ノシメマダラメイガの飼育記録#24
2015年7月下旬貯穀害虫として世界的に悪名高いノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)を室内で見つける度に幾ら採集しても次々に現れて切りがありませんでした。
台所の米びつや乾物を調べてみても食害されている形跡はなく、発生源をどうしても突き止められませんでした。
遂にその謎が意外な形で解けました。
収穫後に天日干ししたニンニク(皮付きの球根)を大皿に山盛りにしていました。
厨房に置いたその大皿の中に、ノシメマダラメイガ成虫が数頭潜んでいることに気づきました。
料理に使おうとニンニクの山を何気なくかき分け掘り起こすと、何頭も飛び立ったのです。
ニンニクの山の奥に潜り込もうとする個体も居ます。
ビデオカメラの補助照明(白色LED)を点灯すると、ノシメマダラメイガ成虫は眩しい光を嫌ってすぐにニンニクの山の隙間に潜り込もうとしました。
どこからか飛来した♀が産卵のため潜んでいたのか、それともニンニクを食べて育った成虫が羽化したのでしょうか?
ニンニクを取り出して大皿の底を調べてみても、他にノシメマダラメイガ幼虫が好みそうな食物(穀類や菓子など)は入っていませんでした。
幼虫が綴った糸や巣、繭なども見つかりません。
夜にもう一度ニンニクの山を探してみると、やはりノシメマダラメイガ成虫が潜んでいました。
再現性があったということで、ニンニクがノシメマダラメイガを誘引することがはっきりしました。
また、台所の棚の壁に止まっていたノシメマダラメイガ成虫にニンニク山盛りの大皿を差し出したら、ニンニクに飛び移りました。(一度きりの実験)
見つけた成虫の性別を私は外見で見分けられないのですが、もし♀なら産卵目的でしょう。
あるいはニンニクの強烈な匂い成分であるアリシン(C6H10OS2)が偶然にもノシメマダラメイガの性フェロモン(cis-9, trans-12-tetradecadienyl acetate、分子式C16H28O2)と化学構造が一部似ていて、一種のフェロモン・トラップになっている可能性も考えられます。
化学に弱い私には、この2つが似ているかどうか判断できないので、詳しい方のコメントをお待ちします。
アリシン以外の微量成分に誘引活性があるのかもしれません。
ノシメマダラメイガが貯蔵ニンニクから発生するという話は初耳で、全くの盲点でした。
文献検索してみると既にメキシコから報告されていました。(PDFファイル)
Perez-Mendoza, J., and M. Aguilera-Peña. "Development, reproduction, and control of the Indian meal moth, Plodia interpunctella (Hübner)(Lepidoptera: Pyralidae), in stored seed garlic in Mexico." Journal of stored products research 40.4 (2004): 409-421.
【追記】この論文を日本語で解説した記事が農研機構のホームページのコラムに掲載されました。日本では貯穀害虫の発生を防ぐために昔から唐辛子(鷹の爪)やニンニクを米びつに入れるらしいのですが、少なくともニンニクに関しては逆効果かもしれません。
少量のニンニクなら忌避効果があるのかな?
ニンニクはドラキュラを撃退できるという伝説が有名ですから、その連想でおまじないとか気休め程度(プラセボ効果)にしかならないのでは?という疑いを抱いてしまいます。
検証するために、ニンニクだけを餌としてノシメマダラメイガ幼虫が成虫まで育つかどうか飼育して調べることにしました。
つづく→#25:貯蔵ニンニクで見つけたノシメマダラメイガ(蛾)終齢幼虫
【追記】
兵藤有生、林 晃史『招かれざる虫: 食べものにつく害虫の科学推理ノート』を読むと印象的な一節が書いていました。
ノシメマダラメイガの事件はこれからも頻繁に起こるであろう。なぜなら、そもそも、いたるところにいるのだが、人の暮らしのほうが変化をして、ノシメマダラメイガを「害虫」にしてしまった面がある。頻出するため「都市型害虫」という呼び名まであるほどで、調査のためにフェロモントラップ(一定期間設置して虫を採り調査するための道具)を取り付けると、至るところでノシメマダラメイガは確認されている。(p203-204より引用)
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