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2014/01/24

ニホンザルの屍肉と獣毛を食すフキバッタ



2013年9月下旬

ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#21

2頭の死骸それぞれにフキバッタ(種名不詳)が一匹ずつ居座り、摂食していました。
1匹目のフキバッタは死骸の頭部で眼窩の縁の組織(干からびた瞼?)を齧っていました。
てっきり草食性だとばかり思っていたフキバッタが獣毛や、脊椎動物の屍肉も食べる(腐肉食、屍肉食)とは衝撃的でした。
死骸の掃除屋としてのフキバッタ」というのは私にとって新鮮な発見でした。
飼育経験のある方には周知の事実なのかもしれませんけど…。

もう一匹のフキバッタは左後脚が根元から欠損しており、3日前の定点観察で見たフキバッタ♀(右後脚欠損)と同一個体かと早とちりしたのですが、左右逆の脚なので別個体でした。

関連記事→「死んだ猿の毛を食すフキバッタ♀

これらのフキバッタは檻に閉じ込められている訳ではありません。
金網の隙間をくぐり抜けて、外の草むらと自由に出入りできます。
同時並行で死骸の全身像を微速度撮影した監視映像を見直すと、猿の死骸に居座るフキバッタは何度も繰り返し訪れていることが分かりました。

関連記事→生物分解が一段落したニホンザルの死骸【微速度撮影】
草むらを徘徊中にたまたま檻に迷い込んだというよりも、明らかに屍肉を目当てに続々とやって来るようです。

未採集ですが、もしこのフキバッタの性別および正式な種名(せめて属名だけでも)が分かる方がいらっしゃいましたら教えて下さい。

つづく→シリーズ#22




【追記】
虫好きな私は推理小説の中でも法医昆虫学が登場するミステリを愛読しているのですが、興味深い記述を見つけました。
川瀬七緒『水底の棘:法医昆虫学捜査官シリーズ』p46より
わたしがハワイに留学していたときに、こんなことがありました。腐敗の進んだ遺体が見つかった。遺体についた虫のグループにおかしなところはなかったんですが、なぜかばらばらになったバッタのかけらがあちこちに落ちていた。バッタは屍肉食種の昆虫じゃないうえに、みんな揃って千切れている。


これが重要な手掛かりとなって殺人事件が解決したという話です。
下線部を読んで「でも私(しぐま)は例外を見ているぞ」と思ったのですが、法医昆虫学が扱うのはあくまでもヒトの遺体ですから、体毛の多いニホンザルの死骸に来る昆虫相とは異なるのかもしれません。
また、ハワイよりも日本の里山の昆虫相の方が断然豊かですから、それでも説明できそうです。
もちろん専門書ではない推理小説ですから正確な情報かどうか鵜呑みにはできませんが、個人的な備忘録として書き記しておきます。


【追記2】
現役の法昆虫学者が書いた本、三枝聖『虫から死亡推定時刻はわかるのか?―法昆虫学の話』を読むと、死体を食糧とする昆虫を順に概説した最後に、次のように書いてありました。
ゴキブリ(網翅目)、コオロギ(直翅目)なども雑食性で、死体の軟部組織を食べることがある昆虫である。 (p52より引用)
アメリカに比べて日本の法昆虫学は未だ遅れているのだそうです。





2 件のコメント:

  1. 肉食はコオロギとキリギリスくらいなもんだと思っていましたが、フキバッタが肉食ですか。フキバッタは初めて見ました。翅がお飾り程度で、一見すると前後の見分けがつきにくい姿ですね。

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    1. 確かにコオロギやキリギリスが時に肉食するのは当然だと私も思っていました。
      まさかバッタが屍肉食とは意外でした。

      さて唐突ですが、本シリーズ「ニホンザルの死骸を土に還す者たち」はこれで終わりです。
      この日を最後に檻が撤去されてしまい、傍らに2頭の遺体が打ち捨てられていました。
      檻に守られていないと鳥獣に死骸を持ち去られて四散してしまうので、フィールドでの定点観察は諦めました。
      慌てて無傷の頭骨だけ採集しました。
      頭蓋骨と歯をきれいな標本として残すため、参考書の見様見真似で最後のクリーニング処理(水に浸して腐らせる)しているところです。
      春までじっくり腐らせ完成したら、頭骨標本の作り方を番外編として書く予定です。
      尻切れトンボになったのは残念ですけど、色々と強烈で得難い経験をさせてもらいました。
      犠牲となった猿に感謝…。

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