ページ

2020/09/12

自分の影と戦うハグロトンボ♂



2020年7月上旬・午後18:00頃・晴れ

川沿いに建つ民家の西に面した外壁が波状のトタンで覆われていて、その壁に向かって1匹のハグロトンボ♂(Calopteryx atrata)が何度もぶつかりながら飛んでいました。
何気なく見過ごしそうになって、動画に撮り始めるのが遅れましたが、よく考えると非常に面白い行動です。
動画編集時に彩度を少し上げると、腹部がメタリックグリーンなので♂と分かりました。

夕方の西日を浴びてハグロトンボ♂の黒い影が外壁にくっきりと投影されています。
1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみると、影に正面から繰り返しぶつかって行ってることが分かります。
自分の影をライバル♂と誤認して、喧嘩を挑んでいるようです。
つまり、これは一種の鏡像反応でした。
もし曇り空だったり日差しの向きが逆だったりして影が出来なければ、家屋の壁などの障害物があってもハグロトンボは衝突せずに難なく回避して飛んで行くはずです。


▼関連記事(1年前の撮影)
川辺りで激しく縄張り争いするハグロトンボ♂

トタン壁は平面ではなく波状なので、これに写った影はやや歪んでしまいます。
自身の忠実な写像ではないのに、歪んだシルエットでも同種と認識される点が興味深く思いました。
ちなみに壁の下部はコンクリートの平面になっていて、ハグロトンボ♂はそこに写った影にも激しく突進していました。

ハグロトンボ♂の影は全身が真っ黒な同種♀と似ています。
それなのに戦いを挑んだということは、ハグロトンボ♂は他個体の性別を腹部の色で見分けているのではなく、敵対的な行動(ぶつかってくる)に見えてカチンと来たのかもしれません。

「影との戦い」をじっくり観察したかったのですが、壁の端に達すると死角に飛び去ってしまいました。
ハグロトンボ♂にしてみれば、「謎の手強いライバル♂がようやく居なくなった」とせいせいしていることでしょう。

トンボの知能で鏡像自己認知が可能だとは思えませんが、次は本当の鏡を目の前に見せて、ハグロトンボの鏡像反応を確かめたいところです。
様々な動物に鏡を見せたときの反応を調べるのはミラーテストと呼ばれ、昔から行われている実験心理学の面白いテーマです。
そこそこ高価で割れ易い大きな鏡を野外に持ち出すのは大変そうです。
捕獲してきたトンボを鏡張りの室内に放し、実験するのが良いかもしれません。


0 件のコメント:

コメントを投稿