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2010/12/11

ハナムグリの一種の幼虫による背面歩行




2010年9月下旬

農地横の舗装歩道で丸まると太った幼虫が徘徊していました。
よく見ると奇妙な移動法で、背面を下にした仰向け姿勢のまま蠕動しています。
背中に生えた剛毛と地面の摩擦力で前進します。
3対(6脚)の立派な胸脚があるのに決して歩行には使いません。
これはハナムグリの仲間の幼虫に特有な運動だそうです。
『ファーブル昆虫記』で読んで知っていましたが、実物をじっくり見るのは初めてかも。


体の向きを変えてやり、うつ伏せにすると腹面の胸脚を使って歩くようになるでしょうか?
しばらく擬死した後、寝返りを打って仰向けになり、頑固に背面歩行を再開します。
しかし腹面にも剛毛が生えているので、単純な毛の有無では説明できません。
そもそも腹面を下にすると重心が不安定になるようで、すぐに転がってしまいます。
胸脚が完全に退化しないのも不思議です。
面白がって実験を繰り返すと、疲れてしまったようです。
撮影後は車に轢かれないよう、道端の草叢に放ってやりました。
次回は飼育に挑戦してみようかな。
体重の軽い若齢幼虫も背面歩行するのだろうか?
発達した大顎も印象的でした。
下腹部が黒いのは腸に糞が詰まっているためだろう。




もし種類を見分けられる方がいらっしゃいましたら、是非教えて下さい。

【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』によると、

  • 甲虫の幼虫には、チョウやガ、あるいはハバチ類の幼虫に見られるような腹脚はない。頼れるのは3対の胸脚と腹部末端の吸盤だけである。(p90)
  • ハナムグリ類は地上での幼虫の移動法も個性的で、体を仰向けにして、環節を波状に動かして前進する。あしは歩行にではなく、終齢幼虫が蛹室をつくる際に使用されるという。(p114)
ハナムグリの幼虫の脚は小さくて、歩くときには使われません。脚には、跗節という部分しかなく、爪もなくなっています。(『ファーブル写真昆虫記6:リラの花祭りのお客』p42より)



【追記2】
奥本大三郎 訳『完訳ファーブル昆虫記 第8巻上』によれば、
・(狭い)ガラス管の中を移動するハナムグリの幼虫。腹部を下にした”正常な”姿勢で歩いている。 (p33より引用)
・ハナムグリの幼虫が奇妙な歩き方をして我々を驚かせるのは、こちらがこの虫の本来の棲息環境の外で観察しているからにすぎない。 (p34より引用)



【追記3】
林長閑『甲虫の生活―幼虫のくらしをさぐる 』という本を読むと、次のように書いてありました。
 地上に取り出したハナムグリ類の幼虫は、腹を上にして地面を這うことで知られている。各体節の背面に帯状に生じた刺毛が、足の爪と同じように地面にひっかかって体の前進を助けている。重い体を足で支える必要がなく、きわめて合理的な移動法である。この幼虫の足を観察すると、跗節とよばれる部分を残して、すでに爪が退化してなくなっていた。(p138より引用)

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