2022年8月下旬・午後14:40頃・くもり
里山の雑木林を抜ける林道にヌタ場らしき水溜りがあります。
林道脇の斜面を少し登ると、林床に生えたシシガシラというシダ植物の葉が不自然に汚れていました。
泥水がかかり、それが白く乾いているのです。
その横にそびえ立つカラマツ大木の幹の根元も泥で白く汚れていました。
まるで誰かが白いペンキを塗ったようです。
林道のヌタ場で泥浴びした直後のニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)が法面の獣道を少し登り、カラマツの幹に体を擦り付けて縄張り宣言のマーキングをしたのではないかと想像しました。
林床で転がり回って下草にも泥でマーキングしたようです。
あるいは歩いたり立ち止まったりしただけで、イノシシの体から泥水が下草のシシガシラに滴り落ちていたのかもしれません。
今泉忠明『アニマルトラック&バードトラックハンドブック』によると、
イノシシは湿地で転げ回り、全身を泥まみれにする習性がある。これを“ヌタを打つ”といい、それをする場所が“ヌタ場”である。泥浴びした後イノシシは近くのマツの木の根元に行って、幹を牙で削り(牙かけ)、体をこすって松やにをつけ、体毛を磨く。(p13より引用)
カラマツの樹皮からは赤い樹脂が滲み出しています。
まさかツキノワグマが爪を研いだ跡なのでしょうか?
しかし、クマがわざわざ松の木に登る用事は無いはずです。
根元の地面には赤い樹脂の塊が滴り落ちていました。
熊谷さとし、安田守『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』という本でイノシシのフィールドサインについて調べると、カラマツの幹に残る傷跡は「牙かけ痕」のようです。
牙を研いだ痕とされているが、サインポストの意味もあるのだろう。木がマツ類の場合、毛を硬くするため、松脂を体に塗るためだともいわれている。(p83より引用)
(ぬた場の)近くの樹木や岩などに、泥を落とすために体をこすった跡も見つかる。その際に、泥と一緒に体毛が付着している場合があり、もし毛先が二股や三股になったものであれば、イノシシの仕業と考えられる。(p82より引用)
これを参考にして、次回は枝毛になった抜け毛を探してみます。
「(イノシシが)体をこすりつけた跡はシカと比べて低い位置になる場合が多い」(p82より)とのことですが、当地では基本的にニホンジカは生息していないことになっています。
多雪地帯では笹などの食草が深い雪に埋もれてしまい、シカは越冬できないからです。
イノシシのフィールドサインを見つけたので、ヌタ場(水溜り)と近くの泥カラマツをトレイルカメラで監視することにしました。
果たして予想通りの証拠映像が撮れるでしょうか?
ちなみに、水溜りの泥に残された蹄の跡も見つけています。
斜面に育ったカラマツの根元が大きく湾曲しているのは、幼木の時期に深い積雪の重みがかかったせいです。
幹がオーバーハングしているので谷側の根元には雨がかからず、地面が常に乾いています。
そのため、アリジゴクの集団営巣地となっていました。
動画撮影日にはイノシシに踏み荒らされてアリジゴクの巣穴が分かりにくくなっていますが、後に復活しました。
【追記】
この樹種をてっきりアカマツだと早合点したのですが、恥ずかしながらカラマツの高木だったと後に判明しました。
アカマツなら常緑の針葉が枝に見えるはずなのに、落葉樹でした。
現場の地形のせいで、少し離れたところから全体の樹形を見渡せなかったのも間違えた原因の一つです。
訂正しておきます。
林将之『樹皮ハンドブック』でカラマツの項目を読むと、
(樹皮が)はがれた部分は赤みを帯びることが多く、しばしば全体が赤っぽくてアカマツに似た個体も見る。 (p24より引用)
とのことで、専門家でもちょっと紛らわしいのだそうです。
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