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2019/08/16

ヒメハナバチ♀複数個体が同じ巣に出入り、出巣の定位飛行



2019年5月中旬・午後12:11〜12:20


▼前回の記事
ヒメハナバチの営巣地で穴掘りを邪魔し、巣口に侵入を試みるアリ【ハイスピード動画】

ヒメハナバチ科(またはコハナバチ科?)の一種の集団営巣地で小さな蜂の忙しない活動を漠然と眺めていても目移りするだけです。
とある巣口に注目して、三脚に固定したカメラでじっくり長撮り監視してみることにしました。

後脚の花粉籠に花粉を付けていない空荷の個体♀bが飛来しました。
腹部は光沢のある黒と黄金色の縞模様になっています。
着陸してすぐに巣口を探り当て、中に潜り込みました。
巣口は小石(大きめの砂粒)で塞がれていて、確かに外からは分かりにくくなっています。

その直後に、今度は後脚の花粉籠に花粉団子を満載した別個体が飛来しました。
巣口を探して辺りを試掘しているときにクロヤマアリFormica japonica)のワーカー♀とニアミスしたものの、アリの方が避けて通ってくれました。
ヒメハナバチ♀aも苦労の末にようやく正しい巣口を探り当てて、中に入って行きました。
ハチが入巣する度に毎回、閉塞石による戸締まりが自動扉のように機能していることに感心します。
偶然なのかもしれませんが、寄生者対策として進化した習性では?とつい先走って考えたくなります。
巣穴が多数開いている集団営巣地の中でもし帰る巣を間違えたのだとしたら、在巣の主からすぐに叩き出されてしまうはずです。
無事に入巣できたので、同じ巣に複数個体の♀が暮らしている社会性ハナバチと判明しました。

次は小さなハエが飛来し、ヒメハナバチの営巣地に着地しました。
寄生バエのようで思わせぶりですけど、すぐに飛び去りました。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。
前の記事に登場したアブとも違う種類です。

▼関連記事
ヒメハナバチの営巣地でホバリングする寄生アブ?との攻防【ハイスピード動画】

しばらくすると、採餌に出かける♀が巣口の外に頭から出て来ました。
さきほど運んできた花粉は巣内の育房に掻き落としてきた後なので、後脚の花粉籠は当然ながら空荷です。
閉塞石の隙間をすり抜けるように巣口から這い出て来ます。
すぐに飛び立つと定位飛行してから外役に出かけました。
定位飛行を1/5倍速のスローモーションでリプレイすると、頭を巣口に向けたまま営巣地の周囲の状況を記憶しながら扇状に飛び回っていることが分かります。
続けてもう一匹の♀も巣から出てきて、軽く定位飛行してから採餌のために花畑へ出かけました。
同じ巣に同居する個体数をきっちり調べるには、巣に出入りするハチの全てに個体識別のマーキングを施さないと分かりません。

観察初日の記録は以上です。
出巣シーンがなかなか撮れないのが不思議でした。
外役、採餌は午前中に済ませてしまうのかもしれません。

何はともあれ、同定するために蜂を採集しなければいけません。
裸地のあちこちに巣穴が開いている集団営巣地の中で、入巣直後の巣に目をつけました。
小さなプラスチック容器で巣口を塞ぎ、出巣する個体を捕獲しようと試みたものの、上手く行きません。
営巣地は緩斜面になっているため、手を離すと容器が倒れてしまいます。
容器を手で持って待ち構えていると地中に微小な振動が伝わり、蜂は警戒して外に出てきてくれません。

そこで作戦変更。
黄色い花粉を運んで帰巣のため着地した蜂にすかさずビニール袋を被せて捕獲しました。
動画撮影した巣口とは別の巣に戻ってきた♀個体です。
1匹だけではサンプリングとして心許ないのですけど、欲張って蜂を取り過ぎるとせっかく見つけた個体群が絶滅してしまうかもしれないので、最小限に留めます。
生物のフィールド調査も持続可能性がなによりも大切です。

以下は標本の写真。(掲載予定)
とりあえず、ヒメハナバチ科かコハナバチ科かぐらいは自力で区別できないと話になりません。
ウツギヒメハナバチだと嬉しいのですが、どうでしょう?



この後は、別テーマの撮影プロジェクトが忙しくて手が回らなくなってしまいました。
そのうちに、この集団営巣地で蜂の活動が見られなくなりました。
もし年二化の場合は、夏から秋にかけてコロニーの活動が再び活発になるかもしれないので、定期的に通って状況をチェックすることにします。

コハナバチ科だとすると、素人が生態を解明するのはとても難しいので、予習が必要です。
北海道大学のキャンパスでホクダイコハナバチの生態を解明した坂上昭一『ハチの家族と社会:カースト社会の母と娘』という名著を読み返しているところです。
2006年に初めて読んだときには中公新書なのに強烈に難しくて(当時は馴染みのないコハナバチのイメージが全く沸かず)読み通すのも一苦労でした。
それから13年、私もフィールドでの実体験を少しずつ積んで、ようやくこの本の記述や面白さが理解できるようになってきました。
他にも『ハチとアリの自然史―本能の進化学』第7章 単独性コハナバチにおける「社会性の」出現 (宮永龍一・前田泰生・北村憲二)も再読しないといけません。


つづく→


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