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2012/10/04

ニホンカモシカ幼獣の歩行異常(蹄の病変?奇形?)



2012年7月下旬

里山でつづら折れの廃道を下っていると、先をとことこ歩くニホンカモシカCapricornis crispus)の後ろ姿を発見。
未だ角が細い幼獣のようです。
カーブを曲がって死角に入る度に、足音を忍ばせ小走りで追いかけます。
未だこちらには気づいていない様子。
立ち止まっての撮影と追跡を何度か繰り返しました。
追跡中にうっかり路上の枯葉を踏んだ音で気づかれてしまい、遂にカモシカが振り返りました。
しばしの睨み合い。
やがて何事も無かったかのように歩行再開。
鼻息でフシュフシュ♪と威嚇する行動は見られませんでした。
(幼獣はやらないのかな?)







どうもカモシカの歩き方がおかしい(痛々しい)ことに気づきました。

どこか怪我をしているのか、軽く跛行しています。
乾いた舗装路なのに、頻繁に蹄が滑って足が横に流れます。
写真を見返すと蹄の形状に明らかな異常が認められます。
幼獣は未だ蹄が柔らかいから…なんてことは無いですよね?





また、左脇腹(左前足の付け根)に擦り剥いた後のかさぶたのような、あるいは腫瘍病変のような部位が認められます。
毛皮に付いた泥の汚れとは思えないのですが、どうでしょう?
子別れの際に母親に角で突かれた傷跡かな?


次にカモシカの風土病に罹患している可能性を調べてみました。
パラポックス病(パラポックスウイルス感染症、丘疹性口炎)とはカモシカなどウシ科の動物がかかる皮膚病の一種で、体の粘膜部位(耳、口唇、口腔内、耳介、乳房や外部生殖器)がかかる病気である。 (参考:『ニホンカモシカのたどった道:野生動物との共生をさぐる』p88-93)


口の周りはいたって健康そうですし、今回見られた病変?部位は粘膜とは無関係の脇腹なので、おそらくパラポックス病は除外できるように思います。

次に蹄の異常ということから、法定伝染病の口蹄疫を連想しました。
しかし写真を見る限り、蹄の異常(特に左前脚で顕著)は水疱というレベルではなくて変形している気がします。


ピッキオ著『森のいろいろ事情がありまして』p61に放線菌症の疑いのカモシカ母子の記録が載っていました。
母親は下唇が腫れ上がって毛のつやも悪く、右の前足をひきずっていた。生後1ヶ月ほどの子どもは耳に病気の症状がみられた。放線菌症は動物の口腔内に常在する細菌が引き起こす病気で、尖ったものを口にすることなどが原因で、傷口から感染し化膿を引き起こす。


残る可能性としては、先天性の奇形なのだろうか?
私にはカモシカ幼獣の年齢推定などは無理ですけど、生まれ年によっては2011年3月11日に発生した福島第一原発事故による放射能の影響か?…と隣県なので暗い気持ちになります。
妊娠中または授乳期の母親カモシカが放射能汚染された植物を山中のホットスポットで食べたとすれば、胎児や幼獣への影響は大きく、先天性の奇形や発癌の原因となり得るでしょう。
どなたかカモシカの専門家や獣医さんで診断の付く方がいらっしゃいましたらコメントを頂けると幸いです。


ちなみにニホンジカの話になりますが、
福島の原発事故以降、放射能汚染でシカ肉が食べられなくなった。(中略)放射性物質の影響を考慮し、シカ肉は栃木県全域で出荷制限中(2019年現在)です。 (松田道生『鳥はなぜ鳴く? ホーホケキョの科学』p211より引用)



このまま里へ下りてしまうかと思いきや、カモシカは舗装路を外れると道端の草叢に姿を消しました。
(映像はここまで。)
しつこく追うと、雑木林の急斜面を鼻息荒く駆け上がって逃げました。



【追記】
中公新書『カモシカ物語』p27によると、角が出始めるのは生後約5ヶ月ぐらいかららしい。
今回の幼獣には角があるので、少なくとも生後5ヶ月以上は経っていることになります。

また同書p111によれば、カモシカの交尾時期は11月頃。妊娠期間は7ヶ月で、若葉が萌えだす翌年の5〜6月に子どもを産む。


【追記2】
村田浩一『ニホンカモシカ (くらべてみよう!どうぶつの赤ちゃん)』によると、
生まれてから1年間はお母さんといっしょにすごします。その後も3年ほどはお母さんの近くでくらし、やがてお母さんの元を離れて一頭で生きてきます。 (p25より引用)

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