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2020/05/20

川岸の倒木に離合集散するカワウ:1日の暮らし【10倍速映像】(冬の野鳥)



2019年12月中旬・午前7:35〜午後16:28・晴れ(日の出時刻は午前6:50、日の入りは午後16:21)


▼前回の記事
群れから離れた倒木で過ごす独居カワウの羽繕い(冬の野鳥)

カワウPhalacrocorax carbo hanedae)に一番人気の太くて長い倒木に注目し、とある1日の様子を微速度撮影で記録してみました。
10倍速の早回し映像をご覧下さい。
愚直に長撮りしてみるだけで、色々と面白いことが分かってきます。
お気に入りの止まり木に朝一番乗りした個体から映像が始まります。
朝日が昇ると強烈な逆光が眩しかったものの、午後になるとよく晴れた順光になりました。
夕方になると西日を浴びて、なかなか絵になる光景になりました。

潜水漁や水浴を済ませたカワウが川面から倒木に飛び上がると、よちよちと横歩きで斜めの倒木を上に登り、空いていれば最高地点まで移動します。
どうやらそこが最も好条件の特等席のようです。
倒木に上陸するカワウの数が増えると、互いに適度な間隔を開けて並ぶようになります。
翼を広げても隣の個体とぶつからない間隔を保っています。
好条件の場所は全身が黒い成鳥が占め、腹面が白い若鳥は残った空席に甘んじている傾向がありました。
群れ内の力関係の序列(つつきの順位性)に従って止まり木の席次が決まっているのか、あるいは単純に早い者順なのか、気になります。
もしかすると漁の経験が浅い若鳥は獲物がなかなか捕れずに川で過ごす時間が長く、若鳥が倒木に後から参入しようとしても空席が無いのかもしれません。
あるいは、カワウの若鳥は止まり木で休むよりも川で遊びたい年頃なのかもしれません。

止まり木ではのんびり欠伸をしたり、翼を大きく広げて乾かし、時間をかけて念入りに羽繕いします。
倒木に止まるカワウの向きは個体によってバラバラで、その場で各自がときどき方向転換しました。
倒木上で向きを変える際は、バランスを崩して川に落ちないようにその場で羽ばたいています。
日光浴で羽根を乾かすため太陽に対して全員が同じ方角を向くのか?と予想したのですが、そんなことはありませんでした。
倒木上でたまたま選んだ席の微妙な角度や形状によって、止まりやすい向きがありそうです。
濡れた羽根が乾き冷えた体が暖まったら漁を再開します。

止まり木に長時間居座るカワウは、ときどき片足立ちになっていました。
疲れた足を交互に休めているのでしょう。
倒木に座り込んで昼寝する個体もいました。
ただしそれは、特等席(止まり木が水平になっていて安定する場所)を占めた個体の特権です。
止まり木が斜めになっている場所に座ると居心地が悪いようで、短時間で立ち上がってしまいます。

川に張り出すように岸から倒れた木に並んだカワウの群れは頻繁に脱糞していました。
この止まり木は水洗トイレになっていて清潔に保たれています。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」
もし陸地に生えた特定の木にカワウが集まると深刻な糞害で止まり木の枯死をもたらすことが容易に想像できます。
カワウの糞害や悪臭で現実に悩んでいるヒトには申し訳ないのですが、生態学的に巨視的に考えみましょう。
ヒトによる大規模な森林破壊に比べたら遥かにマシです。
本来カワウは必ずしも害鳥ではなく、川魚を捕食したカワウが陸地で排便することによって河畔林に良質な栄養分(肥料)が供給されます。
昔はカワウのコロニーの真下に溜まった糞(グアノ)を定期的に集める伝統が日本各地にあったそうです。
良質の肥料として農家に高く売れるので、とても良い現金収入になったらしいです。
しかし化学肥料が大量生産される時代になると、カワウと共存する伝統は廃れてしまいました。
カワウは大量の糞によって荒廃した河畔林が使えなくなると、新しい場所に移動します。
つまりカワウは長い年月をかけて河畔林に適度な撹乱と再生を順次もたらしていると考えられます。
似た例として、ビーバーの話があります。
ビーバーが巣作りのために大量の木を切り倒し大規模な土木工事をしてダムを作るのは、一見するとヒトによる環境破壊と同じです。
しかし、実は川沿いの生態系の多様性を保つのにビーバーの活動が必要であることが分かってきています。
もちろん「日本に外来種のビーバーを移入しろ」という主張ではありません。
「郷に入っては郷に従え」で、ビーバーが棲む国ではビーバーが必要ですし、カワウが棲む国ではカワウが必要なのです。

この川で暮らす水鳥の個体数ではカルガモAnas zonorhyncha)が優占種です。
同じ倒木で休みたくても体の大きなカワウに対して立場が弱いカルガモの様子(遠慮している)にもご注目ください。
ただし異種間で場所取りの本格的な喧嘩にはなりませんでした。
カルガモは大きなカワウとの直接対決を避け、明らかに遠慮しています。
カワウが居なくなると、待ちかねたようにカルガモが空席を占めました。
カワウにとって倒木の両端は止まり木としての条件が悪いようで、避けています。
左の先端は川の水に浸っており、根際の右端は日当たりが悪いのでしょう。
倒木の両端ならカルガモも止まり木として遠慮がちに利用することが許されます。
川の水に浸った倒木の細くなった左端にカルガモが乗ると、その重みで倒木全体が少し沈みます。
そこからカルガモが立ち去ると、しなっていた倒木がバネのように復元します。



※ 対岸に張ったブラインド内に三脚を据えて長撮りしました。
微速度撮影中に鳴き声や環境音が録音されなくなるのはカメラの仕様です。

等倍速で録画した映像素材も10倍速に揃えてから繋ぎました。
長編映像なのでBGMを入れてみました。
画面のチラつきを抑えるために、動画編集時にdeflicker処理を施しました。
カメラが1台しか無いので、他の被写体を撮ったり私が昼寝したりして、断続的に撮影しました。
動画内に撮影時刻を刻々と表示したいのですが、時計を直接写し込む手法も使えませんし、動画編集で時刻のテロップを入れる方法が分かりません…。

カワウの群れはこの倒木上で夜もそのまま寝る訳ではありません。
集団ねぐらは別の場所にあることが分かっています。
私がカワウを終日観察した目的の一つは、日没時に集団塒へ帰る様子を撮影することでした。
ところが昼間に夢中で動画を撮りまくった結果、カメラのバッテリー3個を全て使い切ってしまい、残念ながら肝心の帰投シーンを撮り損ねてしまいました。
カメラのバックモニター(液晶画面)を非表示にしたりして、昼間はなるべくバッテリーを節約したのですが、配分を間違えました。
カメラが使えなくなった数分後にカワウが倒木から次々と下流へ飛び去ってしまい、悔しい思いをしました。
できればブラインド内で連泊したいところです。
しかしカメラのバッテリーと食料・水などを補給しなければなりません。
夜から天気が崩れるとの予報で諦め、辺りが完全に暗くなるのを待ってから撤収しました。

ブラインドを使った撮影スタイルは成果が大きくて充実している反面、あまりにも過酷でした。
徹夜や早朝の寒さが辛いだけでなく、窮屈なブラインド内で息を殺して長時間座り続けるとエコノミークラス症候群になりそうです。
折りたたみ式の小さな椅子とクッションを持ち込んで座り、ときどきブラインド内で立ち上がって血行回復に努めました。

予想より気温の寒暖差が激しく、晴れた昼下がりのテント内は意外にも暑いぐらいでした。
防寒具をどんどん脱いで薄着になります。
夕方になると冷え込んできたので再び防寒着を着込みました。
足元が一番冷えるので、靴下に貼るタイプのカイロを使いました。

冬は川辺りでも蚊が全くいないので快適です。
夏だとヤブ蚊の襲来に悩まされて地獄でしょう。
この流域で最も恐るべきツツガムシ病に感染するリスクも冬にはありません。

終日観察で疲労困憊した私の体力がなかなか回復せず、根雪が積もる前にもう一度再挑戦することができませんでした。
そこで、楽をして別アングルから夕方だけ撮影することにしました。


つづく→日没直前に川から塒へ飛び去るカワウの群れ(冬の野鳥)


最大7羽のカワウが並んで止まれる倒木

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