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2014/06/01

モズ♂(野鳥)の鳴き真似♪を声紋解析してみる



2014年5月中旬・曇り

郊外の住宅地でモズ♂(Lanius bucephalus)が電線に止まって鳴き続けています。
よく聴いてみると、キョッキョッキョッ♪という縄張り宣言(高鳴き?)の合間に他の野鳥の鳴き真似をしています。
リップシンクロを確認できたので(嘴の動きと鳴き声が一致)、確かにこの個体が鳴いている声です。
ギョギョシ、ギョギョシ♪というオオヨシキリの鳴き真似が余りにもそっくりなので驚きました。
近くに水田があり、本物のオオヨシキリも生息しています。
他にもヒヨドリ(この時期によく耳にする掠れ声混じりのさえずり?)やスズメ(チュンチュン♪)、ヒバリ(ピチピーチ…♪)などの鳴き真似も混じっているでしょうか?
鳴き真似のレパートリーが多い、なかなか芸達者な♂です。
百舌鳥が鳴き真似している証拠映像を撮れたのは前年に引き続きこれが2回目。

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モズ♂の鳴き真似♪と虫捕食、ペリット嘔吐【野鳥】



モズ♂の鳴き真似を声紋解析してみる

鳴き真似と言っても空耳かもしれませんから、声紋解析で客観的に比較してみたくなります。
私が声紋解析の真似事を始めた動機がまさにこれです。
音痴な私は絶対音感もなければ鳴き声の「聞きなし」も苦手なので、声紋解析で視覚的に調べるしかありません。
オリジナルのMTS動画ファイルから音声をWAVファイルにデコードしてから鳴いている部分を適当に切り出し、スペクトログラムを描いてみました。


モズ♂のさえずり♪パート
オオヨシキリの鳴き真似♪#1
オオヨシキリの鳴き真似♪#2
ヒヨドリの鳴き真似♪

▼関連記事▼
・オオヨシキリ♂の鳴き声♪を声紋解析してみる【野鳥】
・ヒヨドリ(野鳥)春のさえずり?♪を声紋解析してみる




モズはなぜ他の鳥の鳴き真似をするのか?

漢字で百舌と書くモズの鳴き真似を調べることで、モズがどんな場所に住み、また、そのまわりにどんな鳥がすんでいるか知ることができます。
モズがなぜほかの鳥の鳴き声をまねるのか、そのわけは、いまのところよく分かっていません。
『科学のアルバム:モズのくらし』p41より
素人ながら幾つか仮説を立ててみました。
  1. モズは狩りをする肉食の鳥です。獲物となる小動物を油断させる一種の攻撃的擬態なのでしょうか? 録音したモズの鳴き声をフィールドで流すと逃げたり隠れたりする小動物がいるかな?(プレイバック実験)※追記3参照
  2. 鳴いて縄張り宣言したり求愛したい欲求と矛盾しますが、捕食者や天敵から隠れたいのでしょうか? 特に種間托卵するカッコウに対して警戒が必要です。モズは鳴き声で自分の営巣地や縄張りを知られたくないのかもしれません。ただし鳴き真似でどれだけカッコウを騙し撹乱できるかどうかは疑問です。カッコウはオオヨシキリにも托卵するので、今回のようにモズ♂がオオヨシキリの鳴き真似をしてしまうと結局はカッコウを縄張りに誘引してしまう結果になりそうです(藪蛇)。
  3. 配偶者選択による性淘汰なのでしょうか? ♂がさえずる歌のレパートリーの豊富さが♀による選り好みの対象となった結果、鳴き真似できる♂が繁殖に有利となり誇示するようになったのかもしれません。ヒトに例えるなら、合コンでカラオケが上手だったり物真似の上手い芸達者がもてる状況と似ているでしょうか。
  4. モズの鳴き方は完全に生得的なものではなく雛の時期の学習の成果なのでしょうか? 親の鳴き声を聴いて覚える臨界期にたまたま巣の近くで鳴いている他の鳥の鳴き声も刷り込まれてしまうのかもしれません。モズはなんと猫や犬の鳴き声、鳥の羽音、ヒトの赤ちゃんの鳴き声まで真似ることがあるそうです。もしモズを雛から飼育してオウムや九官鳥のようにトレーニングすれば、臨界期に聞かせたヒトのお喋りを真似るようになるのか、非常に興味があります。(現代では野鳥の飼育は法律で禁じられています。)


【追記】
岩波新書『小鳥はなぜ歌うのか』を紐解いてみると、p104-105
・野性の状態で他の種類の鳥の声を真似る鳥は、たくさんいる。カラス、カケス、ムクドリ、モズなどはよく知られている。

・なぜこれらの鳥が自然状態でも物真似をするのだろうか。これにはいろいろな説がある。たとえば、(1)真似た音を個体識別に使うという説がある。(2)自分の縄張りを自種だけではなく、他の種の鳥からも守るために他種の歌を真似るという解釈がある。(3)美男子論があてはまるかもしれない。物真似をして自分の歌をより変化に富んだものにすれば、より多くの♀が誘われて来るのかもしれない。


【追記2】
『擬態―だましあいの進化論〈2〉脊椎動物の擬態・化学擬態』という本の終章で「鳴き真似の世界:鳥類の音響擬態」と題した渾身の総説が読んでみてとても勉強になりました。
・漢字では「百舌」とも書かれるこの鳥は、100種にはいかないが、本州では10〜20種前後の鳥の鳴き真似をする。鳴き真似はたいしたものであるが、聞こえてくる先が、ウグイスが鳴くにはちょっと開けすぎた草原の中の低木だったり、ヒバリの好みそうもない狭い(谷津)谷戸だったり、また時期がオオヨシキリが渡ってくる前だったりする。また、メロディの途中でつい「ギチッ」などと訛ってしまうのである。(p96より)
・日本ではモデルの鳥がモズの鳴き真似に誘い出される様子は観察されていない。(中略)モズの鳴き真似は、モチーフ資源型に属するものではないかと疑われる。(p109より)

・モズの鳴き真似の中に、モズの繁殖地には通常生息していない種類の音声がまじっていることがある。(p110より) 


【追記3】
『モズの話:よみもの動物記』p126によると、
・樹上で鳴くモズの声に反応して水中にもぐるアカガエルを観察している。・飼っていたカヤネズミの近くでモズが鳴くと、ネズミは右往左往して狂躁状態を呈した。

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