粉者としてルピナスに訪花しているのではないかと予想したのですけど、今季はなぜか一例も見ることができませんでした。
たまたまなのか、それともマルハナバチはルピナスの花が好みではないのか、来年以降も引き続き注意して見ていくつもりです。
今年の春は暖冬明けで花の開花が異常に早まり、ハナバチ成虫の羽化とタイミングが合わなくなってしまったのではないか?という気がなんとなくしています。(※追記2参照)


【追記】
坂上昭一、前田泰生『独居から不平等へ―ツヤハナバチとその仲間の生活』という専門書の第5章は『クマバチの生活』を扱っています。
多くのクマバチは草本よりも木本の花を好む。宮本(1961)※は兵庫県を中心として、キムネクマバチの訪花植物29科59種をあげた。そのうち30種が木本花で、また最も好まれたマメ科(全体の25%)の多くは、ヤマフジ・ナンテンハギ・クララなどの木本花だった。逆にいえば、体が大型なため、草本の小さい花からは採餌しにくいためもあろう。(p149-150より引用)
私もクマバチが好きなので、個人的にクマバチの訪花植物リストを動画でコツコツと撮りためているところです。
先人の偉業には未だ到底及びません。

※ 宮本セツ. (1961). Xylocopa appendiculata circumvolans Smith の訪花性: 日本産花蜂の生態学的研究 XXIII. 昆蟲, 29(1), 4-13.

(原著論文の全文PDFファイルを国立国会図書館のデジタルコレクションからダウンロードすることができました。)

抄録
1. Xylocopa appendiculata circumvolans Smithの訪花性について1952-1959年に篠山盆地において研究した.2. X. appendiculata circumvolansは, 近縁のCeratina japonicaと同様の生活史をもつもので, その訪花内容と卵巣発達度との関係も同様のものであつた.3. X. appendiculata circumvolans♀は29科53属59種の植物を訪花対象としたが, その約25%はマメ科植物であつた.訪花植物種のほぼ半ば以上が落葉喬木あるいは灌木の花であり, さらに草木の中でも草丈の高いものを訪花対象としていた.4. X. appendiculata circumvolansが盗蜜を行なつた植物種はナツグミ(グミ科), ツリフネソウ(ホウセンカ科), ハコネウツギ(スイカズラ科), クララ, ヤブマメ(マメ科), オオバギボウシ, ギボウシ(ユリ科)などである.5. 盗蜜の習性および草木より樹木の花を好む習性などから, いわゆる有用植物の花粉媒介者としての価値は低いものと推定される.

※【追記2】
石井博『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学』という名著によると、私の予想した通りのことが起こっているようです。
気候の変動は、生物種間の活動季節のずれを引き起こす可能性があります。これをフェノロジカルミスマッチといいます。植物が特定の送粉者に受粉を依存している場合、フェノロジカルミスマッチはその植物の受粉成功を大きく低下させる原因になります。(p277より引用)

具体例としては、
春先に開花するエゾエンゴサク(ケシ科)の集団を14年間にわたって調査し、春先の雪解け時期が平年よりも顕著に早い年には、送粉者が不足して種子生産量が低下してしまう傾向があることを示しました。これは、雪解けが早い年にはエゾエンゴサクの開花時期が早まるものの、主要な送粉者であるマルハナバチの女王バチが越冬から目覚める時期が、エゾエンゴサクの開花時期ほどには早くならなかったためでした。(p276より引用)




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