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2016/02/02

宿主キイロスズメバチ♂から脱出したハリガネムシ



2015年10月中旬

キイロスズメバチ巣の定点観察#7


巣の下で弱々しく徘徊していたキイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)♂を生け捕りにして持ち帰りました。

▼前回の記事 
体内寄生されて弱ったキイロスズメバチ♂
毒瓶は使用していませんが、翌日には採集容器内で息絶えていました。
死骸の傍らでハリガネムシの一種が蠢いていて仰天しました!
生きているハリガネムシを見るのはこれが初めてです。
宿主から脱出したハリガネムシ(おそらく成虫)の色は乳白色で、表面は艶があります。
ちなみに円形プラスチック容器の直径は3cm。
ハリガネムシは宿主の体長の何倍あるでしょうか。
やがてハリガネムシはとぐろを巻きました。
活発に動いている方が頭部なのでしょうか。
頭部に目はあるのかな?と思い、マクロレンズで強拡大しても眼点などは見つかりませんでした。
できれば宿主の腹端から脱出する様子を見たかったですね。

キイロスズメバチの営巣地の横には渓流が流れていました。
ハリガネムシの生活史から、次のようなストーリーが考えられます。
ハリガネムシに寄生された中間宿主の水生昆虫や直翅類(コオロギやカマドウマなど)をキイロスズメバチのワーカー♀が狩って、その肉団子を給餌された蜂の子が体内寄生されたまま成虫♂まで育ったと思われます。
スズメバチの成虫の主食は巣内の幼虫から貰う栄養交換液であって、固形の獲物を自らは食べられません。
また、雄蜂は狩りを行いません。
したがって、ハリガネムシに寄生されたのは成虫の時期ではなく、その前からに違いありません。
もし中間宿主内のハリガネムシが成虫だったら肉団子にする際に噛み殺されてしまったはずです。
ハリガネムシの小さな幼虫が運良くキイロスズメバチ♂幼虫に飲み込まれたのでしょう。

キイロスズメバチが蛹になっても変態が完了するまでハリガネムシは身を潜めていて、成虫になってから一気に成長したと思われます。
巣の外に捨てていた多数のキイロスズメバチ幼虫も同じくハリガネムシに体内寄生されていたのかもしれない、と想像しました。
(もちろん、キイロスズメバチ幼虫の大量遺棄事件とハリガネムシの寄生は無関係である可能性もあります。)

もし私が採集しなければ、ハリガネムシに寄生されたキイロスズメバチ♂はヨロヨロと渓流に向かい、入水自殺したでしょうか?
川沿いで待ち構えていれば、そのような宿主操作による異常行動が観察できるのかな?

成虫になったハリガネムシは宿主の脳にある種のタンパク質を注入し、宿主を操作して水に飛び込ませ、宿主の尻から出る。(wikipediaより)

ハリガネムシに寄生された昆虫は生殖能力を失うらしい。
死んだキイロスズメバチ♂を解剖して精巣の状態を調べるべきでしたね。(乾燥標本にしてしまったので無理かも…?)
今回は動揺してしまったので(正直言って確かにグロい!)、次回の宿題です。

ハリガネムシを記念にエタノール液浸標本として保存してみることにしました。
するとハリガネムシはコイル状に丸まりコンパクトになりました。
死んで乾燥すれば針金のようにカチカチに硬くなるらしい。

▼関連記事 
カマドウマ♀に寄生したハリガネムシの最期

エタノール漬けにした後で思ったのですが、脱出したハリガネムシを水槽で飼うことは可能ですかね?
1匹だけでは交尾・産卵行動を見るのは無理ですけど、水中で泳ぐシーンだけでも動画に撮れば良かったですね。(ハリガネムシは皮膚呼吸なのかな?)

『スズメバチの科学』を紐解いてみると、スズメバチの天敵のひとつとしてセンチュウが紹介されていました。
しかし、p65に掲載された写真「キイロスズメバチの体内から現れたセンチュウ」はハリガネムシの間違いではないでしょうか?



陰山大輔『消えるオス:昆虫の性をあやつる微生物の戦略 (DOJIN選書)』p43によると、
ハリガネムシ(線虫とは分類学的には少し異なる類線形動物門に属する寄生虫)も宿主の行動を操作して水辺に向かうことが知られており…(後略)。




つづく→#8:キイロスズメバチ♀による外被の増築と巣口の拡張【6倍速映像】





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