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2018/02/19

チャイロヒダリマキマイマイの起き上がり運動



クロマルハナバチの巣:定点観察#13
▼前回の記事
クロマルハナバチの古巣に侵入を繰り返し獲物を探すクモバチ♀

2016年8月下旬

丁度1ヶ月ぶりにクロマルハナバチBombus ignitus)営巣地の様子を見に行くと、一度は草刈りされていた側溝の雑草が再び生い茂り、巣穴を覆い隠していました。
山腹に車道を通した法面をコンクリートで補強していて、その壁面に開けられた排水口の一つに営巣していたのです。
コロニーの活動は終了(逃去?)していて、出入りする蜂の姿はありません。

巣口の奥を覗き込むと、珍客が侵入していました。
穴に詰まっている苔混じりの土塊と一緒に取り出してみると、なんとチャイロヒダリマキマイマイEuhadra quaesita montium)でした。

真夏に乾燥したコンクリート壁面を徘徊していて、湿り気が多少ある穴の中に避難していたのでしょう。
あるいは産卵場所を探索していたのかもしれません。
採集シーンをハンディカムで撮っていたのに、肝心の動画ファイルが失われていました。
ハンディカム本体の不調なのかSDカードの異常なのか不明ですが、この日にハンディカムで撮った映像がすべて失われました…。



チャイロヒダリマキマイマイ@採集直後@クロマルハナバチ古巣
チャイロヒダリマキマイマイ+scale
チャイロヒダリマキマイマイ裏面+scale

焦げ茶色の殻の個体でした。(※追記参照)
殻を逆さまにして路上に置いてしばらくすると、警戒を解いて起き上がり、徘徊を始めます。
軟体の左側面に見える黒くて細長い物は、チャイロヒダリマキマイマイが排泄した糞だと思うのですが、飼育下での観察と逆側なので自信がありません。
力強く起き上がる動きが面白くて、初めは微速度撮影で記録しました。
10倍速の早回し映像でご覧ください。
意外に早く起き上がることが分かったので、リアルタイムのHD動画に切り替えてから、チャイロヒダリマキマイマイを再びひっくり返してみました。
また、採寸代わりに一円玉(直径2cm)を並べて置きました。

持ち帰って飼育しようか迷ったものの、元の穴に戻して帰りました。
今思うと、カタツムリがクロマルハナバチの古巣を食害する可能性もあるので、別の穴に入れるべきだったかもしれません。

クロマルハナバチの巣穴を発掘調査するための道具をネット通販で注文しているのですけど、最安値の店を選んだばかりに、商品がなかなか届きません。
古巣の採集は次回に持ち越します。
クロマルハナバチの古巣にカビが生えたり虫などに食害されるのではないかと心配で、気が気でありません。
しかし、巣口の奥は土砂がびっしり詰まっていて、古巣は埋もれているようなので、半ば諦めています。

つづく→#14



【追記】
私が当初この個体をヒダリマキマイマイと記述していたところ、YouTubeのコメント欄にて、MEGUMI ch KOTAさんからチャイロヒダリマキマイマイではないか?という御指摘を頂きました。
これだけ、濃い個体ならば、チャイロヒダリマキマイマイだと思います。ヒダリマキマイマイとチャイロヒダリマキマイマイ、両方飼育したことありますが…チャイロヒダリマキマイマイの方が、より標高が高い所に生息しているようです。チャイロは、静岡県、山梨県、神奈川県では、私自身でも確認できました。この殻の具合も、軟体部分の模様も、山梨県で採集されて、我が家にやって来て、通算7回も産卵したチャイロヒダリマキマイマイにそっくりです。
チャイロヒダリマキマイマイとは、
ヒダリマキマイマイの亜種。殻幅50mm前後。殻の色が暗褐色で火炎彩をもつ。関東地方と中部地方の山地に分布する。(wikipediaより引用)
私も平地(標高266m地点)で交尾していたヒダリマキマイマイを採集・飼育していて、確かにそれよりも今回の個体は殻の色が濃いなと思いました。
素人ながら私が気になるのは、チャイロヒダリマキマイマイの生息地が「関東地方と中部地方の山地に分布する」と限定されていることです。
一方、今回の撮影地は山形県南部(内陸部)の低山で、標高645m地点です。
歩みの鈍いカタツムリの国内分布の定説を覆すのはとても恐れ多いのですけど、チャイロヒダリマキマイマイで間違いないということなので、訂正しておきます。
実は東北地方のカタツムリはあまりよく調べられていないのかもしれません。

今回の個体は殻口(最終層の螺管)が広がっているので、ムツヒダリマキマイマイ類ではありません。

チャイロヒダリマキマイマイとヒダリマキマイマイは亜種の関係ですから交雑可能のはずです。
試しに同居させて交尾行動を観察してみれば良かったと今になってちょっぴり後悔…。
当時は他にもあれこれと色んなことに手を広げすぎて、一杯いっぱいだったので、採集せずに帰りました。


【追記2】
野島智司『カタツムリの謎:日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?』という本を読むと、山地性のカタツムリが黒っぽいのは一般的な傾向のようで、保護色で説明されています。
野鳥が繁殖期になると卵殻の形成に必要なカルシウムを補給するためにカタツムリをよく殻ごと捕食するという話に続いて、次のように書かれていました。

 カタツムリの殻は、海にすむ巻き貝の殻と比べて茶色っぽい地味な模様をしています。これは保護色といって、周囲の色に紛れて発見されにくいためです。実際、暗い山奥にいるカタツムリの殻は黒っぽく、明るい平地にいるカタツムリの殻は白っぽい傾向があります。
明るいところでは白っぽいほうが、空からエサを探す鳥に見つかりにくいと考えられます。同様に、高い木の上で生息する種類も、殻が白っぽくなる傾向があります。(p72-73より引用)


チャイロヒダリマキマイマイを採集後のクロマルハナバチ古巣(中には土砂が詰まっている)
その全景(側溝から生い茂る雑草をかき分けて巣口を露出している)




2016年9月上旬

クロマルハナバチの古巣の発掘

別の記事にするまでもないので、残念な結果をここに報告しておきます。(動画も無し)
8日ぶりに現場を再訪すると、側溝の雑草がより一層生い茂り、巣穴を覆い隠していました。
気になるこの植物はミズヒキですかね?
花が咲かないと私には名前が分かりません。
葉の中央部が「斑入り」のように色が変わっています。



ファイバースコープがあれば穴に差し込んで、活動中のコロニーの様子を直接観察できたかもしれません。
予算がない私は仕方なく、古巣を発掘するために長くて頑丈なピンセット(27cm)を購入しました。
普通のスコップ(移植ゴテ)では直径7cmの狭い排水口に差し込めないのです。



しかしコロニーが逃去(全滅? 解散?)してから発掘に着手するのがあまりにも遅過ぎました。
台風や大雨のせいで、巣穴(法面補強するコンクリート壁の排水口)には小石混じりの土砂がみっちり詰まっていました。
苺パック容器に一杯分の土を掘り出しても、マルハナバチの巣の痕跡は皆無でした。
古巣の育房の破片ぐらいは見つかるかと期待していたのですが、全くの空振りでした。(掘る穴を間違えたかと思ったぐらいです)
ロングピンセットでも届かないもっと奥に営巣していたのでしょうか?
奥は硬い岩(コンクリートかも?)で塞がれているような手応えで、突き当たりになっていました。

生物の痕跡としては唯一、キセルガイの稚貝を一つ発見しました。
(落胆のあまり、泥まみれになったゴム手袋を外すのも億劫で、写真も撮っていません。)
ちなみに、巣口のすぐ下のコンクリート壁面にはキセルガイの成貝が3匹居ました。


▼関連記事
キセルガイの徘徊と交尾行動?【10倍速映像】
側溝の縁を移動するキセルガイ【10倍速映像】

クロマルハナバチの古巣はカタツムリ(チャイロヒダリマキマイマイ)やキセルガイなどの陸貝、または土壌生物などに食害されたり、カビが生えてあっという間に分解されてしまった可能性も考えられます。
陸貝は排水口にたまたま迷い込んだだけかもしれませんが、分解者である蝸牛やキセルガイが栄養価の高いマルハナバチの古巣に誘引されたのだとすれば、とても面白いなと思いました。

シリーズ完。





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