ページ

2020/08/23

野生ニホンアナグマの探餌行動と本家「穴熊戦法」



2020年6月上旬・午後15:00頃

私が峠道を歩いて下山中に、前方の道端にタヌキのような哺乳類が現れました。
焦って撮影開始に手間取ったものの、幸い私の存在に気づいていないようです。
よく見ると、タヌキではなくニホンアナグマMeles anakuma)でした。

アナグマは路肩の草むらに沿って歩き、急坂をこちらに向かってどんどん登って来ます。
歩きながら路肩に堆積した落葉の下に鼻を突っ込んで匂いを嗅いで回り、餌となる小動物を探しているようです。(探餌行動)
ずんぐりむっくりの体型で、肉付きが良さそうです。
体は茶色の毛皮で覆われ、毛並みの良い健康そうな個体です。
脚は真っ黒い毛で覆われ、鋭い足の爪はややピンク色っぽい白でした。

舗装された峠道を横切る排水用の水路を金網状のグレーチング蓋が塞いでいます。
暗渠に気づいたアナグマは座り込んで(腰を下ろして)匂いを嗅ぎました。
立ち上がると暗渠に沿って道を渡り始めました。
採餌行動に熱中していたアナグマは、私の目の前に来るとようやくヒトの体臭・気配で気づいたようです。
私の方を見上げると、鼻を上下させて匂いを嗅いでいます。
このとき私は太陽を背にしているため、アナグマから見ると逆光になっています。
アナグマは急に慌てて向きを変え、路肩へ走って戻りました。
アナグマが恐ろしく近視(近眼)であることを実感できました。
たまたま私が風下に立っていたので、気づくのが遅れたのかも知れません。

逃げたアナグマは、暗渠の開口部に潜り込んで緊急避難しました。
山側から流れる沢の水を谷側の山林に流すための排水路(幅40cm、深さ20cm)ですが、この日は水路の底は乾いていました。

私が動画を撮り続けながらそっと近づくと、排水路の中央部にアナグマが潜んでいました。
安全なシェルターに隠れたつもりでも、格子状のグレーチング蓋の隙間からアナグマの姿が丸見えです。
底に溜まった落ち葉の匂いを嗅ぎながらゆっくり前進して行きます。
そのままトンネルを通り抜けるのかと思いきや、出口の真上で私が待ち受けていることに気づくと、暗渠内を引き返しました。
グレーチング越しに見上げて私の様子を伺っています。
このまま籠城するのでしょうか?
これぞまさに本家の「穴熊戦法」ではないか!と私は密かに感動しました。
もし私が両方の出入り口を塞いでしまえば、アナグマは檻に閉じ込められた状態になってしまいます。
タヌキと同様にアナグマも身の危険が迫ると「狸寝入り」をするのだそうです。
暗渠に逃げ込んだアナグマをもっと驚かせたり追い詰めていたら、アナグマの死んだふり(擬死行動)を実際に観察できたかもしれません。

しばらくすると、アナグマはトンネルの入り口から顔だけ出してキョロキョロと辺りの様子を確認しています。
逡巡の末にトンネルから一気に飛び出し、走り去りました。
暗渠の開口部の先は山林(スギ林)の獣道になっていました。
(※ 撮影時は獣道と思ったのですが、大雨の後に暗渠からの水が流れた跡かもしれません。)

アナグマは笹で覆われた林床の斜面を斜めに下って逃げました。
鈍重そうなアナグマも、いざとなれば敏捷に走れることが判明。
今回出会ったニホンアナグマは、一度も鳴き声を発しませんでした。

最後に、アナグマが避難していた暗渠の中を覗いてみました。
よくあるコンクリート三面張りの狭い排水路で、底には大量の落ち葉が堆積していました。
残念ながら、獣道や泥の上に明瞭な足跡は残っていませんでした。
この獣道や暗渠内にカメラトラップを仕掛けたら面白そうです。
山林の獣道を辿れば、アナグマの巣穴(セット)を発見できるかもしれません。

過去に私が野生ニホンアナグマと遭遇したのは、数年前に平地の湿地帯で出会った一度だけです。
そのときは出会い頭に逃げられてしまい、動画を撮れずに悔しい思いをしました。
アナグマが私のフィールドに生息していることの証拠映像を今回ようやく撮ることができて、感無量です。

ちなみに後日、全く同じ場所のトンネル(排水路)が他の野生動物にも隠れ家として利用されていることが分かりました。
お楽しみに


ニホンアナグマ@峠道+探餌徘徊
ニホンアナグマ@暗渠内:隠遁
暗渠+獣道:山林


0 件のコメント:

コメントを投稿