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2013/02/11

オオフタオビドロバチの泥巣に寄生するヒメカツオブシムシ幼虫

2012年12月下旬

オオフタオビドロバチ?泥巣の発掘

雪山へ冬尺蛾を探しに登った際に、建物の軒下にドロバチの泥巣を見つけました。
そう言えば夏に少しだけオオフタオビドロバチの営巣を観察したんだっけ…と思い出し、泥巣を発掘してみることにしました。

オオフタオビドロバチ?泥巣@軒下

オオフタオビドロバチ?泥巣の発掘1

オオフタオビドロバチ?泥巣の発掘2

オオフタオビドロバチ?泥巣の発掘3:育房内に前蛹

オオフタオビドロバチ?泥巣の発掘4:終了後に巣の跡を採寸

エントツドロバチの初期巣を乗っ取った(再利用?)と思われる変則的な泥巣です。
マイナスドライバーで慎重に削っていくと、中央の育房からはオオフタオビドロバチと思われる前蛹が出てきました。
採集して飼育下で越冬させます。

オオフタオビドロバチ?前蛹(背面)@方眼紙

オオフタオビドロバチ?前蛹(側面)@方眼紙

オオフタオビドロバチ?前蛹(腹面)@方眼紙

ドロバチの巣から得られたヒメカツオブシムシ幼虫


興味深い本題はここからです。
隣の育房には羽化不全のキアシオナガトガリヒメバチ成虫の死骸が見つかりました。
このヒメバチは各種のドロバチに寄生することが知られています。
蛹から羽化する前に何らかの理由で死んでしまったようで、頭部が取れてしまっています。

キアシオナガトガリヒメバチ死骸。
よく見ると育房内部にヒメカツオブシムシ幼虫が潜む(写真中央)。
ヒメカツオブシムシ幼虫@方眼紙

ヒメカツオブシムシ幼虫(腹面+胸脚)@方眼紙



2012年12月下旬・室温19.5℃

更に、極寒の発掘現場では気づかなかったのですが、泥巣の育房や破片を全て持ち帰ると、見慣れない茶色の毛虫が出てきました。
尾端に長い毛束を引きずって歩きます。
方眼紙に乗せて採寸すると体長〜4.5mm(尾端の毛を含まず)。
歩脚は胸部の3対のみ(胸脚)なので、おそらく甲虫の幼虫だろうと見当をつけました。。
調べてみるとヒメカツオブシムシAttagenus japonicus)の幼虫と判明しました。
害虫駆除のサイトによると、本種は衣類や文化財、食品などに加害する悪名高い害虫らしい。

幼虫期間が非常に長く、越冬も幼虫で行う。野外ではスズメやハトなどの鳥の巣から発生している。
ドロバチの育房に潜んで貯食物や蜂の子(特に羽化直前のキアシオナガトガリヒメバチ)を食い荒らして成長したようです。
ヒメカツオブシムシの元気な幼虫1匹の他に、白っぽい死骸のような脱皮殻のようなものも数匹得られました。

ヒメカツオブシムシ幼虫(死骸?脱皮殻?)@方眼紙

ヒメカツオブシムシ幼虫(死骸?脱皮殻?)腹面胸脚@方眼紙


元気なヒメカツオブシムシ幼虫を密閉容器に隔離し、それまで食べていたと思われるキアシオナガトガリヒメバチの死骸および試しに鰹節も少し与えて飼育してみます。
成虫まで育ってくれると嬉しいなー♪


今回の事例のような場合、「ヒメカツオブシムシはオオフタオビドロバチの泥巣に寄生する」と表現して良いのでしょうか?
虫の死骸を食べるscavengerと言うのが正しいのかもしれません。
どのタイミングで泥巣に産卵したのか、育房内にどうやって侵入したのか興味があります。
しかし、いざ実際に野外で調べようとすると至難の業でしょう。


【参考】
平凡社『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p126より
  • ヒメマルカツオブシムシは野外では鳥の巣内の羽毛や古いハチの巣内の昆虫の死骸などを食べている。
  • アカマダラカツオブシムシは野外では、マメコバチの巣筒やマイマイガの卵塊などに見られる。
  • シャーレで飼育していて、餌を切らしたまま忘れて3年ほど放置しておいても、自分の脱皮殻を食べながら生きながらえており、絶食や乾燥には強いものが多い。
 


【追記】
泥巣には生きたガザミグモ♂も潜んでいたのですが、写真などは割愛。
冬越しの飢餓状態で腹部がぺったんこでした。


【追記2】
兵藤有生、林 晃史『招かれざる虫: 食べものにつく害虫の科学推理ノート』によると、
(ヒメカツオブシムシの)幼虫は囓る力が強く、かつお節や煮干しなどの乾燥した動物質の中で生息する。さらに、絹・羊毛の主成分であるケラチンやフィブリンも消化してしまうので、衣類や蚕繭、動物剥製の害虫としても知られている。自然条件での発育所要期間は約10ヶ月。成虫の寿命は20日間ほど。♀は、その一生のあいだに40~80個粒を産卵する。幼虫で越冬して、成虫は年1回、5~6月ころに発生。幼虫は、乾燥や飢餓に著しく強く、成熟幼虫は絶食状態で半年から1年は生存することが知られている。(p114より引用)


【追記3】
林長閑『甲虫の生活―幼虫のくらしをさぐる』を読むと、カツオブシムシ類の幼虫の毛について興味深いことが書いてありました。
ヒメマルカツオブシムシやヒメカツオブシムシは、繊維に含まれるケラチンという物質を消化できることから、毛織物は勿論のこと筆やブラシまで被害をうける。
 ヒメマルカツオブシムシは野外では鳥の巣、古くなったハチの巣などの中に棲み、羽毛や虫の死骸を食べる。他のカツオブシムシとともに自然界の掃除屋である(中略)
 褐色の毛に包まれた幼虫は体長が約3ミリ、ずんぐり肥っている。体の後方の左右に筆先のような毛の束が並んでいる。敵が近づくとこの毛を扇のようにパッと開く。他の昆虫がこの毛にふれると、たちまち毛が抜けて昆虫の体にからみつくことが知られている。(中略)他のカツオブシムシの幼虫にも類似した毛があるので、同じような作用が考えられる。(p161−162より引用)

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