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2021/04/15

木の実を樹皮の下に貯食するヤマガラ(野鳥)

 

2020年11月下旬・午後12:20頃・くもり 

平地の落葉樹林で出会ったカラ混群の中で、ヤマガラSittiparus varius)が冬に備えてせっせと貯食行動をしていました。 
初めは樹皮の隙間や裏側に潜んでいる越冬昆虫を捕食するために探しているのかと思いました。 
しかしじっくり観察すると、木の実を貯食していると分かりました。

黒い木の実(種子?)を咥えたヤマガラが、柳の大木の苔むした樹皮の隙間に埋め込んでいました。 
千切った苔を被せて上手く隠すと飛び去りました。 

苔むした幹をつついているときに、別個体のヤマガラが近寄って来ると、驚いて(嫌がって?)飛び去りました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@1:10) 
少なくとも2羽以上のヤマガラが活動していることの証拠映像になります。 
ヤマガラは雌雄同色なので、外見から性別を見分けることはできません。 
ヤマガラは一夫一妻の留鳥とされていますから、この縄張りで活動しているのは♀♂つがいだと思います。 

樹皮の裏に隠された木の実を見つけて食べるシーンも撮れました。 
まずは1/5倍速のスローモーションでご覧ください。(@1:22〜) 
幹の表面から緑の苔の欠片を毟り取ってから、苔の奥に隠されていた黒くて丸い粒状の種子を摘み出し、その場で呑み込みました。 
もう一度だけ幹から苔を毟り取ったものの、諦めて幹から飛び降りてしまいました。 
自分が過去に貯食していた場所を覚えていて、取り出して食べたのでしょうか。 
それとも樹皮の下に隠れていた越冬昆虫を捕食したのかな?(もし丸まったダンゴムシなら、映像から見分けられる気がします。) 
苔について私は勉強不足ですけど、苔が種子または果実状の物体を生産するという話は聞いたことがありません。 
ひょっとすると別個体のヤマガラが隠した木の実を盗み食いしているのではないか?という可能性を思いつきました。 
しかし、同じ縄張り内のつがい同士で盗み合っても仕方が無い気がします。 
繁殖期にヤマガラの♂が♀に求愛給餌するメニューには貯食物が含まれ、雛にも貯食物を給餌することがあるそうです。 
カラ混群のコガラやヒガラなども貯食するらしいので、混群内の異種間で貯食物を互いに盗み合っているとしたら面白いですね。 
決定的な証拠映像が撮れるまでは個人的な仮説として頭の片隅で温めておきます。 
本格的に調べるためには、混群の鳥たちに足輪を付けて個体識別しないと無理かもしれません。 

しばらくすると、落葉した柳の細い枝先にヤマガラが止まっていて、嘴には何か茶色の木の実を咥えていました。(@1:55〜) 
逆光でよく見えないのが残念です。 
少し飛んで安定した横枝に止まり直すと、足で押さえつけ木の実を嘴で割って中身を食べ始めました。(@2:20〜3:36) 
なぜこれは貯食しなかったのか、不思議です。 
長期保存できない種子を見分けて食べているのかな? 
食後は嘴を足元の枝に擦り付けて掃除します。 
続いて横枝で少し移動すると、埋め込まれた(貯食しておいた?)木の実をほじくり出し持ち去りました。(@3:40) 
ちなみに、枝に少し残っていた黄葉の形から、この樹種はおそらくハコヤナギ(ヤマナラシ)のようです。 

黒い木の実を咥えたヤマガラが幹を登って来ました。(@4:07) 
先程と同じく、苔むした幹の割れ目に木の実を埋め込んで隠しました。 
 一仕事終えたばかりなのに、近くに生えていた緑の苔を毟り取ると、中から木の実を見つけて咥えました。(@4:30) 
 改めて苔の下に隠し直そうとしたものの、結局諦めて木の実を咥えたまま飛び去りました。
スローモーションで見直すと、嘴で取り出した際に、苔が木の実に付着していました。
不要な苔を振り落とそうとしても、なかなか落ちません。 
一旦足で掴み直し、苔を取り除いて木の実だけを咥え直し、飛び去りました。 
自分が貯食した物を隠し直しているのか、それとも別個体の貯食物を横領しているのか、分かりませんが、俄然、面白くなってきました。 
私が見ているせいで警戒したヤマガラが貯食場所を変更した可能性もあるかな? 
自分が貯食した木の実を頻繁にチェックして、カビが生えかけたり鮮度が落ちた物は食べてしまうのかもしれません。

次のシーンでも、木の実を咥えたヤマガラが木の幹をあちこち移動して、貯食場所を探し回っています。(@6:19) 
幹の苔むした場所で木の実を一度は埋め込んだものの、気に入らなかったようで再び取り出しました。 
少し離れた樹皮の隙間に埋め込み直すと、千切り取った苔を上に被せて偽装しました。 
貯食を終えたヤマガラが同じ幹を少し上に登ると、剥がれかけた樹皮の裏から大き目の丸い木の実を探し出して持ち去りました。 
やはり貯食物を互いに盗み合っているからこそ、自分の貯食物を何度も念入りに隠し直しているような気がしてきました。 

※ かすかな鳴き声を聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


今回ヤマガラが貯食または食べていた木の実(堅果?)の種類が分かりません。 
雑木林の枝から葉がほとんど散り終わった後でした。
現場の柳の幹に巻き付いて伸びていた細い蔓には、おそらくツルウメモドキと思われる赤い実が残っていました。 
また、林床の下生えにはヨウシュヤマゴボウの黒い実がなっていました。 
しかし、これらは乾果ではなく水気のある軟かい果実(液果)のため、除外できます。 
撮影現場の少し離れたところに常緑樹のアカマツが立っていました。 
アカマツの方角からコツコツ♪と啄木鳥のような音が聞こえていたのですが、鳥の正体は確認できませんでした。 
ヤマガラが松ぼっくりを採食していても不思議ではありません。
▼関連記事(6、8年前の撮影) 
ヤマガラがアカマツの実を採食【野鳥】 
アカマツの樹上で採食するヤマガラ(野鳥)
しかし、今回ヤマガラが嘴に咥えていたのは、アカマツの実の形とは違うでしょう。 
季節を変えてこの森に通い、構成樹種を詳しく調べる必要がありそうです。 
特にエゴノキの花が咲くかどうか、要チェックです。
もしかすると、草本植物の種子という可能性もあるかもしれません。 
私は映像から朝顔の種子を連想しました。 
丸い木の実の正体は何なのか見当もつきません。 


ヤマガラの貯食行動について、手元にある資料で復習してみましょう。 
貯食をする場所は、樹皮の下などの樹上や、草や木の根本や斜面、倒木のわきなどの地上で、比率としては4対6くらいで地上が多いという。貯食をする時の行動としては、木の実をまずそこへ運び、木の実がはいるほどに穴を開けたり、隙間を大きくした後、木の実を置いてくちばしでコンコンとたたき込む。埋める深さは2センチ以内が多いらしい。そして、その上にふたとなるような物を置いて、やはりコンコンとくちばしでそれをたたき込むか、つつき入れるようにする。貯食したものを取り出す行動は当然ながらこの行動の逆をおこなうことになる。そのため、ヤマガラを見ていると、隙間を覗いたり、そこに何かを入れたり、そこにふたをする行動や、何かをつまんでどかせたり(この際にはくちばしにくわえたかと思うとぽいと放り投げることが多い)、隙間などの中から何かを取り出したりする行動をとてもよく見せる。(p19より引用)
エソロジカル・エッセイ 無名のものたちの世界IV』という本に収録された樋口広芳『《おみくじ引き》をする鳥の生態』では、三宅島にすむヤマガラの生活を詳しく紹介していました。 
ただし、本州にすむヤマガラとは行動が若干異なるそうです。 
くわえとった木の実は、そのままのみ込んでしまわずに、必ず近くの小枝まで持っていって、脚で押さえつけてから食べ始める。これは、地表に落ちている木の実を食べる時でも同じである。この習性は他地域のヤマガラにも共通(p10より引用)
 木の実を貯える行動は、8月末から翌年の2月頃まで観察できる。ただし、うまく割ることのできなかった木の実や、一部分だけ食べた木の実を隠しなおすのは、4、5月になっても見られることがある。(中略)最も盛んに貯えるのは、10月と11月である。貯えるものは、スダジイ、エゴノキ、ツバキなどのかたい木の実(p11より引用)
一ヶ所にひとつの木の実を隠してしまうと、またひとつくわえてきては隠すというくり返しを行なうわけだが、この場合、まったく同じ場所に2個以上の木の実が隠されることはない。普通、数十センチから数メートルは離れている。(p12より引用)
木の実を貯える行動。 (1)木の実のとがった方向を前にして嘴にくわえる。 (2)それを倒木や木の根元などに押し入れる。 (3)鈍端部を嘴でたたいて埋め込む。 (4)埋め込み跡に木くずや土をつめる。(p13より引用)


ヤマガラが貯食物を互いに盗み合っているという記述は見当たりませんでした。
私が通うフィールドは東北地方の雪国なので、過去の研究者がヤマガラを研究した照葉樹林帯ではありません。 
ここ豪雪地帯にすむヤマガラは、冬に備えて木の実を貯食する際にわざわざ雪で埋もれる地面に隠すことは避けるはずです。 
私は未だヤマガラが地面に貯食する例を見たことがありません。
▼関連記事(6年前の撮影) 
杉の木に貯食するヤマガラ(野鳥)

 


【追記】

樋口広芳森に生きる鳥:ヤマガラのくらし』は古い本ですけど、児童書と侮ることなかれ。

本州(伊豆半島南部の照葉樹林)のヤマガラの行動や生活史を詳細に観察した貴重な記録です

林のなかのいろいろな部分を利用するこの割合は、季節によって、少しずつちがっています。

 たとえば、秋から冬にかけては、高木の上層や中層でたべものをとる割合は、少しへり、ぎゃくに、林のもっと下のほうや幹や、地表ふきんを利用する割合は、少しふえました。(p46〜47より引用)

ヤマガラは、エゴノキやシイのかたい木の実から、サクラやクスノキやミズキなどのやわらかい木の実まで、いろいろな種類の木の実をたべます。(p49より) 

木の実をたべる時は、両あしの内趾(3本あるまえあしゆびの、いちばん内側にあるあしゆび) で実をしっかりとおさえつけてから、わってたべる。(p55より)

たくわえるたべものは、シイやエゴノキやツバキなどのかたい木の実です。(p58より) 

貯食の習性は、ふ化後 1週間めぐらいでもちかえって、親鳥の行動を見せずに飼育していた鳥たちでも見られました。ですから、この習性は、さえずりとはちがって、おそわらなくてももっている、生まれつきのものである(p71より引用)

この本にも、カラ混群内あるいはヤマガラ同士で貯食物を盗み合うという事例は書いてませんでした。


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